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Lily connect  作者: 加藤忍
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第二十六話

「ただいま」





 商店街を出てからはすぐに家に帰ってきた。二人の予定では豊海神社も今日行く予定だったのだけど、明日のお祭りで行くからいいということになった。





 もし美夢が商店街の掲示板を見なかったとしても、神社で祭りの準備をしているところを見て同じような流れになったと思う。





 お前たちはお祭りに行く運命なのだ、と豊海神社に祀られた神さまにでも言われているような気がした。





 家に入ると私たちより大きい黒い革靴が玄関に置かれていた。長々と履かれた靴から汗臭い匂いがする。





 私はすかさず下駄箱の中にあるファブリーズを取り出し、鼻を摘んでから靴に二、三回吹きかける。そしてど真ん中に置かれたそれを玄関の隅に追いやった。





「遥華ん家もか」





 後ろで一部始終を見ていたいずみが両腕を組んでうんうんを頷いていた。





「お父さんの靴ってこの時期特にきついよね。私たちのために働いているとはいえ・・・ねぇ?」





「そうなんだよね。放置していると玄関自体が臭くなっちゃって」





 この年頃の女の子のよくある話でお互いの共感を得ているとリビングのドアが開いた。





「玄関で何しているんだ?」





 白いワイシャツに黒いズボン、おでこからは短い髪では隠せない汗が見える。





 パパは玄関で話し込んでいる私たちを不思議そうに見ている。





「パパ!また靴をファブってなかったよ」





「あ、そうだったか。それはすまない」





 本当に申し訳ないと思っているのか、パパは首に手を当てながら苦笑している。





 このやり取りは何回目だろう。数えるのも面倒なぐらい同じことを言っている気がする。





 私とのいつもの会話を終えるとパパが私の後ろにいる二人に目を向けた。





「いらっしゃい美夢ちゃん、いずみちゃん」





「「お邪魔してます」」





 二人は軽く頭を下げた。





「じゃ、風呂入って来るから」





 そう言ってパパは風呂場に向かって行った。私たちは靴を脱ぐとリビングに入った。







 二人の新たな生活や学校について聞きながら食事を終えた私は美夢といずみを先に風呂に入れさせた。パパはシャワーを浴びたようで、食事中に浴槽が満タンになったことを知らせる音がピーピーとなっていた。





 二人がいない部屋でベットに横になっていると勉強机に置いていたスマホがブーブーと揺れだした。





 マナーモード状態のスマホを手にとって耳に当てる。





「もしもし遥華、今時間いい?」





 いつも聞いていて飽きる事のない声が電話越しに聞こえる。





「いいよ。でも後で風呂に入るから途中で切るよ」





「わかった。それで聞いてよ遥華!」





 いつもこんな感じで私たちの会話が始まる。どこの女の子もこんな感じだろう。目的もなく、ただお互いが言いたいことを言って、それを聞く。ときには同意して、ときにはアドバイスをあげる。そんなたわいもない会話。





「今日さ、帰りに買った私の高級プリン、今日の風呂上がりに楽しみにしてたのに、お姉ちゃんが全部食べちゃったんだよ!しかも謝罪もない!あのプリンあっちしか売ってないのに」





 今日はお姉さんとの喧嘩の話らしい。楓のお姉さんは楓とはうって変わって可愛いというより綺麗な人だ。見た目はそんなに変わらないけど年上の魅力だろうか、大学生らしい女性らしさをまとっている。会ったのは去年の文化祭のときだけだけど。





「今度からプリンの蓋に名前を書くとか、家族にわからないように別のもので隠しておくとかしたらどう?」





 私もたまにパパに似たようなことをされるのでその対策法を楓にも教えた。楓もそうしてみると言ってこの話は完結した。





「それで遥華、明日空いてる?」





「明日は・・・」





 答えようとしたときガチャッと部屋のドアが開いた。





「ハルちゃんお風呂ありがとう」





 タオルで濡れた髪を挟んで丁寧に拭く美夢が姿を現した。階段の方からは誰かが上がって来る足音も聞こえる。





「ハルちゃん?」





 電話の向こうから楓の不思議そうな声が聞こえた。





「ごめん、後でまた電話する」





 そう言うと楓は納得はしていないだろうけどわかったと言ってくれたので通話を切った。





 その様子を見ていた美夢があ!と何かを察したような声を上げた。





「ハルちゃんごめん。彼氏からの電話中に」





 美夢がなんだか申し訳なさそうにそう言った。それを聞いていたいずみがえ、彼氏!と食いつく。





「そんなんじゃない。ただの友達」





「そっか、彼氏じゃないのか」





「そうだよ」





 いずみがなんでそこでがっかりするのかは分からなかったが、ひとまず誤解を解くことが出来たので私は風呂場に向かった。


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