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おじさんはエルフの都から逃げる

 エルフとの交渉を行った翌日、マイケルは全員に挨拶をして早々にルルクス伯爵領に戻った。

 今回の交渉の成果をルルクス伯爵たちに伝えるためだ。


 私は今回の成果を全てマイケルに譲った。今回の成果は東の商人、ひいては東の領地に莫大な利益を与える結果だ。この手柄をルルクス伯爵やルダンダなど東の商人に伝えれば、感謝され返そうとしても返し切れない程度の恩を売ることが出来る。

 つまりマイケルが東の商人や領主に対して、大きな影響力を持つことになる。


 これによりマイケルは東では大きな影響力を持ち、北では貸しのある力のある商人がいる。中央では学院を中心に勢力を拡大している最中。

 商人として、商会としてのまだまだ小さいかもしれないが、その影響力は王国にいる商人の中でもトップクラス。後はこのまま商会を拡大して中央での勢力を伸ばしつつ、北や西への影響力を強めてくれれば、王国一の商人となれる。

 私はそのマイケルの後ろにいればよい。力を借りたいときに貸してくれればそれで良い。


 そんなマイケルに続き、私たちも早々にエルフの都から出立する準備をする。

 現在のエルフの都は動乱期であり、やや危険な状態だ。


 今までの秘密的で閉鎖的な環境を維持したい老人エルフたちと、そんな環境の中で唯一の娯楽とも言えた宗教のため、外に出たいと願う一般エルフたち。

 権力では老人エルフが上でも、数では一般エルフの方が圧倒的に上。弾圧など出来るはずもないし、無理を承知で強行すればどちらの首が飛ぶかは明白。


 しかし外に出ることを認めてしまえば、その先にあるのは過疎化するエルフの都。そんな所で権力者としてふんぞり返ることに何の意味がある。何より、年寄りが変化を受け入れられるわけがない。


 結末は何となく見えてはいるが、解決策などないお触り厳禁の動乱期に入ってしまったのだ。早々に逃げるのが一番。

 急がないと老人エルフに恨まれたり、一般エルフに王都に連れて行けと追い回されたりしてしまう。


「うーん、なんでこんなことになってのでしょう?」


「不思議ですねー」


 閉鎖的な国など、外の事情であっさりと揺れ動くもの。いつまでも閉鎖的でいることなど出来ない。

 だからこの混乱もいずれは起きることだったのだ。それが早いか遅いかの違い。私は関係ない。


 しかし中々出立の準備が終わらない。その理由の一つにマイケルの不在が挙げられる。この手の準備はマイケルが手慣れており、てきぱきと指示をしつつ素早く行動をして終わらせてくれていた。

 そしてもう一つの理由が。


「またあっちに戻るのか。うるさそうだ」


「もう関係ありませんけどね。私たちは自由の召喚獣ですから」


 新たな同行人が二匹増えたため。エルフに捕まっていたサラマンダーとケルピーだ。

 話を聞けば召喚主と喧嘩をして東の開拓地から脱走。召喚主とは完全に縁を切ったつもりであり、自由の召喚獣を自称している。

 ただ食事などは今まで通り不要であり、召喚主との繋がりは今でもあるのだろう。繋がりを断つ方法がないだけとも言えるが。


 だからか東に戻ることに若干の躊躇いがあるらしいが、マイケルについて行くと言う選択肢を蹴り私と共に行動することを選んだ。少し近寄りたくない場所ではあるが、話す相手がいない方が辛い程度の躊躇いだ。


 ただ同行人が二匹も増えたことで問題が発生したため、出立の準備が遅れている。マイケルの馬車が無くなり、同行人が増えたのだ。元々マイケルが帰ってもバリッシュを含めてギリギリ乗れる予定だったのが、召喚獣二匹を加えたことで破綻。動乱期のエルフの都で馬車を調達する方法はないため、荷物を極力減らす努力をしている。


 今はリリーナが聖女のテレサに荷物を預かって貰えるように頼みに行っている。そこまでして確保できるのは一人分のスペース。


「もうお前ら走れよ」


「はあ? おじさん、そりゃないだろう? こき使われたから逃げて、エルフに捕まって解放されて、可哀そうだと言う気持ちはないのか?」


「そうですよ。こんなに辛い思いをしてきたのに。酷い話です」


 良し、こいつらは馬車に並走させることに決定した。私が決めた。その四本の足をひたすら動かせ。


「戻りました。テレサ姉さんが少しなら荷物を引き受けても良いと。ただ向こうもここを去るつもりらしくあまり多くは期待できません」


「リリーナ、もう問題は解決した。サラマンダーとケルピーは自分たちの足で歩いてくるそうだ」


 はあ!? と猛抗議してくるサラマンダーとケルピーを無視して、全員に予定通りの出立の準備をしてもらう。無理に荷物を置いていくや、捨てる必要はない。

 サラマンダーとケルピーは私が責任を持って説得しておこう。


「エルフから助けたでしょう? それに恩を覚えるのであれば移動も苦ではないはず」


「それとこれとは話が別だろ!」「そうです。むしろおじさんが歩きなさい! 運動不足でしょう」


 どうやらサラマンダーもケルピーも単なる恩知らずの様子。大体な、私の身体は運動をしてももう手遅れなんだよ。

 仕方がないので肉体言語に切り替えて説得しようとしたが、どう考えても私が負ける未来が見えたのでバリッシュに交代。


 即座にサラマンダーとケルピーは自らの足で移動することを了承してくれた。

 最初からこうすれば良かった。


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