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馬鹿は自らの立場を知る

「もしかして、おじさんって強い?」


 ニック・ロール・グランは決して弱くはない。剣の腕も確かなら、魔法も強力。単体としての戦力で見れば私よりも強いだろう。

 そんな相手におじさんは見事に勝って見せた。その手段は決して褒められたものではなかったが。


「グレイがそれはないって笑っているよ」


 確かに私の独り言を聞いてか、理解できない声だが確かにグレイが笑っていた。

 

「でもおじさんは勝ちましたよ。三度も」


 やや意地になってそう反論する。それに私の考えが間違っているとは思えない。何せおじさんが勝った相手はどれも弱くはない。それを相手に大した怪我もせずに勝ったのだから相当強いと言えるはず。

 なのにグレイはおかしいとばかりに笑い、ポーラに何かを言う。


「それは闘技場のルールそのものが悪いから、だって。へえ、それは私も気になる。確か何でもありのルールだよね。それが駄目なの?」


「面白そうな話をしていますね。私も混ぜてください?」


 いつの間に来たのか。ルルクス伯爵が後ろにいた。専用の席があるはずなのに。

 私やポーラが驚いていることにルルクス伯爵はくすくすと小さく笑い、一番前にいるグレイに目を向ける。


「それで、何でもありのルールはどこが駄目なのでしょう? 実戦は何でもありでしょう?」


「これは実戦じゃない。よーいドンで始まる以上、何でもありの幅も限られる。制限された何でもありなんて無意味。誰も得をしないルールだ。改定した方が良い」


 グレイの言葉が分かる。ということは、おじさんが近くまで来ている。もう試合? 多少の休憩時間は挟むとは言っていたけど。

 ルルクス伯爵もそれが分かっていたからグレイに声をかけたのか。


「でも、ホンドーさんは勝ち進んでいますよね。それは何でもありだからでは?」


「あれはルールの悪用。トモダチも言っていた。極論を言えば、子供が入場と同時に毒を撒き散らし、自分だけ解毒薬を持っていれば優勝できる。トモダチの戦い方もそれに近い」


 確かに何でもありのルール上では当然毒の利用も禁止されていない。ただ東の最前線から勧誘が来ることを望んでいる闘技者はそのような手を使わない。そんな手を使うのは……。そうか。

 おじさんは別に勧誘を望んでいない。だから何でもする。おじさんだけが例外なのではない。バリッシュも何ども優勝して勧誘を受けているが蹴っていると聞く。

 勧誘を受けることが目的の闘技者と、単純に優勝することが目的の闘技者では何でもありの範囲が違う。同じルールなのに縛られる範囲が異なるのはおかしい。


「なるほど、その通りです。良い頃合いかもしれませんね。そろそろ闘技場の役割を変えようと思っていたので。優秀な者を見つける役割から、収益を上げるための闘技場に。でしたら、どのように変えるべきだと思いますか」


 あ、おじさんが出てきた。しかしやはり疲労の色が濃い。それで本当に勝てるのだろうか。何か道具を持ち込んでいるようには見えないし。

 グレイやルルクス伯爵も応援するのかと思ったが、両者ともに興味なし。目こそは闘技場に向いているが、見ているのは全く別の物。


「うーん、そういうのはトモダチに聞いた方が良いと思うけど。似たような娯楽はあったから、それをここの文明レベルまで落とすと。無手、武器なしの部門と武器あり部門の二つを作るべきだね。後は、年に一度など武器なしとありを含めた総合トーナメントでも開けば客は中央からでも呼べるんじゃない」


「……私は戦う人を見ても楽しいと思わないのですが、二回戦の腕相撲だけで観客が盛り上がったのを見れば武器なしでも十分盛り上がりそうですね。ありがとうございます。お礼は貴方に? それともポーラちゃんに?」


「ポーラに。それなりにお世話になっているから」


 話が終わったのかルルクス伯爵はその場から離れて去る、かと思ったが私の前で止まる。


「リリーナちゃん。今回は本当にありがとう。貴女たちのおかげで想定よりも早く、綺麗な形で片を付けられそう。それとホンドーさんによろしく伝えて。何かあったら力になるから」


「あ、はい。分かりました」


 いったい何の話か分からなかったが、ルルクス伯爵が感謝しているのだけは分かった。後でおじさんに話を聞いてみよう。


「あ、トモダチ負けたね」


 去るルルクス伯爵の後姿を見送っていれば、闘技場の方はすでに決着がついていた。それもおじさんの敗北で。

 今までどんな相手にも勝ったおじさんが、薄くなっている煙の中で剣を突きつけられて手を上げている。

 見間違いようのない敗北。当たり前の光景なのに信じがたかった。


「え? 何でそんなにあっさり」


「ん? 不思議でも何でもないよ。トモダチに頼んだでしょう? ニックをどうにかならないかって。だからおじさんはニックの優勝を阻止した。それだけだよ? もう戦う理由もないから棄権すると思っていたけど、戦って降伏を選んだみたい」


