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かつての東の開拓団代表はその重さを知る

「えー、リリーナ」


「はい、そうです。敬称などは必要ありません。そのように呼んでください」


「しかし事情を知らぬ三者がいた場合や、公式の場では駄目だろう」


「その場合は好きに呼んでくださって結構です。基本的には敬称などは付けずに呼んでください」


 先の挨拶の失敗により、異変に気付いたリリーナにより事情を全て暴露させられた。

 どうやらリリーナさんと呼ばれたことで過去の、私がリリーナを無視していた頃を思い出し、感情的にさせてしまったようだ。

 なので暴露させられたし丁度良いと、リリーナに直接どうして欲しいか尋ねてそれを実践している最中。


「おじさんは私に遠慮なく話しかけてきてください。いつも言葉に迷いがあるように思っていました。考える必要なんてないんです」


「あー、はい。難しく考えず。分かりました」


 本当にそれが正しいのか、と思うことはあれどリリーナ本人がそう言うのであれば間違いはないはず。

 それに、下手なことを言っても拗れる気がした。

 今は唯々諾々とリリーナの意見を受け入れ、後で私なりの答えを考えるとしよう。


「では今度はおじさんの番です。おじさんが私に直してほしい場所、要望などがあればお聞きしますよ」


「……特にないな?」


「ないんですか?」


 一切ない。仕事の関係であれば直してほしい部分などは出てくるだろうが、知人、友人の関係であれば様々な部分を含めてその人であると考えているし、受け入れている。

 直してほしい、などと考えたことはないな。それはリリーナだけではなくグレイなどにも当てはまり、特に考えたことは……。


「ああ、バリッシュさんには一目の付く場所でイチャイチャするな、とは思ったことはあるな」


「ああ……。あれはちょっと、目のやり場に困りますね。それとグンズとバルカも一緒にいるときに険悪になるのは止めてほしいですね。コハクを出てからそんなことはない、というか別のことで思い悩んでいるようですが?」


「グンズとバルカが? 何を悩んでいるんだ?」


 頭でっかちのバルカはともかく行動力だけあるグンズまで思い悩むとは珍しい、とリリーナに話を聞いてみれば。


「……は? 奴らは何を勘違いしているんだ?」




 人には器があり、俺には人よりもでかい器がある。そんなことを考え始めたのは一体いつ頃だったか?

 村の近くに魔物の群れが現れたため若い奴らを引き連れて迎撃に出たときか、隣村から助けを求められたときに大人が助けに行くか相談して悩んでいる間に一人飛び出して、ギリギリのタイミングで到着して隣村を守ったときか。

 即決即断。それこそ俺のモットーで、間違えたことはなかった。


 だから開拓団の話を聞いた時に迷うことなく志願した。俺なら、人を幸せに出来る。俺なら、貴族として立派に働けると思って。

 しかし現実は違っていた。俺よりも凄い人がいた。人を幸せにするためにどうすれば良いか明確な考えがあった。

 漠然と人を幸せに、何て考えていた自分が小さく思えた。


 勿論、ただ凄いと遠めから眺めていただけじゃない。俺なりに考えて、少しでもその凄い部分を吸収しようとした。

 そんな中で、俺が開拓団の中で一番凄いと思っていたルルクス伯爵から開拓団を譲られた時はやはり自分には器があると思った。

 人を導く才能があるんだと、思ってしまった。


 その結果は酷いもので独断で作った港町はほとんど機能せず、東の開拓団もまとまりがなくなり前に進むこともままならない。

 勘違いしていた俺は間違いなど認められるはずもなく、俺なら何とかなると言い聞かせて無理矢理進もうとした。


 そんな時にやってきたのが、ルイス公爵令嬢のリリーナだ。それもルルクス伯爵の代理として。

 認められるはずがなかった。ルルクス伯爵から任されたのは俺だ。俺が東の開拓団の代表なんだ。


 しかしそんなガキのような思いなど通用するはずもなく、次の日にはほとんどの者がリリーナを代表とすることを認めていた。

 敗因を上げればキリがないだろう。それでも一つだけ挙げるとすればそれは覚悟の差だ。


 人の上に立って人のためになろうと考えていた。しかしリリーナが突きつけてきたのは人の上に立つと同時に、その人たちの下に立ち命を含めた全てを背負う覚悟。

 自分の行動が人を幸せにするのだと思ったことはあったが、行動一つで逆に人の命を奪うことになるまでは考えたことがなかった。

 その覚悟を持って上に立っていたリリーナを、俺はその時にようやく認めることが出来た。ルルクス伯爵と同じ、凄い奴なんだと。

 だから今度も、今までのように見て学ぼうと獣人の国に付いて行ったが、そこで見たのは国主、言うなれば王様を相手に一歩も引かないリリーナ。

 正確には護衛として同行したため聞いていただけだが、言葉だけでも一歩も引かないどころか踏み込むような強さも見せてくれた。


 全てが終わり、こうして帰路についている間に思い出し、考え悩むのは自分のこと。

 俺は何も出来なかった。護衛として補佐することも、人の上に立つための勉強として満足に学ぶことも出来なかった。


「はあ」


 何度目のため息か。自分の不甲斐なさを見せつけられただけで終わり、そのことを思い出すたびに溜め息が出る。


「はあ」


 ほらまた、と思ったが今回のため息は俺ではなく、隣を歩くグンズだった。

 そういえばこいつも俺と境遇に大差はないだろう。俺に良く突っかかってきたが、今思えばグンズの言い分にも一理あった。

 

