最高筋力の持ち主は勝利を確信している
冷静に、平原で戦った時のようにその身体能力で私を翻弄するように動けばまだ戦えていただろうに。
「馬鹿な、ぐ、うぅ……。見えたのか……」
「当然です。確かに良い突撃ですが、かつて戦った細剣の使い手の突きの方が鋭かった。もっと……。いや、今更か。降参して頂けませんか? 十分に分かったはずです」
「ふざけっ……! 負けなど……!」
残った左の爪で懸命に抵抗するが、ハードスキンが発動している以上利き手でない左の爪では傷をつけることは出来ない。
負けを認めないのであればこのままと言うのも不憫。手を離すのも侮辱だろう。故に。
力任せにダイリを持ち上げ、受け身すら取れないように顔から真っ逆さまに叩き落す!
ドンッ、と大きな音と共に庭園に柱のようなオブジェクトが誕生した。
「ダイリッ!」
すぐにダイリの護衛の獅子と虎の獣人がダイリを回収し、寺へと運ぶ。派手に見せたが下は土。節々に痛みは残るだろうが夜には目を覚ますはず。
これで良かったのか、とホンドーに目を向ければ何やら狐の獣人、コハクと悪そうな顔で話をしていた。
今度は誰が犠牲になるのやら。可哀そうな犠牲者の冥福を祈りながら私の勝利を祝福してくれるリリーナたちの元へ向かう。
……これならルリを連れてくれば良かったな。
目を覚ませば見知らぬ天井。
起き上がると同時に頭と首に痛みが走る。だが痛みのおかげで思い出せた。
「……そうか、負けたのか」
完敗だった。何も出来なかった。あの男の膂力は凄まじく掴まれた時点で逃げられないと悟った。おそらく、首を握りつぶすことも出来たのではないだろうか。
久方ぶりの敗北。悔しい思いはある。しかしそれ以上に自分の行いを反省しなければならない。
頭に血が上り単純な攻撃をしてしまった。あれでは負けて当然。
「ダイリ? 起きたのか。身体は大丈夫か?」
「おお! 心配したぞ」
隣の間で待機してくれていたのか、かつて国主の座を巡り争い今は護衛として同行してくれていた獅子と虎の獣人が来てくれた。
どうやらここは寺で、俺は夜まで寝ていたらしい。
「ああ、大丈夫だ。いや、どうだろう? やはり痛みはある。少し歩いて様子を見るか」
「分かった。寺の者には俺から話をしておく。こんな時間だ、勝手に出歩いてもコハクは文句を言わんだろう」
護衛の二人と共に寺の外へ。
やはり痛むのは顔、首、肩。下半身はこれといって痛む場所はない。しばらく安静にしていれば治りそうだ。
しかしコハクの町は当然と言うべきか、俺の町とは違う。木造のでかい建物は見事だが、木造の建物しかないというのは驚きだ。俺の所では少しだが石材の建造物はある。
「あっちはコハクの城か」
「ダイリ、見て来ようぜ。いつか攻め入るんだからよ」
それははたしていつになることか。俺の敗北で遠のいた気がする。
しかしいずれは攻め込むのは事実。共に城の周りを見る。
「ちっちぇえな。これで守るつもりか?」
「壁はあるが登れない高さじゃねえな。城ってより屋敷みてえな防備だ」
護衛の言う通り本当に城なのかと疑いたくなるほどの脆弱な防備。もっと広く、堅牢でなければ最後の砦としての機能を果たせないだろう。
こんな柔な城でコハクは何を考えているのか。などと思いながら見て回っていると思いもよらぬものを見つけた。
「城の一室にコハクがいるぞ。誰かと一緒にいる。月見酒か? ……何か話している。聞き取れるか?」
耳に集中し、ついでにコハクと隣にいる男の口元をしっかりと見る。
さすがに距離が遠いので完全には聞き取れないが、断片的にであれば可能。
聞き取れたのは『遠い』『中継地点』『コハクは余裕がない』『開拓団を』『時期は先』など。
それらを統合すれば何を話していたのかは大体想像がつく。
「おそらく、コハクと開拓団の連中の町が遠いってことでしょうな」
「だから中継地点となる場所に町か何かを作りたいってことか?」
「だがコハクは余裕がないから無理。だから開拓団が作るが、時期は先になる。場所を決めていないだろうし、資材の関係もあるだろう」
国と国を結ぶ中継地点の建設の話か。そんなものが完成されてはコハクの力が強くなり、ダイリによる統一はさらに遠のいてしまう。
「ダイリ、これはチャンスじゃねえか?」
「建設の邪魔を、いや中継地点となる場所を探すはず。その一団を襲撃して俺たちの実力の誇示、コハクの邪魔。統一のための時間稼ぎをすべきだろう」
護衛二人の進言。確かに悪くはない案だ。しかし。
「俺は参加できない。あいつらに負けた上でそんなことをしたらただの意趣返しになってしまう。お前たちに任せることになるが」
「任せろ」
「俺たちの強さを忘れたのか」
やることは決まった。ならば早々に国に戻り部隊の選抜をしなければ。移動はどの国にも見つからないようにするため北の山を進むことになるかもしれない。
まだ時間はある、などと悠長にしている時間はない。
まだだ。ダイリは諦めないぞ。




