二十一本目 鎮魂剣オルケスト
二十一本目 鎮魂剣オルケスト
人は死ぬとどうなるのか。
生きている人間には決して正しい答えが出せないこの問いに、紀元七百年頃の吟遊詩人ヒュリオロネスは一つの答えを出した。
人は死ねば魂となり、永遠に現世に縛り付けられる。
若くして恋人を失った彼は、死した彼女の魂を慰めるために詠い続けた。
しかし、それでは彼が死ねばどうなるのだろう。
彼女の魂が慰められることはなくなってしまう。
魂となり、再び彼女に出逢える保証はない。
ならば、永遠に詠い続けるものを創ればいいのだ。
そうして彼は鎮魂剣オルケストを創りあげた。
永遠に彼女の魂を慰め続けるための剣を。
彼の考えは恐らく間違っていて、そして正しかった。
人は死ねば何らかの形でこの世に残ることがある。
鎮魂剣オルケストは、ひいてはヒュリオロネスは致命的なことを失念していた。
生前恋人が彼の詩を好きであっても、死後も好きでいられるとは限らないということ。そして死者の感想は決して聞くことが出来ないのだということを。
彼女の魂は決して癒えることなく、寧ろ生者の世界を羨み妬む要因になっていたのだろう。
永遠に聞きたくもない詩を聞かせ続けられるのならば、そこは彼女にとって地獄と相違なかった。
ヒュリオロネスはある日、変死体となって発見された。




