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おじさんは獣人たちの国について知る

 獣人には多種多様な種族がいる。


 狼や獅子の獣人は獰猛で、狐や猫の獣人は奸智に長け、ゾウやサイなどの三メートルを超える大型の獣人は力が強く、逆にリスやウサギなどの五十センチから一メートルほどの小型の獣人は非力だが手先は器用で物作りの主力となっている。


 それらはほんの一例であり、他にも数多な種の獣人がいる。それを一つの国でまとめ切れるはずもなく、それぞれが小さな国を作った。

 滅ぼされた国もあれば、強大な敵に立ち向かうために統合した国もあった。そして現在残っているのは五つの国。


 最も獰猛で戦争に特化した、獣人の支配域の東半分を支配するダイリの国。

 五つの国の中で最も民の数が多く、小型の獣人が中心のレキの国。

 反対に最も民の数が少ないが、力のある大型の獣人が中心のカコウの国。

 多種多彩な獣人が住まう、最も混沌としたゲンブの国。

 そして最西端にあるたった三つの町しか持たない、最小のコハクの国。


「そやから、戦力面で言えばダイリが四として他のレキ、カコウ、ゲンブがそれぞれ二、うちらは他の比べるのもおこがましい程に非力やからゼロになるな。それで簡単に国の説明をしたけど」


「ふうむ? それでは歴史の勉強が足りないと叱られてしまうのでは? まだ話すことが多くあると思いますが」


「そんなことあらへんよ。これだけ知っておけば歴史のお勉強は合格点や。満点となると、もう少し必要やろうけど」


 そう言うとコハクは袖から程よい長さの棒を取り出して、地面に絵を描き始めた。

 楕円を描くとそれを半分にするように縦に線を入れ、更に左半分を三等分にする。


 ……ああ、なるほど。


「さて、ヒスイ。お勉強の時間や。うちの国以外の国の位置と主な特徴を答えて――」


「だから楽しくおじさんと話していてほしいです。こっちは黙って聞いているので巻き込まないで欲しいです。リリーナ、ここはおにぎりもおすすめなのです」


「……義娘を盗られてしもうた。ならうちは誠一さんを盗ってお相子に――」


「だ、駄目です! おじさんは誰にも!」


 話がどんどん脱線していく。

 からかうのが楽しいとばかりに私にちょっかいをかけるふりをして、リリーナの反応を楽しんでいる。

 そんなコハクを何とか出来る唯一の存在のヒスイは自分には関係ないため、おにぎりを頬張りその様子を眺めている。


 こういう日常を眺めるのは嫌いではないが、今は優先すべきことがあるのでコハクが手に持つ棒を奪い、そのままコハクの頭を叩く。


「まったく、自分よりも若いのをあまりいじめるな。この右側半分はダイリの国で良いんだな?」


「そや。それで左側は上からカコウ、ゲンブ、レキの国やな。実際は大、中、小で覚えとるだけやけど」


 大、中、小か。確かに国主の交代で国名が変わるならそちらの方が断然覚えやすい。

 地面の地図に国名と、ついでに戦力数値も書き込んでおく。

 コハクやリリーナから文字が読めないと苦情が入るが全て無視する。お前たちが読める文字を私は知らない。

 

 それとリリーナに分かりやすく説明するために楕円の横に長い円を書いておく。


「ではリリーナ。コハクの国はないが、獣人の国の主要な国々だ。この中で一番怖い国はどこだ?」


「ダイリの国ですよね」


「そうだな。獣人の国の中で最も大きく、戦力がある国だ。一国が相手ならば確実に勝てるだろうし、二国を同時に相手にしても負けない。話を聞く限りでは平然と噛みついて来るようだし、他の国に住んでいればダイリの国は非常に危険で、何らかの対策が必要な国だろう。リリーナならどうする?」


「そうですね、三国で同盟を組んで対抗します。そうすれば安易に攻めてこないでしょうし、いざとなれば協力して侵攻することも出来ます」


 そうだな、それが正しい。二国だけの同盟ではダイリの国と拮抗するだけで終わり、残りの一国がダイリの国についてしまえば負けが確実となる。

 三国での同盟。それはダイリの国に対抗するためには必須条件となる。


 ただ、リリーナが言う協力して侵攻できるかは怪しい。

 三国で同盟を組んだことで戦力的に有利なのだ。そうなるとこちらが攻めなければ向こうも攻めてこないと守りの考えが生まれる。

 何より、戦力的に勝っているとはいえ単独では負けたまま。侵攻することになったとしても、最悪外れくじを引いて敵主力と戦うことになる。そうなれば被害は甚大。

 戦争に勝ったとしても、自分が負けては意味がない。誰だってそう考える。それを回避するためには他の国に外れくじを引かせる必要があり、醜い足の引っ張り合いが始まる。

 そうなってしまえば勝てるはずのものも勝てなくなり、結果がどうなるかなど容易に察せる。


 なのでおそらく同盟は防衛を主軸に置いたもの。と、そんなことはどうでも良いことで。


「さて、コハクさん。リリーナの答えを採点していただけませんか?」


「合格点や。ダイリの国を警戒してうちらを含めて四国で同盟を組んどる」


 おめでとさん、と手を叩くコハクの横で私は安堵の息を漏らす。

 結局、私は事実を知っているわけではない。状況から推測しているだけで事実かどうかは分からない。偉そうに話をするも、コハクが事実と言わない限りただの想像に過ぎない。

 だからこそ、事実かどうか確認するためにハッタリをかましたり鎌にかけたりするのだが。


「あとコハクの国について少し聞きたいですが、後で良いでしょう。リリーナ、このように東の大国と西の連合で睨み合っているところに謎の国が出てきた。どうする?」


「謎の……? ああ、私たちですか。……まずは情報を集めつつ様子を見て、それからこちらに協力してもらう、もしくは相手に協力しないようにするなどでしょうか?」


 どうでしょう、とリリーナが答え合わせを求めるようにこちらを向いたので、それをそのまま私はコハクに向ける。答えを知っているのはコハクなのだから。


「そやね。情報を集めつつは正しいけど、味方になって欲しいとか、敵にならないで欲しいとかそんなことは考えてへん。見知らぬ国に協力を願って変な対価を要求されたらたまらんやろ。謎の勢力は第三勢力として黙ってくれていた方がうちとしては嬉しい」