「何の役にも立てなかったな」


「……そうだな、もっと出来ると思っていた」


 顔を合わすたびに衝突してきた仲だが、今は軽口を叩いている余裕はない。今はどちらかと言えば、自らの無力な感覚を共有できる数少ない存在かもしれない。


「何を言っているんですか、二人とも?」


 などと思っていたら先頭にいたリリーナが話を聞いてかこちらにやってきた。

 役に立てなかったことに対する叱責だろうか、などと思っていれば。


「次は貴方たち二人が主導して行くんですよ?」


「……はい? 次? 俺たち二人が主導して、とは?」


 予想していたこととまるで違うことを言われ、戸惑いながらも聞き返す。


「次に獣人の国に行くとき、つまり使節団が派遣された場合、貴方たちが先導しなければなりませんよ?」


「リリーナ、さんがするんじゃないんですか?」


「代表となる使節団がいるのに開拓団の代表が同行する理由がありません。道案内や獣人の国について説明などは一度そこに行ったことのある者に任せるべきでしょう? それに、私もいつ王都に呼ばれるか。そうなれば東の開拓団に戻ってくることはないでしょう。その時はグンズが代表に、バルカが支える元の形に戻るだけですが」


 突然の言葉に一瞬頭が真っ白になった。

 俺が代表に戻る? リリーナはいなくなる?

 獣人の国行きが決まる前の俺であれば歓喜するような内容だが今は逆。血の気が引くほど恐ろしい。


 自分にリリーナの代わりが務まるかと言えば無理。リリーナのように王国のことを考えながら獣人の国と付き合っていく自信がない。使節団が話し合うだろう、とはいえそれはまだまだ先。その間は俺が獣人の国と話をしなければならない。

 それに東の開拓団も分裂するだろう。分裂した派閥がダイリに接触したら、コハクが交渉を有利に進めるための悪巧みに利用されたら。

 想像するだけで恐ろしい。


 人を幸せにする立場なのだと思っていた代表の肩書き。しかしそれは同時に人を殺し、不幸にする肩書きであると知った今、非常に重く感じた。


「私に、務まるでしょうか?」


「代表がですか? 今まで代表だったはずですが……。まあどちらにせよ、務まるか、務まらないかではありません。上に立つ以上、務めるんです。貴族として、召喚主としてそうあるべき時になれなかった私の言葉では説得力に欠けるかもしれませんが」


 またもや見せつけられた覚悟の差。出来る、出来ないではなくやるという覚悟。

 そしてリリーナでも失敗をするのだと聞いて、少しだけ気が楽になった。失敗をしない奴などいないのだと。

 気が楽になったことで、視野が広がり考えが生まれた。

 代表の肩書きは確かに重い。しかし重いからと誰かに譲れるかと問えば否。バルカを含め、開拓団にいる面子では代表の重さを知り、きちんと務められるとは思えない。


 俺がやるしかない。


「……そうですね。ありがとうございます。きちんと務めて見せましょう。獣人の国については戻り次第情報をまとめ、道案内も迷わないように看板を用意します」


「ああ。それについてですが、やや遠いので中継地点となる町を作りましょう。これについてはすでにコハクと話を終えていますので、港町とコハクの町の中間の辺りにお願いします。ついでに策を弄しましてダイリが直接的な妨害に来るように仕向けてあります。ですので召喚獣など出来る限り戦力を増強しつつ、町を作るのに適した立地の場所を探してください。ああ、魔物は警戒しても獣人を警戒していることは気づかれないように気を付けてください。襲われて迎撃をしたと言うのが重要なので」


 驚くことに、リリーナは自分がいなくなると言いつつも色々と手を回してくれていたようだ。確かに港町から、開拓団の砦からでも獣人の国はやや遠い。それに魔物が生息する平原を突っ切るような道だ。戦える者でなければ危険な道。

 中継地点となる町は必須。しかし防衛の観点から言えば中継地点となる街を作るなどコハクは難色を示すはず。それを既に話を終えていたとは。しかも、あの敵対的だったダイリを罠に嵌めてあるとまで来た。


 ここまで用意されたのだ。失敗するわけにはいかない。


「では戻ったらすぐにメンバーを選抜して準備します」


「急ぐ必要はありませんよ。ダイリもすぐにこちらの妨害に動けるとは思いませんから」


 そうか、ダイリの行動を考えてから動かないと折角の策が無駄になるのか。

 これ以上リリーナに迷惑をかけるわけにはいかない。これは意地でもあり、恩でもある。王都に呼ばれるまでの間は何の問題もなく過ごしてもらいたい。


 しかしそんな思いも空しく、開拓団の砦に戻った直後。


「ご報告があります。代表の管理下にあったサラマンダーが召喚主であるケープ・ラス・リッターに攻撃を加え、怪我をさせました。そのため危険と判断して捕獲、拘束しております」


 すでに問題が待ち構えていた。


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