おじさんはエルフの都でマイケルに泣きつかれる
「セーイチさーん」
焼き鳥との舌戦の後、家である木に戻り休んでいればエルフの長との面会を終えたマイケルが早々に泣きついてきた。
私はどこぞの青いネコ型ロボットではないのだが、マイケルが泣きついてくることは想定していた。
「はいはい、どうしました。エルフの神が竜で大変でしたか」
「そうなんですよ~。……何で知っているんですか?」
驚くマイケルに先程の焼き鳥事件について教える。
「聖女様と、そんなことが。ハッ! そんな問題をあっさりと解決できたセーイチさんなら私の問題も解決できますよね」
いや、それは無理だと思うが。一応マイケルに何があったのか聞く。
マイケルは私たちと別れた後、長がいるとされる都の中央にある特別大きな木に通されたのだが。
そこにいたのは長以外に各部門の責任者と思われる年老いたエルフが何人もおり、マイケルは半分囲まれるような形で白く長い髭を蓄えた長のエルフに色々と問われたそうだ。
竜の鱗は本物か、いつ手に入れたのか、どこで手に入れたのか、竜は見たのか、竜を見た者を知っているのか、まだ手に入るのか、他に何があるのか。
滝の如く流れてくる質問と周囲の老人エルフの威圧。それに耐えかねたマイケルは自身の持つ最強の切り札を使い切り抜けた。
「私と共に来たセーイチと言う方が全てを知っています」
「それ全部私に責任を押し付けて逃げただけですよねえ?」
よくそれで私に泣きついて来れたものだ。正直に話すことが何でも美徳だと思うなよ。
面倒ごとを押し付けて、この借りは並では済まさんからな。
今日中に呼びに来る、なんてことはないだろう。となると、明日か。マイケル相手に圧迫交渉をする連中だ。時間を置く理由がない限りすぐに来る。
「本当に申し訳ありません、セーイチさん。私に手伝えることであれば何でもしますので」
「おじさん、私に手伝えることがあれば言ってくださいね」
元凶であるマイケルはともかく、リリーナまで手伝いを申し出てくれるとは嬉しい限り。しかし。
「そう言ってくれると助かります。ではリリーナ、明日私の代わりにサラマンダーとケルピーを迎えに行ってくれると助かる。マイケルさん、申し訳ないですが今回の交渉は必ず成功させるとは断言できません。その辺りは覚悟しておいてください」
はい、と元気よく返事をしてくれたリリーナに対し、マイケルはややうな垂れて返事をした。焼き鳥程度なら簡単だったのだが。
今回はエルフの宗教観に関する問題で、聖獣としての立場でぬくぬくしていた焼き鳥とはまるで違う。だが本当の問題はそこではない。宗教観の問題なら私は圧倒的アドバンテージを持っている。
本当に心配している部分は別にある。
「グレイ、少し相談に乗って欲しい」
「良いよ」
唯一この悩みを共有できるグレイを連れて下の階に移動する。
誰も盗み聞きしようとしていないことを確認し、グレイに問いかける。
「さてエルフはどこまで知っていると思う?」
「そこだよね、トモダチにとって一番怖いのは」
エルフの中では竜の下僕であった頃の話が今でも言い伝えられている。若干の脚色は見られるが、大きく間違ってはいない。
怖いのはエルフが竜のいなくなった理由を、イレギュラーを知っているかどうかだ。私はイレギュラーとは何ら一切の関りはないが、似ていると言われれば否定できる材料が少ない。
竜が神ならば、イレギュラーは神殺しの大罪人。敬遠な竜の信徒であるエルフが、イレギュラーにとっても似ている私を知ったらどんな行動を取るだろうか。
……想像するも何故かどれも穏便に済まされていない。
「うーん。門番のエルフが召喚獣についてあまり知らなかったところを見れば、大丈夫そうに見えるけど」
「上と下では情報量が異なる。それにマイケルは各部門の責任者と思われる年老いたエルフが複数いたと言っていたんだ。宗教部門の責任者がいると考えるのは当然だろう」
うーむ、と一緒に頭を悩ませる。
門番のエルフに他の召喚獣と話をしている様子を見せていなければ良かったのだが、最悪のことを考えればやはり怖いものは怖い。
「それでトモダチは、エルフたちにイレギュラーのことが伝わっていなければどうするつもりだったの?」
「奥の手を使うつもりだが? 鱗であれだけの反応をしてくれるのだから、信心深いエルフならあれに対しては過剰な反応を……。ふむ、それを利用するか。そのためには竜と口裏を合わせておく必要が、時間的猶予は十分にある。この手で行こう」




