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おじさんは東の懸念を知る

 バリッシュ・ストロンガーとルリ・ストロンガーの同道が決まった。

 何故バリッシュの妻のルリまで、と思ったがそこはリリーナたちが決めたこと。私がとやかく言えることではない。

 多分だが、昼食の際にリリーナたちの心をルリが完全に掴んだためだろう。……もしや二人分の雇用費を払うため?


 とにかく強力な護衛を得た。後は商工会会長のルダンダに挨拶をして、マイケルに出立の日時を伝えに行き。


「うふふふ、ありがとうございます。ホンドーさんのおかげで上手いこといきました。予定よりも早く済みそうです」


「はっはっはっ、それは良かった。実は出立前にいくつか知りたいことがありまして。話して頂けますよね?」


 ルルクス伯爵邸に皆で来ている。護衛だったセイドウの返還や、ニックについて。また他にも色々と用件がある。

 しかしニックの件が余程上手くいったのか、ルルクス伯爵は終始微笑んでいる。これなら騒動に巻き込まれた慰謝料や、献策とその手伝いの費用など色々と請求できる。

 ただルルクス伯爵から頂くのは情報。場合によっては口利きなども含む。金は今のところ必要ない。


「……なんだか、知らない間におじさんとルルクス伯爵は仲良くなったんですね」


「それは、まあ。気があったんですよ」


「ええ。ホンドーさんは中々に愉快な方で」


 まさか馬鹿を策に嵌めた仲、などと言えるはずもなく適当に誤魔化す。それと同時にニックについて知らせるか視線で問うも、ルルクス伯爵は首を振った。つまりわざわざ伝える意味はないということ。それはニックが完全にルルクス伯爵の手の内に落ちたことも意味していた。


 少しの間、皆で茶を楽しみ当たり障りのない会話をしたところで貸しを返してもらう。


「ルルクス伯爵。聞きたいことがありまして、ルルクス伯爵は何故開拓団から手を引いたのですか? 何か特別な理由がおありで?」


「おじさん、それはエルフとの――」


「……いえ。お話しておきましょう。東の最前線に行くのでしょう? その代わり、秘密でお願いしますね」


 おそらく今まではエルフとの恒久的な友好などを建前にして誤魔化していた質問。しかし今はその裏を聞くことが出来る唯一のチャンス。

 これを知っているか否かで、東の最前線での勤務が大きく変わるはず。


「エルフは排他的な種族です。ですが聖女様の活躍で友好的関係を築けました。その時に聞いたのですよ。東の平原の奥には獣人の国がある。そこが東端。後は北に行くしかない、とね」


 おそらくそれはルルクス伯爵が誰にも話したことがない秘密だろう。労働の対価としての情報とすれば中々のもの。

 その情報を手に入れたために、ルルクス伯爵はここで手を引いた。このまま参加しても終わりが見えている。そもそも、獣人の国と言う明らかに面倒なものを相手にしなければならない。

 それに開拓しても手に入るのはエルフの森から獣人の国までの平原だけ。しかも立地からすればエルフと獣人に挟まれた飛び地だ。そんな土地を貰って貴族になりたい者がいるだろうか。


 見方によればエルフと獣人を相手にして多大の利益を得られるかもしれない。しかしエルフと獣人と言う二つのリスクに比べれば僅かな利益だ。

 

 少し考えてみよう。獣人の国と戦争になったら? 一領地が一国から攻められる。救援を求める。王国が軍を派遣する。しかしエルフは軍を通してくれるだろうか。未だに商売すら出来ていない所だ。確実に揉めて時間を浪費する。その間に領地は滅びる。しかし王国は領地奪還に動かない。良いところにエルフと言う盾があるから。


 エルフと問題が起きれば。王国と連絡が取れなくなるだろう。そんなのが長期間続けば領民が不安になる。商人の行き来もなくなり、塩などの必需品を作れる環境でなければ干上がることになる。


 うん。絶対にそんな領地は欲しくない。渡されても断るだろう。


 そんなことを秘密にして開拓団を引退したのは、……そうか領地か。その事実を公表すれば開拓はそこで終わり。今まで開拓した土地を開拓団で分けることになる。そうなれば当然ルルクス伯爵の取り分も減る。

 

 自分の取り分のために開拓団を前進させたのか。くくく、汚い手を使う。


「獣人の国ですか。東の開拓地からそんな話は聞いていませんし、まだ接触していないのでしょう。どんな種族なのか気になりますね。それに国と言うのも、一つなら良いのですけど」


「そうだね。西にはドワーフがいたみたいだし、他にもいるのかな」


 ただまだ若いリリーナとポーラはルルクス伯爵の裏を察せず、国について考えている。


 ただ、盲点ではあった。確かに獣人の国が一つとは限らない。複数あってもおかしくはない。ただ複数だった場合はエルフ以上に面倒となる。

 大抵、国が複数あると言うことは関係がよろしくないということ。関係が良いのであれば昔に一つの国になっているはず。


 しかも西にドワーフがいたとは。それも開拓の成果なのだろうが、確かに他に多くの種族がいてもおかしくはない。

 竜は下僕として様々な世界から生き物を召喚している。竜を世話する知恵があればそれは人だ。そうだ、竜の話に召喚獣同士争い、負けた召喚獣はその地を去ったとあった。つまり人間もエルフもドワーフも獣人も、争いに負けて移動したんだ。つまり他に種族がいてもおかしくはない。


 ふむ、そこまでは想像していなかった。


「若い者の発想は時として目を張るものがあると言うが事実だな」


「そうですね。国が複数までは考えていませんでした。となると、後継を失敗したかもしれませんね」


 はい? と尋ねるように聞くとルルクス伯爵は少しの間悩む素振りを見せるも、隠し事を出来る立場でないことを思い出したのかあっさりと口を開いた。


「少しでも獣人の国の発見を遅らせるために、腕に自信のある行動力しかない者を頭にして、補佐に頭でっかちを付けたんです。立場的にも間違った選択ではなかったのですけど、二人とも仲が悪かったんですよね。噛み合わない二人がトップなら現場が混乱して開拓が遅れると考えていたんですが。ふむ、もしもの時のための手が必要ですね。……リリーナちゃん、獣人の国が複数だった場合、私の代理になってくれませんか? すでに開拓団を引退した身ですが、色々と便宜を図ったので影響力はあるはずです」


 いざとなればそこの人を頼れ、とばかりにルルクス伯爵がこちらを見て来たので、逆に不始末を押し付けるのか、と視線で責める。


「リリーナちゃん、ポーラちゃん。何か困ったことがあったら遠慮なく言ってね。どんなことでも協力するわ」


 これで良いでしょう? とばかりにそう言ってこちらをちらりと見て来た。貸し一つなら妥当な所か。

 

 それからはまだ見ぬ東の最前線と獣人の国についてリリーナとポーラが若い発想をぶつけ合い、私とルルクス伯爵はありえそうな発想についてはその時はどうしようかと共に頭を悩ました。


 そして少し離れた席にいたバリッシュ夫妻とグレイは。


「何と、やはり筋肉が付きやすい人、付きにくい人はいるのか。体質か。それはやはりどうしようもないと?」


「はい。ですから、バリッシュさんのその肉体は生まれ持った才能でもありますね」


 何故か仲良くなっていた。

 


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