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全国共通魔術教科書第一項 憤怒(ぶちギレ)

「うるせぇェェェ! うるさいんだよ、さっきからごちゃごちゃごちゃごちゃ意味の分からん事を言いやがって。なんだ、魔術? どこの怪しいオカルト宗教だ? テメェは何か、ちょっと頭のイカれたチビ自称魔術師って事か? あ!?」


 すると、香織は少し怯んだ表情を見せる。並の男ならイチコロな表情だが、秋斗には通用せず。


「んだよその顔は。今度は変顔か? 笑えねえ、スッゲェ笑えねえんだよ」


「へ、変顔じゃない!」


「はっ! 変顔じゃなかったら何だってんだ? やっぱりかなりイカれた頭だなーおい。おっと、必死に否定いいぜ」


 むむむ、と頬を少しだけ膨らませる香織に、秋斗は舌打ちを一つ。


(不機嫌なのはこっちだっての)


「とりあ……え……ず……」


 再び会話中断させ、元の路線に戻そうと秋斗は口を開くが、それは続かない。良く彼女を観察したからだ。それは明らかに見慣れたような服装、まさしく秋斗が通っている高校の制服であった。


(おいおいおい、まじかよ。こんなイカれ女、学校にいたか?)


 香織のような者がいれば、有名だろうと思っての思考。見た目は人形のような紛れもない美少女、性格はかなり印象深い。奇妙な口調も相まって、更に印象を深くさせる。


 ふと彼女を見て、秋斗は再び喋りかけようとするが、先に香織が話始めてしまった。首を傾げ、香織は不思議な表情をする。


「あれ、あなたはもしかして私の通っている学校の生徒さんでありますか?」


「だからなんだよ」


「いやいや、顔が良く見えないので。私、目が悪いから」


「ちっ! そうだよ。何か文句あっか?」


「文句何か無い無い。けど、ちょっとヤバいかも」


 明るい口調とは裏腹に、真剣な表情で押し黙る香織を見て、秋斗は顔をしかめる。


「何だってんだよ」


「あのね、魔術師って世間一般ではいるかいないか、微妙な位置にあるでしょ? それは魔術は誰でも使えるからなの。才能はあるけど、使えるだけなら使えるから。それでね、一度魔術師がいるって認識されちゃったら、それだけで魔術が使える可能性が出てくる。だから、万が一の事を考えての微妙な位置。もし魔術師を確認されても、理解が出来なかったら使えない。つまり、魔術師を最初からオカルトの、現実科学から外れた存在にしたの。もしそれだと魔術師に会っても大丈夫。だって、非現実だから。信じないから」


 でも、と香織は言葉を繋げ、少しだけ間を開けてから再び話し出す。


「あなたは驚かなかった。魔術師の存在を知っても、あなたはキレるだけ。心の底では理解してるわけですよ。だから、ヤバい。備えあれば憂いなしって事で、一応上の組織に方向していいですよね」


 口調は聞いているが、有無を言わさない声色。真剣な表情も相まって、それは秋斗に拒否権が無い事を示していた。


 しかし、それは気に入らない。拒否権が無い、つまり自分の意思が通じないのが、秋斗は嫌いだった。自己中心的、まさに秋斗がそれ。


 秋斗は近くにあるゴミ箱を蹴り、更に凶悪な表情を作る。思考、このまま相手に思い通りに突き動かされるのは腹が立つ。だから、何か一矢報いる為の方法。


(これしか、思い付かねえ……)


 秋斗の脳裏によぎったある取引。確かに良い取引であるが、これもまた予想出来る事だ。


 しかし、ものは試しで秋斗は重々しく口を開いた。


「聞いたのが仇になったよなー。いくつか条件がある。まず一つ目、俺に魔術を教えやがれ」


 だが、予想外にも香織は慌てた表情を見せる。何なんだと、秋斗は眉をひそめた。


「いやでも、魔術っていうのは資格が必要でして……まあ、ある意味、実力史上主義の職業なんですよ、はい。そこで問題になるのが新人の育成。足手まといになる新人を、どうやって育成するか? それは、自主的に学んだか、学校に通っている魔術を使える新人を引き入れる。そうすれば、少なくとも足手まといにはならないし、成長も早い。けど……さすがに素人の中の素人は……」


