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おじさんは獣人の国を想像する

 東の開拓団は想像以上に分裂していた。

 優秀な代表の後に不出来な代表が立ち、支えるべき補佐とは不仲。

 そんな奴らについて行けないと思うのは当然であり、自分の方が優秀だと考えるのも仕方がないこと。そんな者たちが秘密裏に集まって徒党を組む。

 表向きは代表たちの指示に従いつつも、裏では指示された仕事を必要最低限しかこなさずに。他の自分たちが必要だと思った作業に時間を当てる。

 

 それが悪いとは言わない。自分の考えを持つことは独立気質の高い開拓団では必要だろう。

 それが良いとは言わない。一応は組織なのだから長の命令よりも自分の考えを優先すべきではない。

 ただ一つ言えるの。


「非常にありがたいな」


 東の開拓団にあるほとんどの派閥にリリーナが新たな開拓団の代表となることを伝え終えた。

 公爵令嬢で、聖女テレサの妹、更にルルクス伯爵の代理。この三つを教えればどの派閥も快く受け入れてくれた。それどころか積極的な協力まで申し出てくれた。

 それだけこの三つの肩書の効力が強いということ。印籠のようにあっさりと人が従ってくれる。


 おかげで東の開拓団の掌握は思いのほか順調に進んでいる。グンズ派閥から何らかの嫌がらせがあると思っていたが、今のところ一切ない。

 派閥が多いため派閥間の調整に苦労しそうではあるが、その分派閥の独自情報網がありそれぞれの派閥から色々と気になる話を聞けた。

 これから他の派閥に挨拶に出ていたリリーナたちと合流するので、そこで話をまとめよう。


 会議室に昼食を運び、リリーナたちが来るのを待っていれば難しい顔をしたリリーナが入ってきた。その後ろには苦笑しているポーラと表情の読めないグレイがいる。

 さて、何があったのやら。

 バリッシュたちは今この砦にはいない。バリッシュは教えたばかりの格闘技の練習のために巡回と言う名の魔物狩りに行き、ルリはそれに付いて行っている。またサラマンダーとケルピーは居心地が悪いのかルリの護衛と言う名目で同行している。


「何故だか、私が開拓団の代表になることに異を唱える人がいませんでした。嬉しくはありますが、私自身が認められた結果ではないので少しもやもやします」


 なるほど。自分の評価ではなく、肩書により認められたことが嫌なのか。それだけではないな。あっさりと代表が変わることを受け入れている人たちへの不満もあるのだろう。

 もっと開拓団の結束があるとでも思っていたのだろうか。最初にここに来た時点でそんなものがないことは分かっていたのだがな。


「そんなものだ。これから皆に認められるようになれば良い。私は色々と面白い話を聞けたのだが、そちらはどうだった?」


「私は挨拶に集中していたのでポーラが聞き取りをしていました。どうでした? おじさんの言う通り面白い話でも聞けましたか?」


「これを面白いと言えるかどうかはさておき。色んな話は聞けたよ。お腹が空いたから食べながらでも良い?」


 そうだな。向こうも砦を歩き回って疲れたはず。立ってする話でもない。

 昼食を食べながら情報を整理すれば、出てくるのはちぐはぐなものばかり。


 例えば東には大きな国があると言う報告もあれば、小さな国や集落程度の小さな村しかないという報告もある。小さな毛玉のような住人がいる、毛のない堅そうな皮膚をした大きな住人がいる。非常に獰猛な性格、非常に温和な性格。

 この情報をまともに受け取っては困惑するだろう。目の前のリリーナのように。


「ううん? 大きな国なのか集落なのか。随分と矛盾した情報が多いですね。……何故でしょう。グンズの妨害工作でしょうか?」


「なるほど、グンズの妨害は考えていなかったな。だが違うと思うぞ。グンズに味方する理由がないからな。とはいえ、誰かが嘘を吐いているわけでもないだろう。ではどういうことだと思う」


 こんなに情報がバラバラなのは派閥が独自に調べた結果。愉快なのはグンズやバルカは情報統制が出来ているつもりだったようだが、実際は公然の秘密。誰もが知っていて、秘密裏に調べる者がいるくらいだ。ただ誰も報告していなかっただけ。


「……部分的に正しい? 見間違い、読み違いの可能性を考慮すれば。獣人の国は広い範囲に乱立して、様々な容姿や性格の住人がいると言うことでしょうか」


 それが妥当だろう。ただそれは表面的な情報でしかなく、その程度で私は面白いなどとは言わない。面白そうなのはその先にある。


「では何故、一つの大きな国ではなく、小さな国が乱立しているのだろうな」


「それは歴史的に色々とあった、という答えではないんですよね。……ポーラ、分かりますか?」


「答えならリリーナが言ったじゃない。様々な容姿と性格の住人がいるって」


 え? とリリーナは少しの間首を傾げるも、すぐに気づいたように小さく声を上げた。

 容姿が違う、性格が違う、となれば当然思想も異なる。それらを一つの国で抱えるのは無理なために、国が乱立しているのだろう。


 生まれが、肌の色が、些細な違いを見つけて人は争えるのだ。毛の有無や身体の大小で争えるだろう獣人はもっと争えるのかもしれない。

 獣人の事情はさておき、困るのはどうやって獣人の国と接触をするか。


「話を聞いた限りでは、温和な性格の国と接触したいですが、後々のことを考えれば全ての獣人の国と接触しなければなりませんし。そうなると最初の相手は獣人の国の中でもそれなりに力のある、周囲に影響力がある国が望ましいですね。ですがそれが凶悪な思想の種族だったら困りますし。どうしましょうか」


「一気に複数の国と接触しても良いと思う。国が乱立しているのであれば仲が良い国、悪い国があるはず。一つの国に絞ればその国と仲が悪い国の情報が得られず、自然と関係が悪化する可能性がある。それにすでに接触している派閥があるかもしれない。それらを利用することも考慮すべきだな」


「……そうですね。それに私たちが向こうの国に気付いている以上、向こうも私たちに気付いていると考えるのが自然です。それでは午後は各派閥の長たちを集めて情報共有とこれからの行動の方針を伝えましょう。獣人の国との接触はその時に少し話し合いましょう」


 


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