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お嬢様は闘技場で観戦する

本日二度目の更新となります。

暑い日が続くのは嫌です。


「トモダチ、頑張ってね」


 闘技場観客席の最前列。目の前で闘技者の戦いが見える特等席。運良く私たちの下にある入り口からおじさんが出てきた。

 おじさんはすでに試合が始まっているにも関わらず、相手を一瞥してから私たちに手を振って見せた。


「……大丈夫かしら?」


「さあ?」


 試合が始まってからもいつもと変わらない様子に不安を覚え、おそらくおじさんについて最も知っているグレイに尋ねるも帰ってきたのは無情な答え。


「ええ……。良くおじさんと話しているし、作戦とか知っていると思っていたのですけど」


「ああ。それなら聞いているよ。おじさんもさすがだよね。個別に作戦を立ててさ。一回戦の相手については前に作った$#&¥」


 グレイが壊れた! 違う。おじさんの翻訳範囲外になっただけだ。気が付けばおじさんは闘技場の中央で対戦相手のホークと睨み合っている。

 隣ではずっとグレイが何か話してくれているが、残念ながら私には分からない。グレイの召喚主であれば何を言っているのか分かるのに。……そうだ、ポーラに聞けばいい!

 そう思ってポーラにグレイが何を言っているのか聞こうとした瞬間。


「あ、動いた」


 私よりも先にポーラが口を開く。それも、内容は試合のこと。

 すぐに視線をおじさんに戻してみれば、おじさんは手を使わずに靴を脱ぎ捨てただけ。そして足を肩幅まで開き、手を腰の少し横に置く。

 構え、と呼ぶにはあまりにも自然体。それにおじさんは武器と言える武器を持っていない。


 怪しいもので言えば靴だろうか。それとも袖の中に何か隠し持っているのだろうか。そのように警戒するのは相手も同じで、ホークは靴を避けるようにじりじりと回りながら距離を詰める。

 おじさんも回り込むホークを正面に捉えつつ、決して距離を離そうとはしない。


 まるで剣の達人が間合いを読むかのような攻防。もしや、私が知らないだけでおじさんは何かの達人?

 

 そして場が動いた。

 ホークが上体を動かして攻めるかのようにフェイントを入れ、おじさんがそれに釣られて右袖から何かを出して投げつけた。

 

 しかしそれは当たらない。フェイントをして攻撃を誘ったのだ。投げられた何かはあっさりと盾に弾かれた。

 直後。


 パアァン! と甲高い音と共に強烈な光が放たれた。

 遠く離れた場所で見ている私でも耳が痛くなるほどうるさく、目を開けるのに少し時間を要したのだ。

 近距離でその音を聞き、強烈な閃光を受けた二人は。


「ガハッ! ゲハッ!」


 何があったのか。おじさんは最初にいた位置よりやや離れたところでホークを眺め、ホークは赤い煙に包まれて跪き咳き込みながら剣を適当に振っている。

 まるで分からないが、勝負は決した。後はおじさんがホークに攻撃を加えれば勝利と……。攻撃を加える?

 おじさんは無手だ。無手でどうやって相手を倒す。先程戦っていた筋肉の塊のようなチャンピオンと違い、おじさんは非力だ。


 おじさんはホークに何か言っている。遠くて聞こえないが、おそらく降伏勧告。それに対してホークは剣を振り回しながら拒否。


 その返答におじさんはため息を吐くと、最初に投げつけた何かをホークの耳元へ投げつける。


 そしてまた起きる甲高い音と閃光。さすがに何が起こるのか知っていれば対策も容易。一瞬の閃光は目を瞑り回避して、すぐに目を開けば。


 ホークがもはや跪くことも出来ず、起き上がろうとする度に倒れ、戦えるようには見えない。

 これに攻撃を仕掛けるのはあまりに酷と思える。おじさんも同じ考えなのか大声に自信のある実況の男に手を振り宣言を促す。


「し、勝負あり! 勝者、ただのおじさん! ホンドー!」


 直後、闘技場を埋め尽くすのは歓声ではなくブーイング。

 一般的な観客は闘技者の戦闘を見に来たのだ。あんな意味の分からない道具を使い、血が飛ぶ所か怪我もしない戦いを見に来たのではない。

 おじさんは飛んでくる罵詈雑言に気にした様子もなく、やや疲れた様子で戻ってくる。


「おじさんは、何をしていたのでしょう」


「え? だから今説明したでしょう?」


「おじさんの翻訳範囲外だったので途中から言葉が理解できませんでした」


 ああ、とグレイは思い出したかのように頷き、ポーラも同じように今思い出したかのように手を打つ。

 もしや話が分からなかったのは私だけ? 


