おじさんは東の開拓地に到着する
一日ばかり港町で休憩し、英雄とばかりに宿屋の夫婦に見送られて東の開拓団がいる砦へと向かう。
ルルクス伯爵からの評判や港町の出来とおばさんとの話から、不安しかないのだが。それにサラマンダーとケルピーの問題もある。
それでも町を出れば肝が据わるもので、不安を心の片隅に追いやる。
道中は皆東の開拓団に対して思うことはないのか和やかに話をしていたが、やはりサラマンダーとケルピーの口数は少なかった。
町を出て数時間ほどで砦が見えてきた。想像以上に近かったようだ。これならわざわざ町で休む必要はなかった。
まあ、開拓団の砦はボルダー辺境伯の所の前線基地と異なり領地を広げるための攻めの砦。ある程度まで魔物の討伐が進めば解体するのだ。町からさほど近くても問題はないのかもしれない。
だからだろうか。砦は木の壁や逆茂木など前線基地に比べれば防備が弱く、酷く頼りなく見えた。
ただ比較対象が北の前線基地だ。何十年と人類を守る壁としてあり続けた場所と比べるのが間違っている。
「二度目ですけど、緊張しますね。それにあの時は周りに他の馬車などもありましたが」
「あの時はキジュツが出迎えてくれたな。ナイフを投げられたが」
今となっては懐かしいな。それほど時間が経ったわけではないのだが。あの頃に比べれば状況は進展している。環境も良くなり、達成すべき目標もある。
砦に入り口で周囲を見渡すも人影はない。巡回に皆で行ったわけではないと思うのだが。
「どうしましょうか?」
人がいれば案内をしてもらえば良いのだが、残念ながら人がいない。とはいえ、勝手に砦に入って良いものか。
いっそ大声で呼ぶという手もあるが……。
幸いすぐに砦から人が出てきてこちらにやってきた。
「巡回の者ではありませんよね? 商人の方も今日は来る予定はありませんし。どちら様でしょう?」
出てきたのは小さな優男。物腰が柔らかく見た目の割に大人びて見える。
「はい。リリーナ・ロール・ルイスと申します。正確な日時は決まっておりませんでしたがここに転属となったのですが……。もしかして話が通っていませんでしたか?」
リリーナは名を明かし転属されたことを伝えたのだが、優男の顔が話を進めるにつれ怖い顔に変化していくのを見て不安を覚えたのか。最後には首を傾げてしまった。
その様子を見て優男はすぐに首を振り何でもないと言うと、馬車を置く場所に案内してくれようとしたが。
その道中、長い髭を生やした大男が砦から出てきた。すると優男は思いっきり走り出して
「グンズ! てめえ、人が来るなら事前に連絡をしろと言ってあっただろうが! しかも今回はルイス公爵家の人だぞ! 意味分かってんのか!」
助走を付けて大男を殴って怒鳴った。しかし大男も殴られ怒鳴られたままでは終わらず。
「どうして俺がてめえに知らせないといけねえんだ! 良いか、バルカ! ここで一番偉いのは俺だ! お前は二番目だ! 俺に命令するな!」
なるほど。あの大男がこの砦、いや開拓団の最高責任者のグンズ。そして優男が次に偉いバルカ。ルルクス伯爵が開拓を遅らせるために組ませた二人か。
確かに仲は悪そうだ。何せ私たちを放置して喧嘩をしているのだから。
このまま勝手に先に行こうかと考えていれば、門の方から巡回に出ていたと思われる兵が返ってきた。
「巡回から戻りました。川にクリスタルダイルの姿はありま――サラマンダー! お前!」
どこかで見たことがある青年がこちらに怒りの形相で走って来るが、サラマンダーはそれを拒否。火を噴いてその歩みを強制的に止める。
「ケルピー!」
別方向からは今度はケルピーへの怒りの声。やはり見慣れた青年がこちらに走ってきており、ケルピーはその青年に直接水を吐いて止めるどころか、そのまま押し返す。
待て、待ってくれ。
目の前では開拓団のグンズとバルカの大喧嘩。そして二方向からはそれぞれサラマンダーとケルピーの召喚主が怒った様子でやってきた。
これらの問題は知っていた。解決しなければならない問題だと知っていた。だが、しかし。
一斉に来るんじゃない! 順番に解決してやる。
心の片隅に追いやったはずの不安が大きくなってきた。




