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おじさんは魔法について知る

本日二度目の更新となります。

適度に水分補給をお勧めします。

「今、戻ったぞ……」


 宿屋に戻ると同時に私は近くのソファに倒れこむ。ルダンダとの長時間の会話。いや、一方的な演説は大変苦しいものでルダンダに殺されるかと思った。

 何せ話を聞いている側の私は体力を消耗し、話をしている側のルダンダは言葉を紡ぐたびに元気になっているのだ。体力を吸収されていたのかもしれない。


 私がソファに倒れこめばすぐに近寄ってきてくれる人影。


「トモダチ、大丈夫?」


「おお、我が友よ。商人からこれを貰って来たんだが、使えると思うか?」


 ソファに倒れこんだまま、俺を生贄に捧げた商人に恨み節を延々と聞かせることで譲らせた袋を渡す。

 袋の中には薄い膜の張られた手のひらに乗る程度の小さな球がいくつか入っている。


「これは?」


「握り潰すなり、地面に叩きつけるなりしてみてくれ」


 グレイは小さな球を一つ掴むとそのまま地面に叩きつけた。すると。


「おわっ! 煙玉? 臭いは特にしない。有害物質もない。それにしては煙が広がる範囲は広いし、煙もなかなか消えない。トモダチ、これは何?」


「知らない。商人の話によると中身の入っていない魔物の卵らしい。本物の卵の周りにそのダミーの卵を産んで守るんじゃないか? 卵を食おうとすれば煙が出て知らせるとか。そういう生態の魔物がいるんじゃないか?」


 ふうん、と呟くとグレイは袋の中にある残りの球を取り出して興味深そうに眺める。

 それからしばらくして、グレイは私がそれを渡した真意に気付いた。


「もしかして、この中にあれを入れられるか聞いている?」


「ああ、出来る?」


 そろそろ体力も少しは回復してきたのでソファに突っ伏すのを止め、座り直す。

 グレイは球をジッと眺め。


「出来ると思うよ。トーナメントまでまだ時間はあるでしょ。ああ、でも実験をするからもう少し欲しいかな」


「分かった。ならリリーナとポーラが東に行くための必需品を買いに行く際に一緒に買って来る。そうだ、リリーナとポーラはどこにいる? 聞きたいことがあったんだが」


「湯浴みに、戻ってきたみたいだ」


 確かに廊下の方から女性特有の声の高い話声と、シャクドウの重い足音が聞こえてきた。

 湯浴みか。羨ましいものだ。私とグレイは満足に湯浴みも出来ないからな。

 理由は単純。お湯を用意できないからだ。


 勿論お湯を用意しようとすれば出来る。しかしそれ相応の労力がかかる。しかしリリーナとポーラの場合は魔法であっさりとお湯を用意できるのだ。

 私とグレイはリリーナとポーラにお湯を出してもらい、限られた湯量で身体を洗っている。


 今回リリーナとポーラに話を聞きたいのはまさにその部分。


「あ、おじさんお帰り。何か収穫はありましたか?」


「ええ、少し。少しお話を伺いたのですがよろしいですか?」


 人によっては湯浴み後の行動が決まっていて、それが終わってからが良いという人もいるがリリーナとポーラは特に用事もないとのことなのでそのまま聞く。

 それとシャクドウとセイドウにも一緒に聞いてもらう。


「はい。何でしょうか?」


「魔法について、お話を伺いたい」




 魔法。私やグレイの世界になかった、謎の摂理。科学文明の人である私たちでは理解できない現象。

 今までは漠然とそんな不思議な力がある、とだけ捉えていたが、今回はそうはいかない。その魔法を敵が使う可能性がある。いや、確実に使うだろう。

 公爵家三男のニック・ロール・グランは。


 対策を立てるためにはまずは魔法について知らなければならない。


「あ、最初に言っておきますけど魔力が~~、構築が~~などの話を聞きたいわけではありません。魔法とは何なのか知りたいだけで、魔法を使いたいわけではありません。とりあえず、魔法が出来ることを聞かせて頂きませんか?」


