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全国共通魔術教科書第二項 煙(タバコ)

 秋斗はぶつぶつと汚ならしい言葉で文句をいいながら、繁華街を歩いていた。制服のままだと不便なので、一度家に帰り着替えたようで、深く被った帽子は変わらず、上は黒いダウン、下はジーンズとシンプルな格好をしている。


「あの三十路、三十路のクセに調子に乗りやがって。だから行き遅れるんだよ。あんな奴、一生独身のままで独身を嘆いて独身ライフを送りながら一人悲しく独身で死ねばいいんだよ。というか俺がそうしてやる……」


 秋斗は気づいていないが、彼の凶悪すぎる表情は周りを怯えさせ、秋斗の周りは見事に人がいない。人が多い繁華街で秋斗はすいすいと歩いていく。


 今日の放課後、秋斗は京香に呼ばれている。香織を通して、学校から帰ったらすぐに会社に来るように言い渡されているのだ。


 だが、普通の呼び出しにも関わらずイライラする秋斗。


(なんで俺が出向かなきゃいけねえんだよ)


 普通ではない、それが秋斗だ。


 そのまま周りに被害を与えながら進んでいく秋斗は、ポケットに入っている携帯を取り出した。メール画面を開き、受信ボックスを見る。そこには香織からのメールがあり、内容には彼女が働いている場所の住所が書かれていた。


(この通りの、パチンコ屋の前か……)


 今まさにいるのがそこである。左にはセブンというパチンコ屋があり、反対側にはただのビルがあった。


(ここか……?)


 一応、香織に連絡を入れようと、秋斗は携帯の着信履歴から香織の名前を押す。数回コールの後、プツッという音と共に香織の元気な声が聞こえてきた。


「やあ、秋斗君。めぼしい場所には着きました?」


「今パチンコ屋の前だ。早く迎えに来やがれ」


「あはは、分かったよ。じゃあ、そこを動かないでね」


 電話が切れ、秋斗は携帯をポケットに戻す。今は冬で、口からは息と共に白い煙が出た。寒そうに身を震わせ、秋斗はポケットからタバコを取りだし、一本を口にくわえる。先端を焼き、煙を吸い込んだ。




 一方その頃、京香はタバコをふかしていた。不機嫌な表情で、部屋を見渡す。京香は一番奥の社長椅子に座っており、足を組んで尊大な態度でいた。目の前にはドアがあり、部屋はドアと京香の間にソファーとテーブルがあり、両側の面には本棚が置かれているだけのシンプルさ。


 京香はとりあえず、机の上にある黒い灰皿にタバコを押し当てた。同時に、最後の煙を吐き出す。煙は上に行き、次第に空気に溶けていった。


 頭を掻き、大きく息を吐く。これから、本当に嫌なイベントが待っているのだ。これから会う少年の凶悪な笑みを思いだし、京香はため息をついた。


 同時に、疑問に思う事がある。


(あいつ……何で私の事知ってんだ?)


 保健室で会った時は初対面だったはずなのだ。あんな特徴のある生徒、京香が忘れるはずがない。


(まあいいか)


 考えるのを止め、頬杖をつく。京香という人間は基本的にだが大した事を気にしない性格なのだ。


(今頃、こっちに向かってるだろうな)


 人生でトップ5に入るくらいムカつく少年の事を思い、京香はげんなりした。




 目の前のビルから寒そうに出てくる香織を見た時、秋斗はイライラが増した。


「おせえんだよ。何してやがった」


 その文句に、香織は笑いながら謝罪する。


「いやー、中々に寒そうだったから、部屋で温まってた」


 ピクッと口元がひきつり、秋斗は頭を押さえる。


「なんだと……? てめえ、俺が凍えてる時に部屋で温まってた? 殺すぞクソチビ」


 チビという言葉に、香織はピクッとくるが、すぐに弁解する。今回ばかりは自分が悪いと思っているのだ。なんせ、秋斗から電話をもらってから準備を始めるまで、十分。


「ごめんって。それより、右手に持ってる見覚えのあるものはなに?」


 香織は秋斗の手にあるタバコを見つけ、咎めるように言ったが、秋斗は気にしない。


「見てわかんねえのか、低脳。さすがは脳のサイズから身長までミニマムサイズのチビだなーおい」


 香織はそんな秋斗を見て、思う事があった。


(秋斗君って、もしかしたら沙耶ちゃんよりめんどくさいかも)


 頭を抱えたくなった香織を尻目に、秋斗は彼女が出てきたビルを見た。何の変哲もない、ただの五階建てのビル。まさかここに怪しげな魔術師集団がいるとは誰も思わない。


「おい、早く行くぞ」


「あ、はいはい」


 ビルに向かう秋斗に、香織を小走りで近づき横に並ぶが、それを確認した秋斗は立ち止まる。


「どうしたんですかい?」


「隣に並ぶな」


「……へ?」


「聞こえなかったのかクソアマ。隣に並ぶんじゃねえ……!」


 秋斗の殺気だった目を見て、香織は心臓が跳ねる。ただならぬ、明らかにただ怒っているとは違うような秋斗に、香織は恐怖を抱いた。


(何よ……これ)


 仲間の誰にもこんな恐怖を抱かせる程の目をした者はいない。秋斗が元々持つ鋭い目ではなく、そこから真っ黒な感情がある目が、香織は怖いのだ。


「わ、分かったよ。じゃあ、案内するから着いてきて」


 恐怖を隠すように香織はビルに入っていった。それに、落ち着いた様子の秋斗は舌打ちをし、着いていく。タバコを後ろに投げ、地面に落とした。


 後に残ったタバコは、残り少ない命の火を懸命に燃やしていた。

書いてて、秋斗の性格が本当にめんどくさい事が判明しました。

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