おじさんは東でコハクと会話する
コハクの居城に案内され、それからはそれぞれ別行動。の、はずだったのだが。
「別に付いてくる必要はないのだが……」
「おじさんが何を考えているのか分かりませんので。それに、コハク様が案内をしてくれると言ったんです。おじさんに文句を言われる筋合いはありません」
何故かリリーナが付いてきた。グンズとバルカは問題を起こしたら怖いと言うことで城の中を見て回るだけで留め、バリッシュ夫妻とグレイ、ポーラは町を見て回っている。
リップサービスだと思い、付いてこないと思ったのだが。
「うふふ、かわいいお目付け役ですで。まあうちも連れて来てますしお気になさらず。それとお嬢ちゃん。うちのことはコハクでええよ。様なんて堅苦しいわ」
それは相手、コハクにも同伴者がいるとは思っていなかったのである意味バランスが取れて丁度良いのかもしれない。
「……子供ですか?」
「兄の忘れ形見やわ。うちが引き取って跡取りとして育ててます。今回はそのお勉強や。あ、ヒスイ。そっちのお嬢ちゃんとは話してもええけど、こっちのおじちゃんは駄目やで。隙を見せればすぐに言質を取ってくるかもしれへんからな」
兄の忘れ形見か。ならばコハクに似ているのも納得だ。顔の作りも非常に似通っており、大きな金毛のコハクに対してヒスイは銀毛なくらい。親子と言われても納得しただろう。
そしてそんな子供相手に卑劣な真似はしない。コハク相手なら遠慮せずにするだろうが。……ああ、そうだ。
「リリーナ、そっちのお嬢さんと話していると良い。コハクさんとはあまり話をしない方が良い。手のひらで転がされるぞ」
「そんなことはせえへんよ? だからお喋りしような。お手玉とかする?」
コハクは着物の袖からお手玉を取り出しスッとリリーナに差し出すが、その前に私がリリーナの前に立ってそれを受け取る。
「ありがとうございます。ですが、リリーナはまだこちらの文化に慣れておりません。ですので代わりに私が預からせていただきます」
「いけずやわぁ。うふふ、なら近くの茶屋で一度休憩しましょ。こっちの文化に慣れ取らん言うけど、そっちの文化について知りたいし。文化交流しましょ」
茶屋か、提案のタイミングが上手い。
こちらに来てから一度も休んでいないのでリリーナも疲れているだろうし、文化を知るのに食文化は中々に有用。何より私自身惹かれるところがある。
明らかにコハクの罠なのに抵抗する術がない。こういうことが自然と出来るから厄介なんだ。
そのままコハクに勧められるがまま、茶屋へと入った。
「もちもちして甘い。ヒスイちゃん、これは何?」
「おはぎです。白いのはもち米で、黒いのは餡です。かか様の好物です」
後ろからはリリーナとヒスイの中の良さそうな声が聞こえる。どうやら互いにこちらの指示を守っているらしく私やコハクに話しかけることはない。
それは良いことなのだが……。
出された団子をついばむ。……甘い。
餡の甘さ、だけではない。餡の上に蜜でもあるかのような、別種の甘さが混在している。
期待していたのだ。おはぎに、団子に。私の思い描いている味であることを。
今までのように私が再現しようとして失敗した味と違い、文化として伝わっている味に期待していた。
なのに結果は残酷。甘さの上に甘さがある。想定とは大きく違う。
不味いわけではない。口に入れた直後は甘すぎるが、喉を通る頃には蜜のような甘さが消え、程よい甘さが口の中に残る。
大量に食べたいものではないが、一つ二つであれば程よい美味しさだ。
「……甘いのはお嫌いで?」
「いえ、好きですよ。ただ、予想していた味と違いまして。口に残る仄かな甘さは良いのですが、口に入れた時は甘すぎてどうも……」
甘い……? とコハクは少し不思議そうに首を傾げ、すぐに何かに気付いたように微笑んだ。
「なるほどなぁ。分かりました。不思議に思っとたんです。あっちのお嬢ちゃんはこっちの文化を知らんのに、おじさんは知っている様子だったことが。……夕食は楽しみにしていてくださいね」
……? コハクは何を理解したのだろうか。そしてそれがどうなって夕食に繋がったのか。まるで分からない。
ただまあ、このコハクが夕食には期待しろと言うのだ。相応の期待はして良いのだろう。
それから茶を飲み、団子を食べながらゆったりとした時間を過ごしていたが、給仕がどこかで見たことのある猫の人であることに気付いた。
「中々に多彩な猫、いや人だな」
「はい? ああ、気付きます? ヒスイ、お勉強の時間や。こっちにきいや」
猫の人に気付いたのが失敗だったか、コハクがヒスイを読んで勉強を始めると言う。何をしたいのかはすぐに分かった。見て学ぶことは大切だ。
こちらもリリーナを呼んで近くで待機させる。せっかくの機会だ。聞いて学んでくれ。分からないところがあれば後で説明しよう。
まずは、そうだな。
「ではコハクさん。我々に何を望んで――」
「いけずやわぁ、何するのか理解しているのに締めにかかるなんて。ちゃんとこの子らに理解できるようなことから始めんと。そういえばまだお名前を聞いてへんな」
ああ、やはり。周りを巻き込むことで聞きたいことも聞けない。完全に主導権を握られ、取り返せる兆しもない。
厄介だ、本当に厄介。だがまあ、話をするならこれくらいの方が楽しい。
「ああ、そうでした。失礼しました。私は本堂誠一と申します。誠一と気軽にお呼びください」
「誠一さん、これからよろしゅう。それじゃあこの子らでも分かるくらいに簡単な所から頼んます」
ヒスイやリリーナでもすぐに分かるような所から始めろと言うのか。はあ、勉強のためと思えば面倒と思う気持ちは抑えられるが、それでも本命の質問をするのはどれほど先になるか。
隙を見てコハクから主導権を取り返す努力をしよう。とりあえず今は二人の勉強のために、そうだな……。
猫の人の話から始めよう。




