おじさんは東の港町前でワニ退治を目撃する
エルフの森を抜ければ、そこには草原が広がっていた。
僅かな起伏のある丘と、青々とした草花。日差しは強く、時折吹く強い風のおかげで多少は和らぐもののカラッとした暑さ。
道通りに進めば、遠くに四足の魔物の群れが見え。
「ゼェゼェ」
「ヘーヘー」
近くに目を向ければ、息絶え絶えの召喚獣がいた。
「お前ら、この距離を移動してエルフの森に入ったんじゃないのか?」
「うるさいぞ、おじさん。のんびりとした移動だったし、疲れればすぐに休んでいたんだ」
「そうです。それに移動は夜の間で強い日差しがない時間を狙っていました」
サラマンダーは四足ではあるが蜥蜴のように足が短いためやや小走りになり、ケルピーは馬のため足取りに乱れはないが、日差しと水のない環境のためか苦しそうに息を吐く。
私だったら汗だくになり今頃倒れているだろう。御者の隣に座っているだけでも汗が出てくるのだから。
「あの、それなら休憩でも入れますか?」
「うーん、もう少し涼しい場所を探しましょう。日差しを避ける場所もない草原の真ん中で休憩しても体力が削られますから」
御者をしてくれているリリーナの提案に首を振る。
横から鬼、悪魔、おじさんと罵られるが何も感じない。大体鬼はもっと乱暴な生き物だし、悪魔には出会ったことがない。そしておじさんなのは事実だ。
結局、エルフの森から先にある唯一の港町が遠くにぼんやりと見える辺りにあった橋で休みを取った。
「この先にルルクス伯爵が抜けた後の開拓団が唯一作った港町があるんですよね? 私は開拓について詳しくないから分かりませんが、一年ほどで港町一つと言うのは早い方なのですか?」
橋が架かる程度には深い川なのか、ケルピーが河の中に沈んでいき、その近くではサラマンダーが涼んでいる様子を眺めながら気になったことを聞く。
「そうですね。大抵は開拓団の指揮をする人が変わると前の人よりも優れていることを示すために頑張り過ぎたという例はいくつもあります。町を作り過ぎた、村を作り過ぎたなどですね。逆に少ないのは本当に前任が優秀だったということで。今回は港町一つですが、町よりも作るのは大変です。それらを考慮しても、遅いです」
リリーナがはっきりと遅いと言った。リリーナは優しいのでこの手の判断には若干の甘さが出るのだが、それを踏まえても遅いと断言した。つまり、それほどということなのだろう。
「港町がきちんと機能しているのであれば評価も変わるのですが、現状港は機能しておりません。ここまで来る商船がありませんから。漁などで使う船も小型だけですから、大きな港が持ち腐れの状態です。またそれに対する改善の動きはなく、砦の強化だ、塩田を作るだので揉めているとルルクス伯爵から聞いています」
おおう。ルルクス伯爵が東の開拓が遅れることを望んでいたとはいえ、そこまで望み通りになる必要はないと思うのだが。ルルクス伯爵の人選が良すぎたのだろうか。
ただそうなると怖いのはごたごたに巻き込まれることだ。とはいえ無関係というのも難しい。上の混乱は現場を困らせる。上の都合に振り回されるのは避けたいが、関わりは持ちたくない。
まさに痛し痒し。切り抜ける方法がないか考えていれば。
「クリスタルダイルだ!」
川の方で何やら騒いでいる。見に行けば、青みがかった鱗に水晶のように透き通るような尾を持つ五メートルほどのワニが、水面を走るケルピーを追いかけていた。
ただ追いかけられているケルピーは余裕があるようで、華麗なステップでわざと一定の距離を維持している。
追いかけるのに疲れたワニは獲物を近場にいた人物に変更。川から上がり、素早くその極太の足に噛みつこうとしたが。
「ほう? こちらに来るか。相手をしよう。ハードスキン」
それよりも早く何故かワニの口に腕が差し込まれた。
バリッシュが何を考えているのか分からないが、ワニは思いっきりバリッシュの腕をかみ砕こうとするも、圧倒的筋肉と硬化した皮膚に阻まれ歯が立たない。
そのままバリッシュは腕を上げてワニを吊るす形にすると、空いた腕でワニを猛打。だがワニも殺意の連撃に屈せずにバリッシュの腕を離していない、かと思いきや既に離していた。ただバリッシュがワニの口を掴んでいただけだった。
それからしばらくしてバリッシュに滅多打ちにされたワニはついに動かなくなり、バリッシュはワニを手放した。
「おお、クリスタルダイルを一人で。やっぱりバリッシュさんは強いですね」
強い、のだろうな。そのクリスタルダイルとやらは。バリッシュの腕に噛み跡を残したのだから。無傷で倒したバリッシュがおかしいのだろう。
しかしこんなにでかいワニがここにいるのか。私を丸呑みに出来そうな大きさだ。これほどの大きさなら何かに使えるのでは……。
「バリッシュさん。それを剥製にしてジムに飾るのはどうですか? 鍛えればこんな魔物も素手で倒せると言って見せればトレーニングにも力が入るでしょう。マイケルさんに頼めば剥製にしてくれると思いますよ」
「……なるほど、飾ることで客寄せやモチベーション向上の効果を。ふむ、それでしたらもう少し大物を狙おうと思います。マイケルさんは前まで一緒にいらした商人の方でしたな。知恵を貸して頂き感謝します」
あれ以上の大物をあっさりと狙うと言う辺りさすがはバリッシュだ。そして奥さんのルリも今の戦闘を見ていても慌てる様子を見せず、黄色い声を上げながら手を叩いていたのは信用しているからだろう。
良し。休憩は十分に取ったし、皆と町に着くまでの緊張感を保てる良い出来事もあった。出発しよう。




