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お嬢様は会議に秘策を用いる

 魔法を見て傲慢な態度をとっていた灰色狼の獣人が狼狽している姿を見ていると、先程まで抱いていた怒りが消えていき代わりに笑いが零れそうになる。

 声が出ないように必死に抑える。


 コハクも口元を隠しながらも、ダイリの毛が逆立つ様子を見て笑っている。


 獣人の国では魔法は未発達の分野。火をつける、水を出す程度しか出来ず、岩をも溶かす魔法など初めて見ただろう。

 私もあそこまで熱量を上げて火球を放ったのは初めてだが。ほとんどの魔力を使ってしまった。


 ただ、オジサンが言うにはあのハッタリこそ重要だそうで。


「そ、そんなもの! 当たらなければ意味はない!」


 毛を逆立て、狼狽えながらダイリが叫んだ。ただそれ自体は私も同意する。あんな熱量だけを上げた魔法何て回避されて当然。数を増やすなり速度を上げるなりする必要があると思うのだが。


『確実に当てられる状況を作ればよい。それに魔法はあれだけではない。挑発気味に』


 おじさんからの指示だ。うーん、この頭に直接響く感覚は慣れない。

 この国主のみが参加する会議において、おじさんから授かった秘策。それがコハクの国にしかない遠話の魔法を使った秘密の指示だ。


 国主しか会議に参加できないためおじさんを同席させて意見を聞くことは出来ず、私だけでは国主の集まる会議を上手く乗り切れる自信がない。これらの問題を一気に解決すべくおじさんが考えてくれた。


 やり方は単純。コハクから遠話の魔法が使える者をおじさんと共に護衛として近くの部屋で待機させ、おじさんは会議を盗み聞きして適切な返答を遠話の使える人を介して私に指示をする。


 遠話の魔法は送信者が使えれば良い魔法で良かった。もしも受ける側も魔法を使う必要があればこの秘策は使えなかった。

 おかげで私はおじさんの指示通りに言葉を発するだけでこの難解な局面を切り抜けることが出来る。


「その通りです。このままでは多くの敵に当たらないでしょう。ですから当たる状況を作り出すか、もっと当てやすい魔法を使います。もしや私たちが使える魔法があの程度だけだと考えていたんですか?」


「グウウゥゥ!」


 切り抜け、られるだろうか? 先程から挑発的な言動ばかりでやや不安になってきた。ダイリなどは興奮しているのか鋭い牙を見せて唸り始めてしまった。

 本当にこれで大丈夫なのか。問いかけたいが残念ながら指示を受け取れるだけで返事を返すことは出来ない。


 協力者であるコハクにこの流れで大丈夫かと視線で訴えかければ、きちんと伝わったのかコハクは黙って頷き。


「ダイリ! そんな獣のような真似は止めえ。品がないわ。それにな、この嬢ちゃんからすればあんたらの種族の獣人は初めて見るんや。ここでの印象がその種族、最悪獣人への印象になるんよ。獣人はすぐに獣のように唸ると思われるなんて嫌や」


 ダイリを叱った。

 そういう意味で視線を向けたのではないが、ダイリから噴き出ていた怒気や殺気が消えたので結果としては悪くはない。

 しかし、魔法一つでここまで豹変するのか。


 ダイリは傲慢な態度から明らかにこちらを敵と認識した様子に。

 レキは耳に響く駄々をこねて泣きわめく子供から一変して、こちらに怖がり今すぐにでも逃げたいとばかりに後ろを見て震えている。

 ゲンブはのんびりとした様子こそ崩していないものの、首は引っ込んでいる。

 カコウは寡黙で泰然としていたのに今は他の国主の様子を伺い、どう出るかを探っている。


『声が聞こえない。もしも度肝を抜けたのであれば終わらせにかかる。これで広大な国の証明となったか』


 指示だ。おじさんはこの様子を見られないため確認をしつつの指示だが、問題ない。おじさんの考え通り度肝は抜けた。


「さて、これで証明となりましたか? 多くの土地を切り拓き広大な国となった証明に」


 溶けた岩を示して国主たちの反応を待つ。


 答えは実に早く、ダイリを除いた国主たちはすぐに頷いてくれて、ダイリもこちらを射殺さんばかりに睨みつけている。完全に敵と認識されたようだ。

 しかし最初の傲慢な態度から敵への認識こそ、こちらを強大と認めた証。


 ……おじさんからの指示が来ない。誰も返事をしないからか。おじさんもきっと困っているのではないだろうか。

 下手に私から話しかけるとおじさんの予定を崩しそうで怖いし、コハクに助けを求めよう、と思ったがその前に意外にもレキが動いた。


「その広大な国のハリス王国は私たちに何を求めるのでしょう?」


 その質問は自分が弱い立場なのだと気付いたからだろう。

 コハクは見ての通り私たちと親密な関係を築き、ダイリは明確な敵意を示している。


 ではレキ、ゲンブ、カコウはどうするのか。コハクのようにこちらにすり寄るのか、それとも怨敵のダイリと一時手を組んででもこちらに対抗するのか。


『それを言わせたかった。これで会議の役目は終わった。好きに答えて良い。もしも考えがなければこちらから――』


「まず、最初に言っておかねばならないのですが私は東の開拓団の代表であり、国の代表ではありません。ですので私が答えられるのは私個人の見解となります。そこは理解していただきたい」


 彼らが問うたのは国家方針。申し訳ないがこれはおじさんでも口に出して良いことではない。何より私が考え違いをするのであればまだしも、嘘を吐くような真似はしたくない。


「私たちが貴方たちに求めるのは友好、そして平和です」


「……何故です」


「先程も申しましたが、我が国は広大な土地を切り拓いたばかりです。獣人以外の種族とも交流がありますし、何より忙しいのです。貴族、新たな土地の管理者は新人が多く、様々な問題が起こるでしょう。季節を何度も巡ることで経験を積みつつも、その土地特有の問題もあるでしょう。国も同じように広大になった土地の整備に、大きく変化するであろう派閥への対応。はっきりと申しまして、内政を充実させたいので外と面倒を起こす暇はない。ということです」


 私の見解だが、おそらくそう間違ってはいない。

 以前家に帰った際に父が、国が大きくなることで負担も同様に大きくなっていることを愚痴っていた。

 文官の長たる父が、だ。そんな中で他の国と争うようなことになれば文官の多くが倒れるだろう。


「納得しました。他は知りませんが、レキはハリス王国と友好的関係を築ければと思っています」


 レキに続くようにゲンブ、カコウも同様の発言をし、ダイリだけは何も言わず現状の流れを嫌うように態度を悪くさせるだけ。

 これで敵と味方は明確に分かれた。こちらの大きさと考えを教えただけで。

 抑止力か。本当におじさんの考えていた通りになったな。


「さて、まだお嬢ちゃんに聞きたいことがあるもんはおる? 国の代表やないからそこまで話すことはないと思うけど」


 会議の役目も終わり、コハクが終わらせにかかる。

 やや不安があったものの、これでこの会議も終わ――。


「いや、ある! 魔法による攻撃の強さは理解してやる。だが近接戦闘、戦士の強さが分からん。護衛がいるだろう、出せ! 俺が戦って見極めてやる!」


 ああ、面倒なことをダイリが叫び始めた。


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