「はっ! お前勘違いしてやがる。魔術師を知った時点で俺は関係者、素人の中の素人じゃねえんだよ。しかも、お前が言った事は組織での話。お前個人が俺に教えれば何も問題はねえじゃねえか」


 そう言うが、秋斗にはある考え。


(このアマ、あからさまに話を違う視点から話して断ろうとしてやがる)


 それは、香織の挙動にも見てとれる事だ。明らかに動揺し、何かを考える仕草。もうバレない方がおかしいレベルに動揺している。


「えーとですね、けど……あの、その……うー」


 もう何も思い付かないのか、可愛らしい唸り声を上げて俯いた。心なしかげんなりした表情をしているが、秋斗には関係無い。


「で、問題無いな。よし、この話はついた。残りの条件はお前が上に報告してからだ。魔術師志望の若者がいましたってな。ほら、連絡先交換だ」


 そう言って、元気の無い香織に無理矢理連絡先の交換を要求。香織は緩慢な動きで携帯を取りだし、赤外線通信でアドレスも番号も登録完了。香織は重いため息を一つ。


 一方の秋斗は、ニヤリと笑う。連絡先さえ確保してしまえばこちらのものだ。万が一、この連絡先が嘘だとしても、学校で会える。


(まあ、そこまでバカじゃねえだろ)


 そう思い、秋斗は家路につく。


「ちょ、ちょっと待って!」


「今日は疲れた。話は明日だ」


 早足で去る秋斗に向かい、香織は頬を膨らませた。




 翌日、秋斗は早速香織のクラスを調べようと、動いていた。昼休みになり、ようやく手に入れた情報を元に、香織の教室を目指す。


 香織は秋斗と同じ二年らしく、そのクラスは隣。


(まあ、気づかねえのは無理ないか)


 頭を掻いて納得する秋斗。良く考えれば秋斗は、学校すらまともに来ていないのだ。出席日数ギリギリのラインを保ち、去年も進級出来た。


 息を吐き、ポケットに手を突っ込む。目の前には香織のクラスである7組のドア。7組は階段の横にあり、人が多く流れてくる。その誰もが人喰い鮫である秋斗を恐れの目で見た。


 そんな事知らねえとばかりに、秋斗は足で乱暴にドアを開けた。クラスの生徒達は固まり、硬直。


「香織ってチビ女はいるか? っつーか出せ」


 そして、再びクラスは動き出す。全員総出で、同じクラスの女子と喋っていた香織を前に差し出す。さしずめ、生け贄だ。


 香織は怒りの表情を浮かべて秋斗を睨む。


「ちょっと乱暴すぎやしないかい? っていうか、私をチビって言うなァァァ! この小ザメ!」


 その言葉に、クラスの生徒達は教室外に避難。秋斗は何本かの血管が破裂するような錯覚を覚えた。俗に言えばキレたのだ。


「んだとゴラァァァァ! ブッ殺ォォォス!」


 そう言って、秋斗は香織に飛びかかる。ギャラリーも、誰もが香織が殺られると確信した直後、事は起きた。


 秋斗、盛大すぎるくらいに転ぶ。


 不自然な形で、前に向かっていたはずなのに、後ろ向きに転んだのだ。秋斗は転んだ瞬間、前から足が引っ張られるような感じがした。


 ガシャンという音を立て、周りの机を巻き込みながら倒れる秋斗。彼は本能的に感じとる。


(これが魔術かよ……)


 秋斗、魔術を始めて体験した瞬間であった。

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