おじさんは港町で先を憂う
真新しいひっそりとした港町。それがこの町に入った時の感想だ。
この手の町は見たことがある。金持ちを誘致しようとしたが失敗して閑散とした住宅街などだ。
この手の町で共通しているのは計画そのものが杜撰であり、横から見れば失敗するのが明らかなのを強行して失敗していること。
これを作ればこうなるはず、などと希望的観測を主軸にしたのだろう。だから中身が伴っていない町が出来る。
「ああ、これはどうしましょうね……」
町自体に人がおらず、空き家ばかり。店なども当然あるはずもなく、東の開拓団がいる砦まで行く前にこの町で一度休んでから、と考えていたのが見事に崩された。
これでは宿屋があるかどうかも怪しい。いっそ空き家に無理矢理入り、一晩そこで過ごすことも考えたが。
「おじさん! あれは宿屋では?」
奇跡的にも空き家が並ぶ中に一軒だけ宿屋を発見できた。何故こんな町に宿屋があるのか分からないが、早速入る。
中は意外というか、当たり前と言うべきか。細々とした場所まで清掃が行き届いており、清潔感溢れる宿屋だった。
ただ問題があるとすれば。
「誰もいないな」
客も従業員もどちらもいなかった。
ただ奥の方から話し声はするので、人はいるのだろう。宿屋として受付に人がいないのはどうかと思うのだが。
「すみません」
声をかけてみれば奥の方から「え?」と何か疑うような声が聞こえ、女将と思われる恰幅の良いおばさんがこちらに顔を出すと更に「ええ!?」と驚かれた。
「お客さん!?」
「はい。やってますか?」
どうやらこの宿屋は客が来ること自体奇跡のような出来事らしい。客に客かと尋ねるなどそうあることではない。
「ええ、はい。大丈夫です。お客さんなんて本当に久しぶりで。以前に来たのは視察の方でしたかね。あ、すみません。お喋りなもので。うふふ、大所帯の様ですし、いっそ全ての部屋をご利用になります? どうせ誰も来ませんから。あっと、記帳しますのでお名前を伺ってもよろしいですか?」
お喋りでおばさん特有のぐいぐいと踏み込んでくる図太さ。リリーナたちは慣れていないようで勢いに押されているが、私は慣れているので逆に笑顔で接する。
このような知らない場所で、お喋りなおばさんは非常にありがたい。
「うふふ、じゃあ全部屋お言葉に甘えて借りるわね。それにしてもやっぱりここって、人が来ないの?」
ただそれを知るのは私だけではないようで、バリッシュの妻のルリも話をしやすいように場を整えてくれる。
この場は私たちに任せろ、と後ろで待機している者たちに視線で伝え荷物を運んでおいてもらう。
その間に私たちはおばちゃんと楽しくお喋りだ。
「全然構わないわよ。誰も来ないんだもの。ここはね、東の開拓団の偉い人が今は人がいないが港が出来れば人が来るからって言うから買ったんだけどね、まるで来ないの。来るのは開拓団の人が休暇で来て砦で寝たくないって人くらい。大損ね。でも買ったんだし、仕方なくね。ああ、でもね。近所の人が魚とかくれるから食事は期待してくれても良いわよ。あ、もう食べる?」
「後で頂きましょう。ああ、でも皆の分を用意できますか? それに開拓団の人が来る可能性もあるのでは?」
「大丈夫よ、ここは本当に魚取れやすいから。それに開拓団の人は朝早くから来るから、こんな時間じゃもう来ないわよ。それに開拓団って言っても奥に人をやっている様子も見られないしね。村でも作るつもりなのか周辺の魔物の駆逐に力を入れているのだけど、奥の方に行く様子が全く見られないのよね。それにあそこはいつも偉い人が言い争っているし。ルルクス伯爵が抜けた辺りで私らも抜ければ良かったわ。人はいないし、発展する様子もない。それに、最近はここに来るまでに川があったでしょ。あそこにクリスタルダイルっていう危険な魔物まで出るっていうし。革は丈夫で牙は鋭利、尾の水晶は高値で売れるんだけど開拓団も手を出せないらしく見知らぬふり。嫌よねえ」
一を話せば十で返って来るおばさんのお喋り能力に圧倒されないよう気を付けていれば、どこかで聞いた魔物の名前が出てきた。
確か……。
「あら? それってうちのバリッシュさんが倒した奴じゃない? 大きいから捨てて来たけど、まだ橋の所にあるんじゃない?」
ああ、そうだ。ここに来る前にバリッシュが倒した魔物だ。あまりにも哀れに倒されていたので強い魔物と言う印象が薄かった。
その話を聞いておばさんはまた、え! と驚いて宿屋の奥へと駆け込んだ。そして戻ってきたと思えば夫と思われるおじさんと一緒だ。
「それって貰って良いの!?」
「え? ええ。私たちには必要ありませんので」
「ありがとね、宿代タダで良いから! 行くよ、あんた!」
「応さ!」
そう言うと宿屋の夫婦はどこからか荷車を持ち出して町の外、橋の方へ走っていった。
「町人が魔物の素材を売らなきゃいけないほどここはやばいのね」
「最低限の生活が精一杯。改善される余地もない。ここを買ったから離れられないではなく、出ていく金がないのか。……発展する気配のない場所に住むのは辛いものだ。しかし、開拓団の方も怪しいな。上は争っているのに奥に行かないのは、獣人の国を発見しているからかもしれない。不安しかない」
問題ばかりの東の開拓地。これからのことを思えば自然とため息が漏れた。




