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おじさんはいい歳をして怒られる

 これは癖に近い感覚だと私は思っている。

 交渉においてもっと踏み込めると、更に相手から引き出せると思ったら実行してしまうことを。

 勿論、相手の懐事情や性格も考慮する。だが今回の相手は役目の重さを理解していない相手だったので遠慮の必要はないと思った。

 だが、それは私の中での話であり、私の中だけで完結した結果。当然周りの者からすれば事前にした話とは違うことになり。


「まことに申し訳ございません」


 素直に謝罪するほかない。私自身少々勝手が過ぎたと思っている。


「悪いと分かっているのであればこれ以上は責めません。ですが、何を考えているのかは説明してもらえると信じています」


 この歳になって怒られると言うのも中々にない経験。決して自慢できるわけでも、必要な経験でもないのだが。

 しかしこの手のネチネチとした怒り方。不思議と覚えがある。どこで受けたのだろうか。……ああ、私の怒り方に似ているのか。

 自分の怒り方の対処法など知らないが、してはならない行動は分かる。


「元々はルルクス伯爵の代理の地位で、リリーナを東の開拓団の監査役になってもらおうと考えていました。しかし港町の一件にグンズとバルカの不仲、部下の掌握具合を見て考えを改めました。監査役になれば是正の嵐でまともに身動きが取れないだろうと」


 嘘を吐くのは最も駄目だ。出来る限り誠実に答えれば私なら怒らない。

 リリーナは僅かに首を傾げるも起こる様子はなく、続きをどうぞとばかりに促してくる。私としては今ので十分だと思ったのだが。

 何と答えたものかと悩み、より詳しく話す。


「開拓団の方針に影響力のある立場が必要だと考えていました。例の獣人の国がどのような形であれ、とりあえず殴ろうなどとは考えないはず。まずは話し合う。それに参加するために立場が必要だったんです」


「その監査役、になろうとした理由。それを止めた理由は分かりました。ですが、最も重要で重大なことをまだ話していませんよね? 何故私を開拓団の代表にしようとしたのですか?」


 ……ああ、その件か。リリーナはそれを一番気にしていたのか。確かにルルクス伯爵の代理というだけで開拓団の代表になろうとするのは少し欲を張った気もする。


「ルルクス伯爵の手紙には私を代理とする旨は書かれていても、開拓団の代表にすることは書かれていません。それもそうです。そんな話はしていませんから」


 でもグンズはその言葉から逃げて、バルカは信じた。私の言葉を事実だと思ってくれた。上手くいったと自分でも若干驚いている。


「グンズとバルカに指導者としての能力があるかと問えば、誰だって否と答えるでしょう。そんな人を上に置いて獣人の国と話し合いをしたくない。ですので、代表になってもらおうかと。安心してください。手紙の件を指摘されても他の説得材料がありますので」


「……確かに。獣人の国の規模は分かりませんが、あの二人に任せるのは怖いですね。他の説得材料とは?」


「地位の高さです。それだけでも十分ですが、転属理由を国の意向だとハッタリをかますことも出来ます。他にも色々とありますので、そこはご安心ください」


 はあ、とため息を吐いて頭が痛いとばかりに頭に手を添えるリリーナに、何と言葉を賭けようとかと悩んでいると会議室の扉が開いた。

 バルカが戻ってきたと思ったが、入ってきたのは召喚主の説得を行ってくれていたポーラとグレイ。


「あー、良かった。ここで合ってた。説得は終わったよ。そっちは終わったの?」


「ええ、何とか。……こちらの話をする前にそちらの話を聞きましょうか。どうでしたか? やはり召喚獣を心配していましたか?」


 あっはっは。実にリリーナらしい質問だ。召喚主が召喚獣の心配などしないだろう。もしもあったとすればそれは手駒がなくなる心配で、リリーナの思う心配とは違う。

 似たようなことを考えていたのだろう、ポーラは苦笑いしながら首を横に振った。


「それはないよ。一応説得、というか自分の立場を教えたけど、その後どう動くのかは分からないかな。そっちは? どうせ何かやったんでしょう?」


「……何もやっていません。予定通りルルクス伯爵の代理として開拓団の代表になるだけです。おじさん、この後の予定は」


 さも問題ないかのように言い、相手が疑問を抱く前に話を先に進める。まるで私のような行い。

 私のやり方を見て学んでいるのだなと思うと、良いか悪いかは置いておくとして嬉しくはある。

 だからその誤魔化しに乗る。


「バルカさんが部屋を手配してくれていますので、今日は荷物を運んで休みましょう。明日からは開拓団に参加している方々にリリーナが新たな代表となることを説明して回ります。おそらくグンズさんの一派が邪魔をするかもしれませんが、大して問題はないでしょう」


「ああ、あの様子ならそうだね。リリーナは分かってなさそうだけど、明日になれば分かるよ」


 丁度良く部屋への案内人も来たので話をそこで終えて、各自案内された部屋に行く。

 道中リリーナは私とポーラがグンズを軽視している理由を考えていたようだが、明日までに気付けるだろうか。


 その時私は気づけなかった。

 いるだけで温度が上がる火の蜥蜴、サラマンダー。潤いを保つために湿気を生み出す水の馬、ケルピー。その二匹と同じ部屋で寝ると最悪の熱帯夜になることに。


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