十八本目 覇王剣アルカディア
十六本目 覇王剣アルカディア
その剣がいつからそこに在ったのか、誰も知らない。
国が生まれた時には既にそこに在った。
村ができる前からそこに在った。
あるいは人が生まれる前から、その剣はたった一人を待っていたのだ。
覇王剣アルカディアは、紀元五千二百三十年から中央大陸で始まった五十年戦争末期に振るわれた剣である。
この剣は特定の人物に使われることによってのみ、その真価を発揮する。
五十年戦争以前は、中央大陸北西にある針葉樹の大森林の中央に刺さっていた。
覇王剣アルカディアはただ地面に刺さっているだけなのに、誰にも抜くことができなかった。地面ごと掘り返そうとしても固く根が張った森林がそれを許さず、木を火にくべても焦げ付きすらしなかった。
その少女には名前が無かった。
彼女の正体は恐らく戦災孤児であろう。出自不明の少女が初めて歴史に現れたのは、紀元五千二百四十九年、五十年戦争最大の戦いの一つであるカルディアの戦いである。
かつての覇権国家、隷属国家カルディアの残党が起こした武力蜂起から始まったこの戦いは、当時中央大陸に存在した十八国の内、十六か国を巻き込む戦いとなった。
帝王同盟と赤竜同盟、そして藍闘同盟の三同盟による大混戦となっていた戦場に、誰も引き抜くことができなかった覇王剣アルカディアを携えた少女が現れた。
少女は一薙ぎで戦場の半分を消滅させ、もう一振りで残りの軍隊を平らげた。
少女に付き従う者はたったの八名であったが、この戦場の勝者は彼らとなった。
その後僅か一年で覇王パトリオットと名乗った少女とその仲間は中央大陸を平定し、統一国ユラフィスを建国した。
覇王剣アルカディアはパトリオットの為だけの剣であった。
覇王パトリオットが紀元五千二百七十七年に死亡し、覇王剣アルカディアの力が失われると、パトリオットの側近エイカによる他七人の側近の暗殺もあって、統一国ユラフィスは瞬く間に分裂した。
覇王など、この世界には不要だった。
現在も覇王剣アルカディアは統一国ユラフィスの亡都ディカルロットに眠っている。
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