第1話:夢
直斗ォーーー。
誰かが俺の名前を呼んでいる。
「一ノ瀬直斗ォーーー。聞いてるかー。」
「ふぁ〜い。」
直斗は欠伸をしながら言った。クラスからくすくすと笑い声が聞こえる。
「エ〜、そのプリントは20日までに提出するように。」
キーンコーンカーンコーン。終わりのチャイムが鳴った。
「エ〜、テストまであと5日なので、寄り道しないように。エ〜、以上です。」
そう言い終えると、教師はさっさと教室を出ていった。
ここは私立神谷高校。そして、今3−DのSHRが終わったところである。
教師が出ていった途端、クラスがざわつき始めた。
「直斗ォ、一緒にどっか行かないか。」
いきなり教師の捨てゼリフを無視している。
「ふぁ〜。ああ、陽介か。ん、まあいいけど。」
彼の名前は、多軌 陽介という。一ノ瀬直斗とは中学からの同級生で、親友でもある。
直斗はまだ眠たそうに言った。何か夢を見ていた気がするが・・・思い出せない。
陽介はそんな直斗に呆れている。
「直斗〜まだ眠いのかよ。ほら一発。」
バチーン。クラス中に響いた。陽介は直斗の背中をおもいっきり叩いた。
「いって〜。おもいっきり叩くなよ。お前はほんっとに・・・。」
「まあ良いじゃんか。えぇっと〜何だったっけ。」
「おいおい、どっか行くんだろ。」
今度は直斗が呆れている。
「あぁそうだった。よし、じゃあ行くか!」
「はいはい。」
そう言うと、直斗は帰り仕度を始めた。帰り仕度を終え教室を出ると、陽介に急かされながら2階の階段を歩いていった。
タッタッタッタッ。
後ろから足音が聞こえる。
タッタッタッタッタッタッタッタッ。
その足音は次第に速くなっている。直斗は念わず振り返った。その時、
ドンッ!
そいつのバックが直斗の肩にぶつかってしまったのだ。
「おい、ちょっと待てよ。」
直斗はそいつを呼び止めようとした。けれど、そいつは無視して、そのまま階段を駆け降りて行った。
「おい、なんだよアレ。」
直斗はそいつの去っていく姿を見て、陽介に嘆くように問う。
「ああ、あいつは確か・・・水無楓だよ。隣のクラスの。なんか学年一位の成績で、相当変わり者らしいぞ。全部聞いた話なんだけど。」
「へぇ・・・そんなやつ全く知らん。」
直斗は少し落ち着いたようだ。
「おいおい、結構有名人だぞ。教師に・・・。」
「あぁ〜〜。もうこの話ヤメヤメ。考えるとまた腹が立ってきた。」
「お前が言い出したんだろ。まあ、いいけど。」
陽介が何か言いたげだったが、もうその話は終わりだ。二人は違う話をしながら校門を出た。
あっ、そういえば・・・
「ん、何か言ったか。」
「あのさ陽介、さっきのHRの話って何?」
「あ〜、ハゲ松が言ってたやつ。お前、お昼寝中だったもんな。」
ちなみに、ハゲ松とは担任の長松のことである。
「確か・・・進路調査のことだってよ。来週の金曜までに出せってよ。」
陽介は投げやりに言った。どうやら、思い出したくないらしい。
「進路調査ね〜。また面倒臭いのがきたな。」
直斗も厭そうに言っている。
「あと、提出日までに出さなかったら、居残り喰らうらしい。」
直斗は更に落ち込んだ。どうやら『出さない』という選択肢はなさそうだ。
「陽介は書くことある。」
「全然。」
陽介は考えることもせず即答した。お前はこの三年間何をしていたんだ。そうつっこみたくなるところだが、それは自分も同じなので人には言えない。
「そうだよな。教えてくれてどうも〜。」
直斗はそう言うと、また別の話をしながら歩いて行った。
陽介と街でブラブラしてから家に帰ると、そのままベットに倒れ込んだ。
進路か〜。俺の夢って何だろう・・・
そう思いながら直斗は眠りに就いた。




