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おじさんは闘技場マニアに出会う

 トーナメントは現在予選が開かれている。闘技場ではトーナメント本線に出場するため、一般闘技者が奮戦している。

 しかし私はルルクス伯爵の粋な計らいにより、すでに本選出場が決まっている。

 ははは、嫌になる。


 今から本選のことを考えると……。待て、考え過ぎるな。

 作戦もあるし、勝算もある。しかし慣れないことであり、楽観的に考えられるわけでもなければ、プレッシャーを受けずに日々を過ごせるわけでもない。

 

 これが慣れている会議や交渉などであれば、もう少し楽なのだが。まあ、そのようなことを考えても仕方がない。今は出来ることを全力でするとしよう。


 そんなわけで商工会にやってきた。商品を見に来た部分もあるが、本命は別。


「有名な闘技者ですか?」


「はい。今は闘技場でトーナメントが開かれているでしょう。注目すべき選手などを知りたいのです。やはり観戦するうえで知っていると知らないでは、楽しさが違うでしょう?」


 闘技者の情報収集。何も私が戦うのはニックだけではない。ルルクス伯爵何を考えてどう動くか分からないが、ゲストとゲストを一回戦で戦わせるとは思えない。それならエキシビションマッチなどと銘打てばよい。

 となれば最初に当たるのは一般的な闘技者。ルダンダから全ての情報が集まるとは思っていないが、商工会会長のルダンダならば顔も広く闘技場マニアのような人を知っていてもおかしくはない。

 と思っていたのだが。


「その通りです! 血沸き肉躍るあの戦いを、誰と誰が戦っているのか分からないなど面白さを半減させているようなもの。セーイチさんでしたか、貴方は良く分かっておられる!」


 どうやら最初から当たりを引いてしまったようだ。ルダンダ自身が闘技場マニアだったとは。


「やはり最も注目すべきはチャンピオン。バリッシュ・ストロンガーでしょう。商工会会長と言う立場上他に勧めるべき選手がいるのですが。彼の話からしないと始まらない!」


 ……私は話しかける相手を誰よりも正しく引き当て、そして間違えたのかもしれない。

 この熱意ある強弁、知っているぞ。かつて野球好きの上司が延々と語りだしたあの時と同じだ。


「バリッシュ・ストロンガーは今まで何度もトーナメントに出場し、その度に優勝してきた闘技者です! もはや歴史に名を残す闘技者と言っても過言ではない! 彼の戦い方は実にシンプル。他の闘技者と違い肉体一つで戦うのです。彼の鋼鉄の肉体は剣を弾き、槍を通さず、弓矢をあっさりと払い除ける。その上彼の拳は鉄の盾を粉砕し、蹴りは鉄の鎧を鉄隗に変えてしまう。正にその姿は無敵の鉄人――」


「ありがとう、ありがとうございます。お聞きしたいのですが、トーナメントで優秀な成績を収めた人は最前線から勧誘を受けると思うのですが。もしや、条件がよろしくないとか?」


 気持ちよく話していた所を遮られてルダンダは僅かに嫌な顔をするも、話す方向性が変わっただけと分かってすぐに満面の笑みに戻った。


「その通り、確かにトーナメントで優秀な成績を出した方は東の最前線に誘われます。チャンピオン、バリッシュ・ストロンガーも例に漏れず誘われました。勿論好待遇です。ですが、彼は断りました。その理由について私の方でも調べたところ、彼は南の大陸出身の生物学の学者でした。そこから私は使える伝手を全て使い、彼に直接尋ねることが出来ました。何故海を渡ってまで王国の辺境とも言えるルルクス伯爵領に来たのか。闘技場で何を成したいのか。彼は答えてくれました。自らの仮説を証明するためと。ここからは推測になりますが、最強になるための理論を組み立てたのではないかと。それの理論の証明のために、彼は戦い続けているのではないかと!」


 情熱に溢れた熱弁。この話には非常に価値があると思うし、ルダンダの闘技場を愛する気持ちも伝わってきた。しかし、その話に付いていけているかと言えば別。ルダンダの熱意が暴走しているため、どうしても勢いに気圧されて半分くらいしか頭に入ってこない。


 この手の相手は暴走を許すともう手が付けられない。誰かに助けを求めるように商工会内に視線を向けるも、誰もが目を逸らす。誰も止め方を知らないようだ。

 となれば自分でどうにかするしかない。


「あの、たくさんお話しして頂き大変ありがたいんですが、お仕事の方は大丈夫でしょうか?」


「んん? あ、ああ……。そ、そうだな。まだ話足りないが、皆忙しそうだ。私だけこのように話しているのも悪い……」


 これが私の逃走経路。仕事を出されれば他の従業員の手前、話を続けるのは不可能。どれだけ名残惜しくともそこで話を終わらせるしか――。


「会長、こっちは大丈夫ですのでお客人とお話ししていてください。本当に危なくなったら呼びますので」


 商工会の中に刺客がいた。一人の商人がそう言うと周りの商人も一斉に笑顔で頷き、それを見たルダンダは笑顔でこちらに振り替える。


「大丈夫だそうです!」


 そんなルダンダの背後では、最初に声を上げた商人がこちらに向かって手を合わせて頭を下げている。

 謝罪だ。私を生贄に捧げたことに対する。

 

 分かるとも、大いに良く分かるとも。

 野球好きの上司も野球の話を存分にした後は機嫌がよく、仕事もいつもより早く終わった。ルダンダも同じタイプと言うことだろう。


 許さんからな、商人ども。絶対に許さんからな。これが終わったら貴様らの商品、格安で譲ってもらうからな!


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