おじさんはルルクス伯爵に嵌められる
「しばらくは動かないでください」
「何故だ」
ホンドーが帰り、商工会会長のルダンダから話を聞き終えた後に帰ってきたニックにそう告げる。
変わったのだ、優先順位が。お前の遊びに付き合っている暇はなく、ルルクス伯爵領発展のためにもホンドーが襲われる事態は絶対に避けなければならない。
しかしそんなことを言ってもニックは納得しないだろう。こいつは自分の考えが最優先されると考えている馬鹿だ。
ただ何とか上手いこと説明しないとこの馬鹿は勝手に動く。それは困るのだ。
ホンドーを襲うのは勿論だが、これ以上無駄に警備に捕まえる人員を増やしてほしくない。
この馬鹿が使っている人員は私が目こぼししてやっている裏組織の人員だ。この町は闘技場がある性質上、素行の悪い者が多く警備だけでは取り締まることが出来ない。だから意図的に治安の良い場所と悪い場所を作り、治安の悪い場所は裏組織に管理させている。
裏組織の人員を捕まえすぎると裏組織の力が弱まる。そうなれば更なる治安の悪化を招きかねない。しかし警備からすれば捕まえる必要がある相手なため、見逃すわけにはいかない。
馬鹿は邪魔なのだ。屋敷の片隅で黙っていれば……。そうだな。
「私があの者を、ホンドーを上手く嵌めました。なので下手に動かれると困るのです」
「何? 何をしたんだ?」
私はホンドーが参加する催しについて馬鹿に分かりやすく教える。
「それに俺は」
「参加してもらいます。お好きでしょう?」
私の権力を使えばその位のことは容易。それに良い目玉にもなる。
さて、更に馬鹿に発破をかけて盛り上げてもらおう。単純な馬鹿はこういう時に助かる。
どうせ結果は決まっているのだから。
ぐえええええ! 嵌められた!
ルルクス伯爵邸から宿屋に戻り、リリーナとポーラが何かを聞きたそうにしていたがそれに気に掛けるほどの余裕が私になく、すぐにベッドに倒れこんでもだえ苦しむ。
「トモダチ、大丈夫?」
「大丈夫じゃない。卑劣な策にはまってしまった」
気にかけてはいたんだ。ただセイドウを貸した代金のようなものだと思って、こんな風に使ってくるとは想定もしていなかった。
これも全ては。
「セイドウさんが裏切らなければ」
「ええ……。だって私、貴方のことはあまり好ましいと思っていませんし、それに召喚主のルルクスを優先するのは当然でしょう?」
非の打ち所がない正しい発言。もう少しセイドウの好感度を稼いでおくべきだったと後悔する。食事代をケチらなければこちらに付いてくれただろうか。
無理だな。それだけで関係を覆せていたとは思えない。他に好感度を稼ぐ機会などなかったと思うし、つまり何をやっても無駄だったと考えるべきだ。
「念のためにセイドウさんの好みのタイプを聞いておこう」
「男らしい人ですね」
うん。私から程遠いタイプだ。この手の男らしいとは力のある、逃げ隠れのしない人を指すのだろう? 私は逃げるし、隠れるし、力もない。好みの正反対にいる存在だ。
「ちなみに私の好みは太っ腹な男だぞ」
「シャクドウさんの好みは聞いていません。それにそれは都合の良い財布が欲しいだけです」
隙あらばねだってくるシャクドウを押しのけて、現実に向き合うために起き上がる。
「おじさん? 何があったんですか?」
「ああ、ルルクス伯爵邸でちょっと。セイドウを護衛に借り受けた際にセイドウの仕事を代わりにやってくれと頼まれていたんだ」
それがまさかこんなことになるとは。思い出しただけでベッドに倒れこみたくなる。いやもう倒れる。
ぐえー、と倒れる私を心配する様子でリリーナが恐る恐る聞いてきた。
「な、何を頼まれたのですか? 私に代われることでしたらルルクス伯爵にお願いして私に」
それは良いかも、と一瞬希望を見出したがすぐに駄目だと諦める。何故なら。
「お気持ちだけ、受け取ります。私が頼まれたのは数か月に一度闘技場で開かれるトーナメントの参加ですから」
そんな所に護衛対象であるリリーナを参加させるわけにはいかない。
唯一の救いは参加するだけで良いということ。別に勝つ必要など。
「リリーナ殿、おられますかー!」
こんな夜分遅くにいったい誰が? いや、誰かなど決まっているか。