「コハクたちが望むのは均衡がもたらす平和だからな」


「均衡がもたらす平和? ……ああ! だから抑止力なんですね。第三勢力がいればタイガの国は連合だけでなく第三勢力にも警戒しないといけない。今まで以上に手を出しにくくなる。……なら他の国の国主を招いて会議など開かず、細々と交流だけしていれば良いのでは?」


「ふっふっふ、それはそれで怖いわ。何を考えているのか、規模も分からない第三勢力を放置するなんて。最悪、ダイリの国と協力して打倒する相手になる可能性もあるんやから。こうして顔見ておきたいと考えるのは普通やろ」


「付け加えるのであれば抑止力と言うものは理解させなければ意味がない。会議の目的はダイリの国に私たちと言う脅威を知らせて、コハクと三国に私たちが何を考えて何を望んでいるのか。それとついでに規模はどれくらいなのか知りたいといったところだろう」


 ううむ、と私とコハクの話を聞いてリリーナが唸る。そこまで難しい話をした覚えはないのだが。ああ、納得できない部分があったのかもしれないな。


「おじさんは最初からそこまで見通していたんですか?」


「いいや? 会議の参加要請、いや招待か? あの時点で分かっていたのは何か目的があって呼んでいるということだけ。その目的が分かればおおよその見当はつく。まだ分からないのはコハクの国の立ち位置くらいだな」


 教えてくれるかな、とコハクに視線を向ければ、コハクは敵わないとばかりに笑みを浮かべてからゆっくりと話し始めた。


「うちら獣人はな、魔法を使わないんよ。狩りをするにも牙と爪を使う。魔法でちょっとの火と水を出せれば十分。そっちみたいに魔法で攻撃とかしないんよ。でもな、コハクは違う。ご先祖様はな、先見の明があったのか魔法の特異性に気付いて研究したんよ。そして怪我を治す回復魔法と遠くにいる相手と会話が出来る遠話の魔法を開発したんや」


 獣人は魔法を使わない。意外だったが説明されれば納得した。もしも翼があれば飛行機など作らない。尾ひれがあれば船など作らない。優れた身体能力に爪と牙があれば魔法など不要。


 それなのに魔法に価値を見出したコハクの先祖は良い目を持っているか、かなりの変人かのどちらか。しかし作り出したのが回復魔法と電話、いや遠話の魔法とは。


「か、回復魔法! 本当ですか!?」


 驚きのあまりリリーナが立ち上がった。

 リリーナが言うには回復魔法は国が何年も研究している魔法で、未だに開発の目途も立っていないらしい。

 そんな魔法がここにあるのであればそれは奇跡に遭遇したような驚きだろう。


 回復魔法か。怪我を治せるならそれは確かに凄いだろう。国が研究するのも理解できる。

 ただ。


「へえ、ええこと教えてもらったわ。ありがとな」


 それをコハクに教えてしまうのはどうなのだろう。いずれ国がコハクと交渉の際に足元を見てくるぞ。

 まあそれは、私には直接関係のないこと。それに。


「遠話はどれほどの距離まで届くのでしょう?」


「誠一さんはそっちやろな。明確に距離を測ったことはないけど、うちの国、町三つだけやけど問題なく話せる。距離で難儀した覚えはあらへん」


 私は回復魔法よりも遠話の方に価値を見出すことを見抜かれていたのか、コハクが私を見て笑う。

 ただそれは私だけではないはず。


「まだ、コハクの三つの町の位置を教えてもらっていなかったですね」


「そやったか? レキ、ゲンブ、カコウの国それぞれの最西端の町がコハクや」


 地面に書いた地図にコハクは足先で雑に丸を付け加える。

 地図で見れば実に分かりやすい。三国の最西端に〇が一つずつ。これがコハクの町だと言うのだ。まったく隠す気のない配置。


「防衛の要か。同盟の中心だな」


「防衛の、要? 戦線から最も離れている町がですか?」


 ああ、要として実に良い位置だ。後は前線の町にコハクの者を置いておけば良い。どこまの町が攻められればすぐに後ろの町に連絡し、後ろの町は他の国にある町に連絡。連絡を受けた町は攻められていない国に連絡し、国は救援でもダイリに侵攻でもすればいい。

 コハクは最西端に町を構えているのでダイリの国から攻撃を受けて連絡の邪魔を受ける心配もない。安全に情報を流せる。


 遠話の性能は分からないが、タイムラグのない遠距離連絡方法などこの世界では黄金にも勝る価値がある。その価値に気付けるものは少ないだろうが。


 ただコハクは気づいた。

 そう考えると、最初に来た国が、出会った国主がコハクで本当に良かった。


「さて、休憩も終わりにしよか。会議に使う寺も見ておきたいやろ」


「そうだな。……その会議は参加できるのは、国主一人だけか? そうなのか。……なら遠話は相手が遠話を使えなくても話せるのか。ならば一つ提案があるのだが」


「……ええな。ならうちからも一つ話が――」


 自分の利益と相手の利益、そしてどこかの誰かが損をする。そんな話を平然とできるコハクが協力者で、本当に良かった。


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