全国共通魔術教科書第一項 現実(リアル)
新しい作品です。本連載が道連れ召喚とこちら。残りは気が向いたら更新です。
魔術とはこの世にある法則に反する事なく、逆らう事なく少しだけいじる力だ。魔術に必要なのは、理解と知識だけ。知識はあるが理解は出来ないのでは話にならない。かといって、理解はしているが知識が無いのはもっといけないのだ。
全国共通魔術教科書第一項目から──。
*
鮫島 秋斗は理解出来ずにいた。
「だーかーらー、何度も言ってる通り、私は魔術師なわけで、ちょっと苦手な浮術に失敗した結果、ここにいるわけです」
目の前の少女──香織と名乗る彼女は言った。黒い肩の下まてある髪をストレートにおろし、目鼻は整い、まるで人形みたいだ。というのも、彼女には身長が無い。見た目、小学生にしては大人じみているが、中学生にしては子供じみているという何とも微妙な見た目である。
そんな香織は今、秋斗の目の前で熱弁していた。
「いやね、魔術は結構というか、かなり優秀なの、うん。けど、浮術だけは……いや、浮術だけじゃないけど、そういう補助的な魔術は苦手な訳で……って聞いてますか?」
秋斗は頭を押さえ、舌打ちをした。
──めんどくせぇ。
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その日、秋斗は真っ直ぐに学校から帰路にはつかず、苛立ちを露に道を歩いていた。もう下校してから二時間は経ち、周りは暗くなっている。
ポケットに手を突っ込み、鋭い目を周りに向ける。
秋斗の見た目は中肉小背で少し特徴が濃い顔立ち。だが、周りはそんな可愛らしい印象を彼に抱いてはいない。特徴が濃いというのは、彼の目にある。恐ろしく、凶悪なまでに鋭い三白眼。人相的には最悪だが、それを更に悪くさせるのは目深く被った黒い帽子と、はみ出した長い金髪。もう見た目はどこかの犯罪者だ。
しかし、犯罪者と匂わせる彼、黒い学ランを着ていた。ということは中学生か高校生である。胸元の刺繍を見れば、彼が高校生だと分かる。
そんな秋斗は見た目の印象を裏切らず、口が悪く短気。喧嘩が恐ろしく強い事と、名前からきたあだ名は人喰い鮫。
だがこの日、秋斗にとってとても不愉快な事が起きた。不愉快だけなら毎日のように起きているのだが、今日はとても不愉快な出来事だったのだ。
その出来事というのは、ただ単に秋斗が売った喧嘩に、相手が買わなかっただけ。普通の人ならここまでイライラする事も無いが、いかんせん問題なのは秋斗だ。
秋斗とて、そりゃ普通に逃げられたならここまで苛立たない。しかし、相手の逃げ方はイライラするのだ。相手は、秋斗の顔を見た途端に震えだし、
「人喰い鮫ェェェ!? すみませんっしたァァァ!」といって逃げ出した。
秋斗が気に入らないのはあだ名ではなく――人喰い鮫というあだ名は自分にピッタリだと対して気にはしていない――秋斗の姿を見ただけで逃げ出す事。不思議に思った秋斗は、周りに無理矢理いちゃもんをつけて喧嘩を売るが、どれも同じ結果。
調べてみたら、人喰い鮫の異名は有名らしく、逆らえば喰い殺されると評判だった。
秋斗は、その事に意味もなく腹がたった。
そんな時、もう人気もない路地裏を歩いている時、上空から何かが降ってくる。何かを叫び、悲鳴をあげながら降ってくるそれに、秋斗は視線を向けてギョッとした。
降ってきたのは人。紛れもなく、悲鳴をあげながら落ちてくる人であった。
*
その後、秋斗が降ってきた目の前の少女を問い詰めると、このような意味の分からない返答が返ってきた。
「──だから、結論を言えば私の魔術においての成績は極めて優秀であると証明さるる。そこら辺、分かっていただけました?」
もう彼女の言葉に、リアルという文字は皆無だった。