おじさんは商工会の前で馬鹿に出会う
不届きな乱暴者に続いて、意味の分からない乱入者の登場だ。商工会近くにいた戦士はチンピラをボコボコにしている者を除き、その乱入者に殺気を飛ばす。
乱入者は戦士たちの眼光に気圧されながらもすぐに立ち直り、逆に周りの戦士を威圧する。
「何だその目は! 俺をニック・ロール・グラン。武のグラン公爵の息子と知っての目か!」
肩書で。情けないとは思わないのだろうか、自分が気圧された際に頼るものがそれで。
しかしグラン公爵の肩書は優秀なようで、周りの戦士たちはニックから目を逸らし少しでも顰蹙を買わないようにしている。
そんな周りの反応にニックは満足そうに笑みを浮かべる。
「ん? 何だお前は!」
「何だ、と申されましても……」
周りが自分から目を逸らすことのどこに快感を得ているのか分からないが、その中で唯一自分を観察するような視線があれば気になるのは当然。
ただ声のかけ方が……。黙って悦に浸っていれば良いだろうに。
「おじさん、何かあった……ニック殿?」
「おお! リリーナ殿! ご無事で」
曖昧な問いかけにどう答えたものかと悩んでいれば、商工会からリリーナが現れ、そのリリーナに誰よりも早くニックが食いついた。
餌を投げ入れられた鯉のような素早い食いつき。それだけで大体のことは理解してしまう。
騒動のことなど知らないリリーナは、何故か安否を心配してくるニックにたじろぎながらも、適当な言葉を返し少しでも距離を取ろうとしている。
その間に私は捕まえたチンピラを急いで警備に渡してくるようにお願いする。
さて、私の想像通りであれば、このニックとかいうのにとってチンピラを警備に渡されるのは困るはず。頭の出来もよろしくないようだし、常識的な話が通じるとは思わない。下手すると肩書を盾にチンピラをかっさらう可能性もある。
ならば。
「ミック殿、商工会に何か用事があったので?」
「ニック、だ! 何だお前は」
「えっと、私の召喚獣で。それよりそうです、ニック殿は何か用事があったのでは?」
少しでもチンピラの方に意識が行かないように私とリリーナに注目させる。シャクドウ、ニックの視界を塞ぐように立って。それで良い。
「ん? ああ、騒ぎが聞こえてな……」
「ふむ? 騒ぎなど一瞬。余程近くにいないと聞こえないと思うのですが」
私は知りませんでした、とリリーナからの援護もありニックはしどろもどろになり、明確な言葉を出せなくなった。
それはかわいそうだと、私は助け舟を出してやる。
「商工会で何かを買いたいものがあったのでは?」
「う、うむ! そうだ、その通りだ!」
「やはり、そうでしたか。ルダンダ殿、お客さんです」
泥船の助け舟だがな。
私の言葉にあっさりと乗っかったニックはルダンダに案内されるがまま、商工会へと入っていく。その間に私たちは皆を集めて撤収。商工会を後にする。
「目ぼしいものは見つかりました?」
「はい。ルダンダが向こうの環境を教えてくれて色々とお勧めしてくれたので、それらを買おうかと。ポーラは?」
「面白そうなのが多かったから」
リリーナは実用性の高いものを、ポーラは面白そうで珍しいものを選んだようだ。リリーナについては当然だが、ポーラもグレイを召喚するような人物だ。多少変わった物を選んだとしても不思議ではない。
宿屋に戻る道中、私は先程の出来事を振り返る。
あのニックとかいうのは、おそらく武の公爵。グラン公爵の派閥から送られた刺客であり、妨害工作員のようなものだろう。
どのように考えてもあの商工会での一件は自作自演。リリーナへの食いつきの早さから目的はリリーナと分かる。
だからこそ、困ってしまう。私でも簡単に分かってしまうような拙い妨害工作員を大派閥が送るだろうか。それも三男とはいえ息子だ。使い捨てにするには惜しいはず。
もしかしたら私が思っているよりも、中央の貴族も武の公爵の派閥もこちらの動きを気にしていない? それとも別のことに注力する必要がある?
今のところ妨害らしい妨害もなく、嫌がらせ程度。もしも想像通りならば。
ルルクス伯爵を動かせるはず。
「リリーナ、ポーラ。宿屋に戻ったらそこで待機していてはくれませんか? 先ほどの一件は私たちを狙っての可能性もあります。私はルルクス伯爵に報告してきますので」
宿屋にはグレイを残し、護衛にシャクドウとセイドウを連れて行く。
私の方が弱いからね、魔法が使えるリリーナやポーラよりも。
さてさて、何が釣れるだろうか。