 そう落ち込みそうになるも、すぐに後ろの護衛の鬼、シャクドウとセイドウも話を理解出来なかったはずと振り返るが。


「ぐおー」


「あむあむ、どうしました?」


 シャクドウは寝ており、セイドウは私が買ってあげた屋台の料理に夢中。そもそも試合に興味がない様子だった。

 

「もう一度説明すると、最初におじさんが投げたのは壊れかけの魔石。ボクとトモダチが学院にいた時に魔石をどれだけ損傷させるとあの強い光と音を放つのか調べたんだ。その研究結果から魔石をギリギリまで損傷させる道具を作ったんだ。クルミ割り人形を改造してね。強い衝撃を与えるとすぐに壊れて閃光と甲高い音を発する。スタングレネードを真似た物、って言っても分からないよね」


 私が後ろの鬼に呆れている間にグレイが話し始めたのですぐに意識を前に戻す。

 魔石? 熱の魔石のこと? それとも空の魔石? 魔石は壊れると閃光と甲高い音を発するものなの?

 私の知らないことを常識のように語られてしまい、疑問を口にできないままグレイは更に先を話す。


「それで次に、対戦相手を包んだ赤い煙はこれ。トモダチが商人から買ってきた魔物の卵。これは割れると煙を出す。これにカプサイシンを混ぜたんだ。カプサイシンは学院にあった赤い植物で、あれを食用になると知った学院長、バロンが大量に育てていたから貰って取り出したんだ。その後霧吹きを作ろうとしたんだけど、難しくてね。小人も勝手にカプサイシンを舐めてから協力してくれなくて。ああ、話がずれたね。あの赤いのは粘膜、目や鼻、口に触れると強い刺激を与えるんだ。要は痛い。涙や咳が止まらなくなって苦しむことになる。さっきの人を見れば分かるか」


 カ、カプ? 良く分からない物質を使ったということだけ理解する。つまり魔法ではない技術。これこそ科学なのではないだろうか。父が求めていた技術。


「科学、と言うやつですか? 父に教えれば報酬として更に援助してくれたと思いますが」


「これは確かに科学と言えるけど。評価してくれると思う? 言っておくけど相手を殺す力のない、非殺傷型の道具だよ? トモダチは有効に使っていたけど、効果範囲が非常に狭い。これを報告して、本当に評価してくれる?」


 強烈な光と音を出すことで相手を行動不能にする道具。煙にして相手の目や鼻に入れると涙と咳が止まらなくなる道具。……駄目だ。とても今見た光景のような姿は想像できず、ただのビックリさせる道具として認識されて評価されるとは思えない。

 その効果を目にしない限り、ただの人を驚かすだけの道具だ。


「無理ですね。ああ、でも最後にホークを立てなくした方法があったでしょう。それにこの道具を使えば優勝も容易。その実績と共に報告すれば正しく評価されると思います」


「あはは、あれを使えば優勝できるってそれは無理だよ。弱点があるし。ホークが立てなかったのはおじさんが耳元で魔石を壊したから音で三半規管&$%*」


 ああ、またおじさんの翻訳範囲外になってしまった。グレイはまだ話を続けているが私は手を振って言葉が伝わっていないことを伝える。

 しかし今度はポーラに聞けばいい。おじさんの試合は当分先なのだから。

 

 そういえばおじさんの次の相手は……?


 チャンピオン。バリッシュ・ストロンガー。


 ……え? グレイ、この人におじさんは本当に勝てるの?


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