二十三本目 不死剣マド=エド
本日二本目です。
二十三本目 不死剣マド=エド
人間は明日の不安が無くなれば、更に未来を考え始める。
富んだ者や力を持った者が共通して夢想することがある。
不老不死。
時の権力者は須らくその夢を追い求めてきた。
カディール大陸に、紀元三千五百年頃に覇を唱えたセントレックス帝国の皇帝、カブラヒスイ一世も例外ではなかった。
肉体的な不死が達成不可能であるということは既に知られており、カブラヒスイ一世もそれは諦めていた。
で、あるならば。
死とは何か。
心臓の停止? いや、違う。
脳幹の破壊? いや、違う。
肉体の消滅? いや、違う。
大事なのは肉体ではない。
魂なのだ。
彼は魂の不滅という観点から不死へのアプローチを行った。
何千もの命を使い棄て、何万もの人をただの肉塊に変えた。
その結果出来上がったのが、不死剣マド=エドである。
この剣は、血が滴る肉をどうにか成型して剣の形に拵えたような代物であったという記録が残っている。
想像するだに恐ろしい不死剣マド=エドに、カブラヒスイ一世は(方法は判明していないが)自身の魂を注ぎ込んだ。
彼の身体はその瞬間頽れた。
そして彼は、不死剣を持った者の身体を支配することで、肉体の半永久的な不滅を実現しようとした。
だが冷静に考えてみてほしい。
誰が奇怪な、剣擬きの肉塊に触れるものか。
周囲にいた者は皆、その剣がどのような物か、勿論知っていた。
魂無き皇帝の身体など、誰が恐れるものか。
不死剣マド=エドにこちらから触れない限り、カブラヒスイ一世からは一切の干渉ができない。
加えて彼には全く人望がなかった、いや、既に周囲の心は離れていたと言った方が良いだろう。
国民を無為に犠牲にするような皇帝など、不要だ。
彼が大陸に覇を唱えた当初は持って生まれたカリスマ性で圧倒的な支持を得ていた。
だが、死への恐怖が、不死への欲望が彼を狂わせてしまった。
不死剣マド=エドは地の底に埋められた。
愚帝と堕した皇帝であっても、かつては賢帝であったのだ。破壊することは躊躇われたのだろう。
彼の魂は、今でも不死剣マド=エドの中に存在していると思われる。
ある意味で、不死という夢が叶ったのは皮肉だが、二千五百年以上も剣の中に閉じ込められていれば気が、意識が在れば気が狂ってしまうのではないだろうか。
まあ、誰もその真相を知ることは出来ないのだが。




