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おじさんはエルフの都で不死鳥を相対する

「おお、こんな所に焼き鳥がいる」


 準備を終え、木の上にある広場に向かえば台座の上に光る鳥がいた。大きさはカラス程度だが、その翼は火のようにメラメラと揺れており、近づけば熱を感じた。

 巡礼のような時間が終わったのだろうか。先程までいたエルフたちがいないのは誤算だったが、後ろにはリリーナたちがいるので問題はない。


「不敬であるぞ、人間。余は聖獣、不死鳥である」


 聞いていた通り、本当に偉そうだな。しかし、付け入る隙はいくらでもありそうだ。


「はっはっは、何が聖獣だ。私を人間扱いしている時点で目が節穴じゃないか。私は召喚獣だぞ? 何故言葉が通じていると思う?」


「……馬鹿な。同郷だと? お前のような存在は知らぬぞ」


「はあ……。所詮は焼き鳥。目が節穴だけではなく、頭の中まで空っぽか。同郷でないなら答えは決まっているだろう。良くそれで聖獣などと名乗れるものだ」


 大げさに溜め息を吐き、仰々しく肩をすくめて怒りを誘う。

 これでもし亀のような不動の精神を持っていれば若干面倒なのだが。


「人間、口を慎め。聖獣である余を侮辱するとは、生半可な死では許されぬぞ」


 羽のように軽い不死鳥の精神は少し煽っただけで簡単に燃え上がり、その怒りを表すかのように自らの上に人の頭並に大きな火の球を生成した。

 離れた位置からでも皮膚が焼けるような熱さを感じる。あんなものを私に向けて放たれたら骨も残さず消滅するだろう。

 だからこそ。


「ほうほう。自らを批判する者は殺すと? 確かにそれならば自分を認める者しか周りに集まらないな。聖獣とは周りの物が自然と慕うものだと思っていたが勘違いだった。聖獣とは周りの者を無理矢理従えるものだったか」


 更に挑発を続け、不死鳥のよりどころであるはずの聖獣と言う言葉に逃げ込む。

 さあ、追って来い。聖獣と言う言葉の裏に。そこが不死鳥の死地となる。


「不遜である! 聖獣たる余が周りを無理矢理従わせているだと! 訂正せよ!」


「ならばその火の球は何か! それは、私に向けられているではないか。脅迫では、恐喝では、恫喝ではないと言うのか?」


 ぐぬぬ、と不死鳥は唸ると火の球をゆっくりと収縮。消滅させた。

 この瞬間に私の勝利は確定した。愚かな不死鳥だ。


 力を持ち知恵もある生物が、力がなく知恵はある生物()に口先で勝てると思うなよ。




「トモダチの勝ち」


 まだおじさんが不死鳥と話をして間もないのに、唐突にグレイがおじさんの勝利宣言をした。

 何故? 確かにおじさんは言葉だけで不死鳥の火の球を退けた。しかしまだ話は続いている。


「バリッシュなら分かるんじゃない?」


 顔に疑問符でも出ていたのだろうか、グレイはこちらを見るとそのままバリッシュに振った。


「うむ。外から見ている分にはまるで分からないでしょうが、ホンドー殿と言葉を交わせば暴力を振るうことが出来なくなります。口先だけでこちらの行動を制限してくる。言葉が上手いんです。矜持を煽り、信念をくすぐる。殴れば勝てる状況のはずなのに、それをすれば精神的に負けの状況に追い込まれている。ホンドー殿の怖いところはそれを相手に気付かせないことです。罠に嵌ったことにすら気付かず負けるのですから」


 口先だけで相手に勝つと? そんなのおとぎ話に出てくる魔法のようだ。しかしバリッシュが言っているのだから嘘ではない。


「それで、どうやってあのおじさんは私の召喚獣に勝つのかしら? こう言ってはあれだけど、私の召喚獣は短気なのよね」


「それは簡単。すでにおじさんは不死鳥が聖獣であるならば相手を攻撃してはいけない、という前提条件を築き上げた。逆上して攻撃してきたら聖獣ではなくなるのでおじさんの勝ち。逆上しなくてもおじさんなら言葉だけで不死鳥が聖獣ではない証明できるよ」


 手を頬に当てながら困ったとばかりに言うテレサ姉さんに、グレイは何でもないかのように勝利宣言をした理由を話す。

 て、ちょっと待って!


「それだと逆上されたときはおじさんが焼けてしまうのでは!?」


「そのために私がいます。私の『ハードスキン』は皮膚を硬化させるだけでなく、魔法を弾く効果もあります。ですので、いざという時は私が盾になります」


 そうでしたか。バリッシュの魔法は南の大陸の魔法のため、我が国の魔法と異なる点が多く知らない魔法が多い。

 

「でも、言い合いであのおじさんが負けたら――」


「「「それはない」」」


 テレサ姉さんの言葉を遮り、三人同時に否定する。

 おじさんは私の助けを借りず、言葉が通じるというだけで学院と北の領地で生き抜き、ボルダー辺境伯や父に認められた人だ。こういっては悪いが、テレサ姉さんの召喚獣程度が言葉でおじさんを上回ることは不可能。そんなことが出来るなら最初から聖獣などともてはやされた時に調子に乗ることはない。


「おっと、短気の方が先に来たね。バリッシュ」


「任されよ!」


 気付けば不死鳥は再び頭上に火の球を形成していた。それに対しておじさんはまるで恐れる様子を見せず、更に言葉を重ねて挑発する。

 その挑発を受け、ついに不死鳥が火の球をおじさん目がけて放つが、余裕でバリッシュが盾に入り皮膚で炎を弾く。


「やはり間違っていなかった! 自らを認めなければ相手を消そうとする。それがお前の正体よ! どこが聖獣か! 逃げろ!」


 そしておじさんは火の球を放ったことを糾弾すると同時にその場から逃げ出す。それに合わせてバリッシュやグレイも撤収する。


「あの、それで私はこれからどうすれば?」


「え? トモダチが不死鳥を聖獣と言う台座から引きずり下ろしたんだよ。不死鳥ももう自らを聖獣とは名乗ることは出来ない。なら言いたい言葉はいくらでもあるんじゃないの?」


 そう言って今度こそグレイは撤収した。残されたのは怒りの余り攻撃して自ら聖獣ではないことを決定づけてしまった不死鳥とテレサ姉さん。後は私だけ。

 グレイの言葉に何か気付いたテレサ姉さんは意気消沈する不死鳥の下へ行き。


「やはりお前は聖獣ではない。騙っていたのだ。なんと邪悪な存在か」


 黒い囁きで壊れた不死鳥の精神を更に踏み砕いていく。

 それから続く囁きに、私の知らないテレサ姉さんを見た気がして、すぐにその場から離れた。


 怖っ!


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