おじさんはコハクの国で会議の前の話し合いをする
「ではおじさんはあの畑の時点でおおよそ察していたんですか? 目的地を尋ねるだけではなく」
「最初から疑っていたわけではない。情報が欲しくて話しかけただけだ。ただ身体が小奇麗なのと手の汚れが気になった。小奇麗は種族的なものだと思えなくもなかったが、手に、主に爪に泥が入っていなかった。育てている植物は稲だろう? そして水中の雑草を抜く作業中のはず。なのに手を少し泥水の中に突っ込んだ程度というのは、十分おかしいだろう」
あの畑でのことを事細かに説明するが、何とも照れ臭くて逃げ出したくなる。自慢話をしている気分だ。
何よりリリーナやヒスイが感心した様子でこちらを見てくるのが本当に困る。どう反応すればよいのか分からない。猫の人なんて自分のミスを国主のコハクの前で指摘されているため委縮してしまっている。
ただコハクはそんな様子を楽しそうに眺めているだけ。
「誠一さん、他にもまだあるでしょう?」
違った。面白がって燃料を投げ込んできた。性格が悪いな。
「……貨幣ですね。異国の貨幣を欲しがるなんて物好きか、その国と関わる予定があるかのどちらかですから。農民がそんな人たちと繋がりを持っているのはおかしいですから、誰か捻くれた人からこちらの様子を見てくるように言われた密偵かと考えていました。……一体いつから私たちが来たことを確認していたんでしょうね」
「うふふ、捻くれた人って誰やろな。関係のない話やけど、うちには目が良いのや空を飛べるのがいるんよ。ん? ああ、気にせんでええで。こんな目敏い人はうち以外にはこの辺りにおらんから。ああ、でも西の国と交友が始まれば出てくるかねえ? 要注意程度やな」
一応はこちらが手札を晒せば向こうもある程度は見せてくれるのか……。こっちが晒した手札の方が多い気がするが。その辺りは後で挽回すればいい。
コハクが猫の人を慰めている間にこちらの新たな一手を考えないと。……そうだな、向こうが周りを使っているのだからこちらも使わないのは損だ。
「ではリリーナ。そんな風に色々と考えているコハクさんがこうして話す場を作ったのは何故だと思う。当然、勉強のため、休憩のためというのもあるがそれはついで。本当の目的があるんだ」
何にも考えてへんよー、と言うコハクを無視してリリーナが考え込む。
これでコハクの考えを見抜き答えを導き出せ、何て都合の良いことは思わない。ただ何かのきっかけになればよい。
「……私たちの国について知りたい、でしょうか?」
「そういった部分もあるだろう。呼ばれた会議でそれについて話すとは思うが、先んじて知っておきたいはず。それに他国の国主に事前に少しばかり話をしておく必要もある」
遠回しに違うと言い、ついでにヒントも出すがそれにリリーナが気づく前にコハクがそれを封じるようにヒスイへと顔を向ける。
「次はヒスイの番やな。誠一さんがうちに聞きたがっていることは何か、分かる?」
「分かりません」
やられた、流れを断ち切られた。交互に質問をすることで少しずつ答えに近づけさせようとしたのに、ここで分からないと言われると流れが終わりリリーナに質問を投げにくくなる。
このまま主導権を少しずつこちらに持ってこようとしたのに。
あの一瞬でコハクの意図を察して答えるとは。どう育てたらそんな優秀に育つのか。
「ならええこと教えようか? 誠一さんはな――」
「かか様、そのおじさんと話すのが楽しいのですか? ならかか様が話せば良いです。おじさんもそれで良いです?」
「ああ、うん」
これは、コハクの育て方が良かったのではないな。ヒスイが優秀なだけだ。本質を真っ直ぐ突いてくるような真似をコハクが教えられるわけがない。
相手に素直に受け止めさせる天性の人柄が必要になる。私やコハクが同じことをすれば逆に相手の顰蹙を買うだけだ。
まさか自分の義娘から反撃を食らうとは思っていなかったのだろう、にこやかに笑っているようだが動揺が透けて見える。
おかげで反撃の糸口は見えた。
「そうだな、ヒスイちゃんの言う通りだ。私とコハクさんで話をしよう。その後で、分からなかったこと、気になったところを聞けば良い。コハクさんもそれで良いですか?」
「……ええと思います」
反撃と分かっていても義娘によって作られた突破口だ。拒絶するわけにもいかず、話に乗るしかない。
そして流れは今、私にある。
「コハクさんは私たちに何をお望みで?」
「……はあ、ほんま酷い人やわ。ここぞとばかりに終わらせに来て。……抑止力や」
「抑止力。なるほど」
抵抗は無意味と悟ってか、問えばコハクはあっさりと答えた。
しかし抑止力か。予想していた答えの一つで助かった。後は相手が誰かと勢力の大きさを知れれば。
「それで、出来ます?」
「相手の規模が分からないが、こっちは国が狭くて三方向に対して一気に開拓団を作り領土を拡大している。そちらの基準が不明なので兵の質などは答えようがないが勢力としてみれば非常に大きい。そちらの目的は一致団結か、それとも誰かを足踏みさせるためか?」
「足踏みやな。ちょっと若くて野心溢れるのを警戒させてくれれば十分。ああ、でもちょっとは痛い目をみいひんと警戒せんかも」
その程度ならどうにでもなる。それよりも……。ん?
「どうした? リリーナ」
「おじさん。何の話なのか、どうしてその話になったのか分かりません」
服を引かれ振り返ると困惑顔のリリーナにそう言われてしまった。
ならば説明を、と思ったがどこから話せば良いのか分からない。
それを察してくれたのか、コハクが代わりに答えてくれた。
「ああ、そうやな。ヒスイも分からんよな? じゃあお嬢ちゃんのためにまずはうちの国と周りの国の話をしよか」