 はっきり言って私の頭はもう固いんだ。新しいことを覚えるのは難しい。だから出来ることだけ知れれば良い。


「そうですね、私たちのように魔法を気軽に使えるようになるには十数年かかりますから。出来ることだけ話せば十分、と言いますが何から話しましょうか。……まずは魔法の脅威についてお話ししましょう」


 魔法の脅威か。考えてみると私は魔法の脅威をあまり知らない。サラマンダーが火を噴いたり、ケルピーが水を吐き出したりし続けるなどあれも魔法だったとは思うが便利な道具程度。他に記憶にあるとすれば竜の水を生み出した魔法だ。一瞬で辺り一帯を流すほどの水量を生み出していた。

 

 人にあれと同じことが出来るとは思わないが、あれを小さくすれば人の使う魔法に似るのではないか。


「まずですね、私たち学院の卒業生であれば人並みの大きさの魔物は魔法を使えば一撃で殺せます。人によって魔法の属性、扱う力は異なりますが結果は変わらないでしょう。魔物によって有利不利がある程度ですので。実際に見せますと私は火を扱うのが得意なので、このように人の胴体並に大きな火球を生み出して放つことが出来ます」


 そう言うとリリーナは目の前に大きな火球を生み出した。現れた瞬間、ジッと肌が焼ける感覚がしたがそれは幻覚。魔法の力なのか、火球に近寄っても一切熱を感じなかった。


 その横ではポーラもまた杖を振り同じ大きさの水球を作り出した。


「危ないので触れないでくださいね。あ、ポーラはこのように水の力を得意とします。一見攻撃力はなさそうに見えますが、石などを混ぜて噴出させることで足止めをしつつ怪我を負わせられますし、範囲は短いですが勢いよく水を噴出させることで対象を抉ることも出来ます」


 別に水の力を侮るつもりなどないが、リリーナが一生懸命説明してくれているので黙って聞く。ただポーラよ、その水の球をふよふよさせるのは止めてほしい。竜の時の事故を思い出して怖いのだ。

 

 それから更に魔法の連射性や使用回数、制限などを聞いていき大体のことは把握を終えた。


「つまり、本人の力量にもよるが、一度の戦闘に使用できる回数は十回。回復には時間要し、連射性能は五秒に一度。使いすぎることに対してのデメリットはなく、周りの環境に気を付けながら使えばよいと。なるほど」


 この性能で一度でも当たれば負けは必至、というのは辛いな。どう対策したものか。


「それにしてもおじさんはどうして突然魔法について知りたいと思ったんですか? 魔法が使える相手など貴族か、研究者くらいしか……。あ、もしかして」


「ニックが使うと考えている。闘技者については調べがついたけど、彼が何を得意としているかは分からなかった」


 さすがのルダンダも闘技者ではないニックのことまでは知らなかった。知っていたら知っていたで怖いものだが。

 武の公爵の息子なので弱いなどとは思えないのだが。


「噂で聞いたことがあります。ニック殿は剣の腕前は大変優秀で、世代の中でも頭一つ抜けていたと。魔法は雷の魔法を得意として、戦闘は単独を好むと。まあ、雷の魔法を扱う時点で集団戦を想定していないのでしょうが」


 魔法だけでなく剣も使えるのか。遠近両方に対応してくるか。面倒だ。しかし雷の魔法は受けが悪いのか? 二人の反応を見る限り、好ましい魔法だとは思っていないようだが。


「あ、雷の魔法は強いですよ。甲羅など身を包む硬い魔物にも有効ですし、発動してから早いですから。ただ、集団戦では魔物を貫通して味方に当たりますし、下手すると剣に引き寄せられて魔物に当たらないなんてこともあるので、指揮を執りながら戦うことが出来なくなるため選ぶ人は少ない、ということです」


 なるほど。確かに指揮を執りながら戦うことを念頭に置いていれば雷の魔法は使わない。しかしそうか、放った後の魔法は自由に動かせないのか。それは良いことを聞いた。


 これでニックの対策も立てられる。


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