 あ、と思い出すのはニックが突然宿屋に訪ねてきたあの日。私は軽い気持ちでおじさんにそう言った。そしておじさんはその頼みを叶えるためにずっと準備してくれていた。

 ありがたい。そして申し訳ない。ルルクス伯爵の召喚獣を借りたことで空いた枠に代わりに出ることになったとしか聞いていなかった。


「何か、おじさんにお礼が出来れば」


「それを直接トモダチに言えばいい。して欲しいことなんていくらでもあるだろうから」




 深夜、誰もが寝静まった時間。そんな時間に俺は町を歩いている。

 ああ、しかしまだ顔がひりひりするな。あのおっさんめ、覚えていろ。まあ、約束はちゃんと果たしたようだが。


 まあ約束を守るなど当たり前だ。相手が俺、ニック・ロール・グランならなおさら。

 目指すはルルクス伯爵経由で連絡が来た宿屋。前とは違う宿屋だが、準優勝祝いで場所を変えたとか。


 俺が勝ちを譲ったのだから優勝すべきだとは思ったが、あんなおっさんでは荷が重かったようだ。

 

 目標の宿屋まで到着。警備の人間は、見当たらない。あのおっさんが手を回したのだろうか。中々に気が利く。

 だからと言って堂々と行動はしない。目的は夜這いなのだ。慎重過ぎて問題はない。


 しかしリリーナ嬢が一階の隅の部屋で寝泊まりとは。非常に運が良い。

 ゆっくりと慎重に、外を回り目標の部屋を探し。

……やはり天に愛されている。

 

 目標の部屋の窓が開いていた。こんな幸運は早々あることではない。良いところに踏み台になりそうなものもある。

 誰にも気づかれぬように侵入に成功。部屋の中は暗く、月明かりだけではベッドがうっすらと見えるのみ。しかしそれさえ分かれば十分。


 重要なのは既成事実。すでに部屋に潜入できた時点で目的の半分は達成されている。残り半分を今!

 ベッドに突撃し、女性特有の柔肌を堪能する。どうやらリリーナ嬢は中々に筋肉質な腕を……。


「ん? これは……」


 女性特有の柔肌だ。心地よい香りもする。だが少し身長が大きくないか。確かリリーナ嬢は私よりも少し小さ――。

 直後、一瞬で俺が組み伏せられて押し倒される。


「んな!」


 僅かな月明かりが俺の上にいる女性を照らす。

 

「ルルクス伯爵! 何故ここに!」


「何故も、何も。私はここで寝ていただけですよ。貴方がいるのがおかしいのでは? ニック・ロール・グラン?」


 そんなわけあるか。俺はあのおっさんと取引をして。まさかあのおっさんは俺を騙したのか!? 許さん。

 何とかルルクス伯爵から逃れようとするも、ルルクス伯爵の方が腕は良いのか逃げられない。


「うふふ。そう慌てるな、婿殿」


「婿! 俺が! ふざけるな! ……そうだ、グラン公爵家にこんなことして!」


「グラン公爵も認めておられる。ふむ。可哀そうだから教えて上げます」


 そうして聞かされたのはグラン公爵とルルクス伯爵の謀。

 俺がリリーナ嬢と仲睦まじい関係になれたのであればそれで良い。その時はグラン公爵から礼としてルルクス伯爵に武官貴族を差し出して結婚するだけ。

 もしも失敗すれば、というよりそうなると誰もが思っていたようでその時は俺がルルクス伯爵の婿になる。それだけの話。


「公爵家の息子とはいえ所詮三男。こちらは東に大きな影響力を持つ伯爵。私は中央と強いパイプが手に入り、グラン公爵も東に大きな影響力を持てる。どちらも良い話だったというわけ。巻き込まれるリリーナちゃんには少し申し訳ないと思ったけど。だけどまさか、こんな馬鹿がいるとは思っていなかったし、あんな召喚獣がいるとも思っていなかった。婿殿のおかげで大きな借りを作ってしまった」


「ふ、ふざけるな! 誰か、誰かいないのか! こんなの無効だ!」


「あはは、自分から夜這いに来たのに何を言っているの? それにここの領主は誰? 誰が貴方を助けるの? 大丈夫、夜は長いわ」


「や、やめ。うわああぁぁ!」


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