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おじさんは東の開拓地で手が回らない

肩が上がらなくなった。痛い。

「あっはっはっは! 中々に血の気のある者と遭遇しましてな。折角だからとホンドー殿に教わった格闘技を試したら上手く出来なくて攻撃を貰ってばかりで。いやー、難しい。ああ、しかし一度だけ上手く出来た時があり、その時は相手が転がっていきました。筋肉と同じく地道に鍛錬していこうと思います」


 血塗れで帰ってきたバリッシュを心配して駆け寄ってみれば、そんなことを言われた。

 怪我も血塗れのため大怪我に見えたが、実際は浅い切り傷が多いだけですでに血も止まっている。ケルピーに頼んで血を水で洗い流して傷口を見せてもらえば、二日か三日で塞がりそうなものばかり。


 怪我の原因も格闘技を使うのに集中し過ぎて、皮膚を固めるハードスキンの効力が弱まってしまったため。

 心配して損をしたとはこのことだ。考えてみれば妻のルリは心配した様子もなくバリッシュの後ろにいたのだ。もしも大怪我をしていれば真っ先に来て救援を求めていたはず。


「はあ。怪我が大したことがないなら良いです。それと、あの巨牛は美味しいそうなので夕食は期待して良いですよ。相手はどんな姿でした? 問題があったにせよ、バリッシュさんに怪我を負わせた相手です。他の人では勝てないと思うので注意しないと」


「うむ。獰猛な性格で、身長は私よりも低く、ホンドー殿と同じ程度だったかな。全身に毛が生えており、鋭い牙があった。……二足歩行の狼と言えば想像しやすいだろうか?」


 獰猛な性格、毛が生えている、二足歩行の狼のような姿。

 獣人?


「ああ、はい。ちょっと、難しい問題ですね。多分大丈夫だとは思うのですが、念のためにバリッシュさんはしばらく外に出ないでください。代わりに私の知る限りの格闘技を教えますので」


 この問題がこれからに大きな影響を与えるとは思えないが、可能性が僅かにでもあるのなら摘んでおきたい。

 幸いバリッシュは格闘技を教えてもらえると喜んでいるので外に出さないで済む。


 その間にリリーナに今回の一件を報告して、不意に獣人と出会った際の対処法を考えて開拓団全員に伝達してもらわなければ。それと狼の獣人について少しでも情報を集める必要がある。


 大丈夫だ。私なら相手の返事が来るまでに容易に出来る。


「おじさんよ。少し相談があるのだが」


「あ、私もありまして。一緒に良いですか?」


 そこにサラマンダーとケルピーから相談があると言われ、顔が引きつる。

 こいつらの相談などおおよそ見当はつくが、私はそれに対しての答えを知らない。むしろ教えてほしいくらいだ。

 しかしサラマンダーとケルピーが頼れる相手など私くらいしかいないため……。


「……分かった。夜に時間を作る。話は聞いてやるが、期待はするなよ」


 大丈夫だ。まだ慌てるような事態ではない。




「あの、おじさん? お忙しいところ少し良いですか? 向こうから返事がきまして」


「もう? 随分と早いですね」


 あの話し合いが終わってから二日後。バリッシュに様々な格闘技の基礎を教えていると困った様子のリリーナがやってきた。

 相談内容は相手からの返事について。予想では早くとも三日後だったのだが、たった二日で返事をするとは。

 それにリリーナの様子から返事は、はい、いいえなどの単純なものではないのだろう。


「難癖でも付けられましたか?」


「いえ、どちらかと言うと私たちに非常に有益な内容でして」


 どんな返事が返ってきたのか。気になって聞いてみればリリーナが困惑するのも納得の返答だった。


 対話を持って関係を築こうとしてくれたことへの謝辞など丁寧な言葉での返答であり、肝心の内容は近々他の四つの国の王を集めて会議を開きたいと考えていたので、それに参加しないかと言う打診。


 ああ、嘘の匂いがする。それも誤魔化しや騙しなどとは異なる嘘。これを送ってきた相手はかなり厄介な相手だろう。


 こちらが情報を持っていないことを知っているのか、わざと他の四つの国などと言って国の数を教えている。

 それに近々他の国の王を集めて会議? こちらの動きに便乗して各国の王を集めようとしているようにしか見えない。餌は我々か。もしもこの提案を断れば会議は開かれずに終わるだろう。


 ただ悪い提案でもない。こちらは他の国と対話をしたいと伝えている段階。しかし向こうはそれまでの付き合いもあり、未知の相手である我々を餌にすれば各国の王、とまでいかずとも重要人物を集めて話し合いの場を作ることが確実に出来るだろう。


 他の国と個別に話し合うのはその会議後でも十分であり、何より各国の関係性がわずかでも見えるのであればこれに勝る利益はない。


「……なるほど」


 別に嘘と思われても問題がない提案。これを考えた相手は私と同じ程度には性格が悪そうだ。


「おじさん、どうしましょう?」


「受けよう。相手にも裏があるのかもしれませんが、それ以上にこちらに利益のある提案です。とりあえず、これへの返事と同時に他の国に行っている人たちを戻しましょう。それとこの返答を持ち帰ってきた人に町の様子など話を聞いて少しでも情報を集めましょう」


 それに嘘はあっても騙すことが出来る内容ではなかった。裏で何を考えているのかまでは情報が不足しているため分からないが、私たちに悪意ある行動の可能性は低いと思える。

 何より、会議と言う場であれば多少の悪意程度私が退けられる。


 ただ問題点が一つだけあり。


「すまんな。こちらの対策をするためあまり時間を取れそうにない」


「私は構わない。多くを十分に教わった。後は反復練習をして練度を高めるのみ」


 ああ、うん。バリッシュも一応そうだな。しばらく格闘技を教える時間は作れないだろう。でも教えられそうな基礎は全部教えたから問題はないと思っていた。

本当の問題は。


「おじさんよ、仕方がないことだ。こちらはこちらで何とかしよう」


「所詮は私用です。どちらが大事かは明白。また時間が出来た時に相談に乗ってくだされば十分です」


 サラマンダーとケルピーの相談をほとんど聞いてやれていない。内容について聞いて、どうしたいのかなどの話で終わっている。具体的な解決策も見つかっていない。


 サラマンダーとケルピーにすまないと頭を下げ、対策を練るために私はリリーナと共に会議室へ向かった。


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