おじさんはエルフの都の前で友を救う
前話のタイトルが「おじさんは知人を見つける」でしたが、考えてみればサラマンダーもケルピーも人ではありませんでした。伏してお詫び申し上げます。
ただ、知人以外にどう表現すべきか困ったのでそのままにさせて頂きます。
ご了承ください。
エルフの町、いや町は一つしかないと聞いているのでここが首都か。
エルフの都は木々を組んで作った壁にぐるりと囲われており、壁の中にだけ背の高い木があり、逆に壁の外側の近くには木が生えていない。
人の町の石の防壁と比べれば頼りなく見えるが、逆に外の敵を倒そうとする明確な殺意は伝わってくる。
だがまあ、そんな防衛についてなど今はどうでもよく。問題は。
「あの檻は何だと思う、グレイ」
サラマンダーとケルピーが捕らえられているあの檻。私たちと無関係なら良いのだが。
「可能性としては召喚獣の入国を禁じて、召喚主がエルフの都に用がある時は召喚獣はあの檻の中で待機とか」
なるほど。召喚獣入国禁止か。ありえなくはない。ペット禁止のようなものだろう。エルフの所には召喚魔法など伝わっていないだろうし、人間よりも強力なのに従順に従う姿に恐れての行動かもしれない。
だとすると困るな。あの檻、非常に風通しが良さそうだ。いくら気候が温かいとはいえ、あの中に一晩もいれば確実に体調を崩す。それに床は木で固そうだ。身体に良くないだろう。
私はいざとなれば誤魔化せるがグレイを置いていくのは忍びない。何とかしたいし、下手すればバリッシュは召喚獣扱いされるかもしれない。
まずは檻について知る必要がある。御者もしてくれるマイケルに門の横にある檻について聞くように頼む。
浮かれていたマイケルもその言葉で檻の存在に気付き、中にいるサラマンダーとケルピーを見る。
「あれ、見覚えがあるんですけど。同じ召喚獣ですかね?」
……その可能性は失念していた。小人が学院や北の最前線にいたように、サラマンダーやケルピーも別の人物に召喚された別個体の可能性がある。
確認のために声をかけてこちらに気付かせると。
「完全に同一個体ですね。すみませんがエルフの門番に事情を聞いてください」
私を見つけた途端、サラマンダーもケルピーも目を大きく上げて耳を立てた。犬が飼い主を見つけた時にするような反応だった。
幸い、今はエルフの都に入るために照会中。話しかけるのは不自然ではない。
「すみません。あの檻は何ですか?」
「はい。あれはですね、森を荒らす害獣です。珍しい種族なのでどうするか上の方で検討しています。おそらく捌くことになると思いますが」
森を荒らす害獣扱いか。しかも捌かれる寸前とは。助けてやりたいが。
召喚主はどこだ? エルフはこいつらが召喚獣だと知らないのか? 分からないことが多い。
とにかく今はあいつらから話を聞きたい。
「あれは召喚獣ですね。少しお話をしたいのですがよろしいですか?」
「召喚……? ああ、お前たちが使役する魔物のことか。ふむ、良いだろう。しかし召喚獣となると対応も変わる。話を聞かせてもらうぞ」
エルフはどうやら召喚魔法も召喚獣についてまるで知らないらしいな。使役される魔物ではないのだが。まあ、そのように勘違いするのも分かるが。
それとリリーナたちにも来てもらおう。私たちはサラマンダーとケルピーの召喚主をあまり知らない。会ったとは思うのだが、顔すら覚えていない。
「おじさーん! 後生だ、助けてくれ!」
「何も悪いことはしておりません! お願いします」
こちらが近づくとすぐに身の潔白と救援を要請してきた。まだまだ元気な様子で何より。
それを聞いたエルフはさすがに驚いたようで。
「おお、言葉が話せるなら最初から話せば良いものを。大体お前たちは森の中で火を放ったり、水を吹き出したりと森に悪影響を与えただろう」
「何を言う! 魔物に襲われたから反撃に火を噴いただけだ!」
「そうです。それとも水を放つ反撃をしてはならぬと言うのですか!」
「そうだ! ならぬ。火は木を燃やす。水は過度に与えられれば木々の根を腐らせる。行ってはならぬ行為だ!」
話せるとなった途端、サラマンダーとケルピーはエルフに文句を言い、エルフもはっきりと反論する。
このまま好き勝手に話をさせる。文句の言い合いではあるが、言葉を重ねればその分相手を理解し、情も移る。
私たちは言い合いを程々の所で止めればよい。
「まあまあ、その位で。どうしましょう? ただの害獣ではないと理解してくれたと思うのですが」
「ううむ、確かに。我々の規則を知らず、魔物に襲われた結果であれば多少の所は納得するが。言葉も通じている。解放するのはやぶさかではないが、報告する必要があるので今すぐは無理だ。問題がなければ明日にでも引き取りに来い」
友人の救出完了。いますぐ解放とはいかなかったが、捌かれるという最悪は回避できた。ならばそれで良い。
ああ、そうだ。念のために言っておかないといけないことがある。
「伝えておかないといけないことがありました。彼らの言葉を交わすことが出来たのは私たちがいたからです。でなければ鳴き声にしか聞こえないと思いますのでご注意ください」
「ふむ? それが召喚魔法や召喚獣の力なのか? とりあえずは分かった。しかし助かった。ずっと言葉が分かるようでは門番の仕事が出来ず、こいつらを怒るだけになってしまうからな」
何だと、と檻の中で騒いでいる奴らがいるが、そちらは無視する。ちゃんと助けてやっただろう。
「先輩、照会が終わりました。連絡が来ていたあの商人です」
「何!? そうでしたか、それは失礼いたしました。すぐに開門いたしますので少々お待ちください」
門に残っていたエルフが紹介を終えたことを伝えに来て、一緒に来ていた先輩エルフは先程までの態度とは一転。恭しくマイケルを案内する。
何だろうか。リリーナたち相手にあの態度は分かるが、マイケルを相手に? それほどまでに竜の鱗を待ち望んでいた?
希少な素材程度にしか思っていなかったが、もしや想像以上の物なのだろうか。
「うぅ、なんだか緊張してきました」
それにマイケルも先程までの浮かれた時とは一変して、緊張で腹でも痛めたかのように苦しそうな表情をしている。
「先程まで元気だったように見えましたが?」
「私はそれが目の前に来るまでは自信があるんですが、いざという時になると緊張する性質でして。セーイチさんは違うのですか?」
私はどちらかというと準備段階が最も緊張する。目の前まで来ると肝が据わり動じることなくやれる側だ。マイケルの逆だな。
部下にもマイケルと同じ性質の者もいたが、良い解決方法は見つかっていない。励まそうが、宥めようが緊張が解れることはなかった。ああでも、一つだけ。あの言葉に助けられたと言われたことはあった。
「いざとなれば助けますよ、マイケルさん。安心してください」
「絶対ですよ。期待しますからね」
逃げ道を用意することで逆に再起を図る方法だったのだが、マイケルの反応を見ると失敗だったかもしれない。
いざという時は本当に助ける必要がありそうだと不安に思っていれば、ゆっくりと門が上がる。
私たちはエルフの都に足を踏み入れた。




