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全国共通魔術教科書第二項 手詰まり(完全拒否)

 そこは、和気あいあいとした秋斗の最も苦手とする雰囲気だった。ドアを開くとまず目に入るのは応接用のソファーとテーブル。左奥にはもう一つの部屋へと続くドアがあり、その手前にはなぜか色々な置物があった。左にはドアが無い部屋がある。ソファーには向かい合って青年が二人と小学生くらいの少女が一人。


 手前には青年と少女が座っており、青年は秋斗より薄い金髪が目立つ青年。少女は茶髪がウェーブした髪型。後ろ姿から見ると、二人は兄と妹のようだ。


 奥に座っている青年はタバコをふかし、気だるそうな瞳が印象的な、なぜか退廃した雰囲気だ。


 三人が一斉にこちらに向く。手前の青年の容姿は整っており、優しそうな瞳が目立ち、雰囲気そのものが柔らかい。金髪とはミスマッチだ。対して少女の方は、勝ち気なつり上がった目、見たことも無いくらいに整った目立ちは、はっきりとしており、刺々しい視線を秋斗に向けている。


 そして、秋斗は少女を見て確信した。


(あれが沙耶って女かよ)


 変な期待は微塵も無かったが、秋斗は相手が小学生だと分かって拍子抜けした。


 少女以外はいくぶんと歓迎したような雰囲気をしており、秋斗は更に拍子抜け。


「はい皆注目してくださいね。これが噂の鮫島秋斗君。ちょっと性格と見た目に難ありだけど、仲良くしてね。特に沙耶ちゃんは」


 ここぞとばかりに香織が声をあげる。最後の方は茶髪の少女に視線を向けて言う辺り、茶髪の少女の名前は沙耶らしい。


 香織は秋斗に顔を向け、皆の紹介を開始する。


「あの奥に座っている、ちょっと人間的に終わってる人が有明志貴さん。で、手前の優しそうな金髪の人が前原晋さんで、正直嫉妬するくらいに綺麗な子供が話しに出た沙耶ちゃん」


「まあ、よろしく」


「よろしくお願いします。前原晋です。皆さんは晋と呼んでいますので、鮫島さんも晋と呼んでください」


「何こいつ、目付き悪すぎ。よっぽど終わってる人生送ってきたのね」


 順に志貴、晋、沙耶だ。志貴はやる気の無い口調で、晋は友好的なにこやかな表情で、沙耶は悪口プラスどことなく秋斗に似た視線を向けて、各々は秋斗を歓迎した。


 秋斗は微妙な表情で面々を見やり、次に香織に視線を送る。


「ここにはまともな奴が一人しかいねえのか?」


「いやだなー、まだ一人いるから安心して」


 疑問の声をあげる秋斗に、香織はケラケラと笑って言う。フォローもへったくれも無い。


 秋斗の疑問に、沙耶が机を叩いて立ち上がる。


「あんた、喧嘩売ってんの?」


「だとしたらなんだよ、ガキが。いきがるな」


「なんだと……この三白眼野郎」


「精一杯毒吐いても、ガキの戯れ言にしか聞こえねえなーおい」


「貴様……!」


 プルプルと震える沙耶に、香織は慌てて声をかける。


「ちょっとちょっと、沙耶ちゃん怒んないで。秋斗もだよ。それに、沙耶ちゃんは私達より一つ下なだけだよ?」


 香織の、沙耶に対するフォローは、秋斗の脳ミソを揺さぶった。


(おいおいおい、まじかよ……あんな高校生、この世に存在したのか……)


 呆然と、何か色々なものを通り越して感動さえ覚えてきた秋斗に、沙耶が再び噛みつく。


「何か文句ある? 私はれっきとした高校一年だけど」


「もはや記念物だな」


 秋斗は自慢気に言う沙耶を見て、ポツリと呟く。




「ちょっと待って何それ! なんで私がこんな男を指導しなきゃならないの!? 」


「んー、正直な話、沙耶ちゃんが適任かなって思ったんだよ。沙耶ちゃんと秋斗君って性格どことなく似てるじゃん? だから、魔術の方向性も一緒かなって」


「私とこいつが似てるっていうのに異議があるわ」


「いやいや、客観的に見たら似てる。だからですね、沙耶ちゃんの魔術、秋斗君に教えてやって」


 懇願する香織に、沙耶はため息をつく。あれから五人はソファーに座り、これからの事を話し合っていた。沙耶にとっては最悪の話し合いだが。


 内容は、鮫島秋斗を沙耶が指導する。そういうものであった。正直、沙耶は秋斗と本能的に気が合わないと悟っている。これは紛れもない事実で、先ほどもそれを証明する言い争いがあった。


 だが、いかんせん香織の頼みだ。魔術歴は沙耶の方が遥かに上だが、年齢が上で明るい性格の香織に憧れにも似た感情を抱いていた。


(香織の頼みだし……いやけど、あの男とは絶対に合わない。指導どころでは無い状況になりえる。だったらいっそ、知識を植え付けるだけなら志貴がやった方が適任かも)


 志貴は見た目に反し、この中では一番魔術の知識が豊富だ。それは同時に強さにまで直結している。間違いなく彼は京香も入れてこの中では最強だろう。


 だったら、その志貴に教わる方がいい。なぜか京香は指導を拒否するし、晋は魔術とは少し違う力の持ち主で、ここにいない後の二人もダメだ。だとしたら、残るは沙耶と志貴だけになるが、知識と性格から見て、どちらが良いかは明白だ。


 志貴に顔を向け、沙耶は提案する。


「ここは志貴が適任だと思うんだけど。知識は豊富だし、私だと間違いなくこいつと衝突する。だったら志貴がベストじゃない? 蓮池は出張だし、秋穂はしばらくあそこから離れられないし」


 その提案に、当の志貴は面倒くさそうに顔を歪める。


「ああ、それダメだわ」


「なんでよ」


 少々高圧的に聞く沙耶に、何を考えているか分からない目をしながら志貴は答えた。


「俺、一応ここのエースだし。稼ぎ頭だし。そんな暇、無いくらい忙しいし。何より面倒くさい」


 最後はどうかと思うが、志貴の言ってる事は当たっている。事実、最強で知識もある志貴は色々な仕事に引っ張りだこで、暇はあまりない。今日だって、たまたま休めただけだ。


(じゃあどうすればいいの……)


 悩む沙耶を見て、香織は気まずそうに笑いながら肩を叩いた。


「まあ、そういう事」


「いや、っていうかそもそも、前提が間違ってるじゃない!」


「前提?」


 疑問の声を出す香織に、沙耶はしてやったりという表情をした。まるで何かに閃いたような顔だ。見え隠れする悪意に気づいたのは、秋斗以外にはいなかった。


「だから、この男が魔術を学び、私達が教えるって前提が間違ってるのよ。そうでしょ? こいつは素人、別に元の生活に戻ってもいい。そして、もし才能が無かったら? それじゃあただの足手まといになるだけ。必要無いじゃない。メリットが無いのよ」


「あー、それはね、沙耶ちゃん、もう取り返しがつかない方向なの。だってね、私昨日の内に先生と協会に言っちゃった」


 その言葉を聞いた沙耶は、もうダメだと頭を抱えた。確かに、取り返しがつかない状況だ。一度申請したものは取り消せない。消せば、この会社の信用にも関わってくる。


(手詰まりだ……)


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