おじさんは聖女様に出会う
エルフの都に入り、驚かされる。木の上に建物がある。それも複数。まるで木の上で生活することを当たり前としているかのようで、木と木を結ぶ通路まである。
木の上での生活が基本なのだろうか。エルフの都に生えている木々はどれもが大きく太い。
対して地上にはほとんど建物がない。
「サルかな?」
「おいグレイ、思っても言うな。……そうか、地上の魔物が怖いのか。だから木の上に建物を作り生活する文化なのか」
門番や案内役のエルフを見れば誰もが長身瘦躯。そしてその整った顔立ちを見れば美形だ、美麗だともてはやされそうだが、こちらの世界でいえばやせ細っているだけ。顔については美醜の価値観を知らないので分からないが、バリッシュのような力強さを感じる者はいない。
魔法などがある世界だ。遠距離攻撃には事欠かないだろう。近接戦闘が苦手だろうが木の上に逃げれば問題はない。
「しかしこんなところに住むエルフと商売をして、何を買い取りたいんだ? 悪いがそこまで特別な何かがあるようには見えないのだが」
木組みの技術なら確かに凄いとは思う。木造建築ならばこの世界でも私が知っている限り一番。しかしその手の技術は売り買いするものではない。
商人のマイケルが欲しそうなもの。
「エルフ自体とか?」
「奴隷商売に手を出すつもりはありませんよ。大工のエルフなどがいるなら是非ともうちの従業員になって欲しいですけどね。まあ、エルフは閉鎖的なのでこの森を出てもルルクス領以外には行かないらしいんですけど」
おっと、独り言のつもりだったのだがマイケルに聞かれていたか。まあ私もマイケルが奴隷商売を行うとは思っていない。しかし大工のエルフは欲しいのか。やはり建築技術に目を付けてはいるのだな。
しかしそうなると、マイケルは何に目を付けているのか。
「エルフの木工細工は非常に有名ですよ。友好の証としてルルクス伯爵にいくつか送られ、その内の一つを国王陛下に献上したところ大変お喜びになったとか。他にもエルフの弓は通常の二倍飛び、三倍の威力があると言われています。それに、この森の素材はエルフだけしか採ってはいけない決まりでして。その素材も欲しいと思っています」
木工細工に弓、そして森の素材か。そういえばルダンダも採取は禁じられていると言っていたな。だからエルフから買い取るのか。エルフ側から見れば楽な商売だろうな。エルフ側にも何か事情があるのかもしれないが。
それから馬車を止める場所として巨大な木の洞に案内され、宿屋の代わりとして巨大な木の中をくりぬいて作られた家を紹介された。
「まるで夢物語だな。こんな家があるとは」
木の中は外観に対して狭いが、代わりに多層型になっており部屋数はそれなり。部屋がいくつも重なっているような感じなので階段の上り下りが多く、住むには不便しか感じない。
観光に来て一日程度なら新鮮な感じがして耐えられるだろうが……。足腰にくるのは止めてほしい。
「おじさん、上にも通路がありますよ!」
若いリリーナたちは早速木の家を堪能している。しかし上に通路? ああ、外から見えていた木々を結ぶ通路か。そうだった、ここでは木の上で移動するのが基本だったな。
「マイケル様、長がお待ちです。ご案内いたしますので、例の物をお持ちになってください」
「あ、はい。えっと他に付添人を」
「申し訳ありませんが、今回はマイケル様お一人でお願いします」
私に助けを求めようとしていたマイケルだが、案内に来たエルフにあっさりと頼みの綱を切られてしまう。こっちを見るな、無理だ。
「あの、すみません。ここに姉が滞在していると聞いているのですが」
「姉?」
「せ、聖女と呼ばれている、テレサ・ロール・ルイスです」
「ああ、聖女様。妹君でしたか。では他の者に案内をさせましょう。すぐに呼びますのでこちらでお待ちください。マイケル様、準備はよろしいでしょうか? ご案内いたします」
