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おじさんは商工会で鬼から逃げる

本日二度目の更新となります。

台風にお気を付けください。

 グレイが欲したのはうどん一杯。食堂で売っている値段で見れば、ここで売られているうどんはぼったくり価格で味もよろしくない。

 しかし所詮はうどん一杯分の値段。


「すーくーなーい」


「た~り~な~い」


 鬼の二人が求める金額には到底及ぶはずもなく、二人の鬼から猛抗議を受けている。

 二人の鬼に際限なく飲み食いをさせるとどんな酷い金額になるのかは分かっている。そんな怖い金額など目にしたくない。


 しかし、今の状況もまた怖い。長身の鬼と小柄の鬼に挟まれる姿を羨ましそうに見てくる商人がいるが、二人の力は私の頭を握り潰すなど造作もないこと。

 熊やトラにじゃれつかれているようなもの。恐怖で肝が冷えっぱなしだ。


「あ、あのおじさん! ご相談が……、お邪魔でしたか?」


「まさか。むしろ感謝したい。ほら、諦めて離れろ」


 今ばかりはリリーナが天使に見える。金をせびる鬼を引き剥がし、鬼から逃げる。いやリリーナの下へ向かう。

 後ろから鬼の恨めしそうな声が聞こえるが無視する。


「それで、相談とは?」


「あの、商人の方々が様々なものを見せてくださったのですが、どれが良いものか分からないのでおじさんの意見も頂けないかと」


 ああ。確かにあれほどの数の商人から次々と商品を見せられては、迷うし決められないのは良く分かる。

 誰かの意見を貰うというのは決して間違ってはいないのだが。


「商工会の偉い人は挨拶に来ましたか?」


「……いいえ? 確かにもう挨拶に来ていてもおかしくはないですが、私たちが選んでいるのを見て待っているのでは?」


 商品を見て悩んでいる人を見て商人が待つ? それは何だ? 狩人が獲物を見つけたが寝ているので起きるのを待つと言うのか。

 そんなことはありえない。となれば。


「ポーラは?」


「あの子も商品を前にずっと頭を悩ましていますが?」


 なるほど。ならばまずはそこに行こう。きっと、そうすれば悩む必要もなくなる。

 一緒に商品を見てくれると思ったのか、リリーナは見せられた商品について色々と話してくれるがほとんど聞き流す。

 何故なら。


「おお、リリーナ様。失礼しております。私はここの商工会の会長、ルダンダと申します。なにやら商品のことでお困りの様子でしたので、参考になればと思い僭越ながらアドバイスをしておりました。あ、ポーラ様。それの最新式の物が丁度私の倉庫にございます。ご用意いたしましょうか?」


 やはり。お偉いさんが来ていた。

 そりゃ公爵との繋がりが持てるかもしれないんだ。木っ端の商人にそんな機会を譲るはずもなく、最後に出てきて全部かっさらうつもりなのだろう。

 

 だが決して悪いことではない。買う側のこちらとしては。商工会の会長が貴族相手にぼったくるはずもなく、少しでも印象を良くしようと良品質の物を良い値段で売ってくれる。

 ならば後は必要な物だけを買う流れを作ればいい。


「すみません、エルフの森とはどんなところでしょう? 涼しいのでしょうか、温かいのでしょうか? 東の最前線に行くとは言え、エルフの森も一日二日で通り抜けられる場所ではないでしょう? どんなものが必要ですか?」


「え? あんた……。あ、はい! そうですね、エルフの森は湿気があり中々に涼しいところです。ただ問題点がありまして、あそこでは木の実や果実の採取が禁止されております。ですので、木の実や果実は持ち込む必要があります。確か保存の効く果実が私の所にあったはずです。ご覧になりますか?」


 せっかく目の前に熟練の商人がいるのだ。並べられた商品ではなく、要望を言ってその商品を用意させた方が良い。

 一度やり方さえ見せてしまえば賢い貴族だ、ポーラもリリーナも東の最前線についてあれやこれやと聞いては必要なものを紹介してもらう。


 これでおじさんは用なし。しかしこれで良いとばかりに離れては二人の鬼にまた挟まれて、今度は暴力を背景に恫喝される可能性もある。それを回避するには、どうする?


「おらおら! てめえらどけ、ぐぎゃ!」


 などと思い悩んでいたら商工会の外から三下のような声が聞こえた。威勢が良い声も一瞬で悲鳴になったが、こちらは狙われている身。状況把握のため、外に出てみれば。

 そこには商人の護衛としてやってきた十数人の戦士と、現在進行形でボコボコにされている路地裏にでもいそうなチンピラの姿が複数。


 ……ここに、あの程度の数で襲撃にでも来たのか? 装備も、数もまるでおかしい。その極めつけに。


「何の騒ぎだ!」


 一瞬で鎮圧されたため騒ぎにもなっていないのに現れた男。

 ……嫌な、違うな。馬鹿な予感がする。


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