ああ、マイケルが連れていかれる。一人で頑張れと手を振って見送る。聖女様には興味がないので自分の部屋を決めて早々に身体を休めようとしたのだが。
「おじさん、姉に紹介するので来てくれませんか?」
リリーナに止められた。何で私を例の聖女様に紹介するのか、と一瞬思ったがすぐに当たり前だと理解した。
そりゃ、聖女様から見れば妹の周りに知らないおじさんがいるのだ。警戒するし、妹愛が強ければ私を排除しようと動くかもしれない。ルルクス伯爵のように事情通であれば良いのだが、閉鎖的なエルフの都にいては情報など入ってこないだろう。
「構わないが、手土産がない。エルフの店でも探して何か買った方が?」
「いえ、姉に会うだけですので。ああ、案内のエルフが来ましたね」
グレイはどうすると聞けば、バリッシュと共にトレーニング機器を考えるために残るようだ。ポーラもルリと話をして待つと。
なので私とリリーナだけで聖女様の下へ向かう。途中大きな広場のような場所があり、そこにエルフたちが集まり何かをしていたが今は目の前の状況で精一杯。
「それでですね、テレサ姉さんは学院で最高の成績を残して卒業されたんです」
「そうか、優秀なんだな」
リリーナが先程から一生懸命に私に話しかけてくる。少しでも仲良くなろうと努力しているのだろう。だから私もそれに応えるために何とか気の利いた返事をすべきなのだが、言葉が見つからず返すだけになってしまう。
仕事であれば頭を口も回るのだが、リリーナが相手だと中々に難しくなってしまう。女性経験の少なさが原因だろうか。
弟は女性の言葉にはとりあえず同意がベターだと言っていたが。
聖女様の家は私たちと同じように木の中をくりぬいた家だった。もしかしてエルフなりの配慮なのだろうか。木々の上の建物に慣れていない私たちが少しでも怖がらないように、と。
「テレサ姉さん? いますか?」
だったら通路の僅かな隙間も塞いで欲しい、下が見えて怖いから。などと考えている間にリリーナは部屋に入ってしまう。
何となく部屋に入るタイミングを逃し、外で様子を伺うように待てば部屋の中では姉妹の再会を喜ぶ声が漏れてくる。
余計に入りづらくなり、外の景色でも眺めていれば先程のエルフが集まっている広場、そこの台座に光る鳥がいるのが見えた。エルフたちはその鳥をありがたがるかのように……。
「おじさん? 入ってこないの?」
「ああ、すまない。再会の感動はもう良いのか?」
「そんなんじゃないですよ、おじさんも入って。テレサ姉さん、紹介するね。私の召喚獣で、色々と凄いおじさん。名前は」
「本堂誠一と申します」
出来る限り紳士的に振る舞い、自然に挨拶をすることで警戒心を薄れさせる作戦だったのだが無理だったようだ。私が現れた瞬間に顔が強張っていた。
「い、妹がお世話になっております。テレサ・ロール・ルイスと申します。えっと、リリーナの召喚獣で間違いないのですよね?」
椅子に座っていたテレサはリリーナの姉だけあって似ており、ウエーブのかかった髪や泣きぼくろなど分かりやすい違いこそあれど、血の繋がりを感じる顔立ちだった。そしてどこか疲労も感じられた。
テレサは私とリリーナの顔を交互に見て、嘘だよねとばかりに確認してくるが残念ながら事実。頷いて返す。
「そ、そうですか。リリーナ、珍しい召喚獣を得ましたね」
「はい。最初は少々色々とありましたが今はそれなりに。おじさんは凄いのですよ。父にも認められていますから。それに珍しさで言えばテレサ姉さんの召喚獣も……。あれ、テレサ姉さんの召喚獣は?」
「ええ、まあ。そのことでちょっと困っていましてね。私の召喚獣が調子に乗っているんですよ」
それはまた。珍しいことが起きているのだな。




