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おじさんは商人から大事なものを受け取る

 翌日。治安が悪く、誰が敵なのかも分からない状況なのだと共有したところで、町に出る。

 嫌がらせの一月の滞在だろうが、準備期間であることには変わりがない。危ないからと言っていつまでも宿屋に引きこもっているわけにもいかない。


 幸い、こちらには頼りになる味方がいる。問題はその味方が今どこにいるかなのだが。


「商人がこの町に来て早々に向かう場所はどこだ?」


「商人の向かう先? なら商工会でしょう。……あの辺りなら治安も良いから、向かう先としては正しいわね。知り合いでもいるの?」


「やり手の商人と来ましたので」


 やり手ね、とセイドウは疑わしそうな顔をしながら商工会のある場所に案内してくれる。

 まあ、疑うのも仕方がない。エルフと商売をしたがる商人など今まで何人もいただろうし、ルルクス伯爵に協力を仰ごうとした者も数多くいるだろう。

 そんなルルクス伯爵の近くにいたセイドウからすればやり手の商人など詐欺師と同じ。言葉だけ立派で、成果を出さないのだから。


 まあ、話に聞く限り東の開拓は一度ここで行き詰まり、近年になってようやくエルフとの関係が改善されたのだ。簡単に良好な関係を築けるのであれば開拓がここで詰まることもなかったはず。


 聖女、なんて特殊な呼び名が生まれるようなことが起きないと関係が改善されないのだ。エルフの警戒心は中々のものだと想像できるし、多少やり手の商人ではエルフを相手に商売するのは難しいのだろう。


 その点で言えばマイケルはどうか。勝算はあるなど言っていたが、そんなものはどの商人もあってここに来た。その結果、未だにエルフと商売が出来たという話を聞かないのが現状なのだ。


「ルルクス伯爵としてもエルフと友好的な関係を築いて商人が行き来するような未来を望んでいるのでしょう?」


「そうね。でもエルフの頭の固さも中々のものだから。ルルクスもさすがに諦めているんじゃない?」


 諦める? そう簡単に諦められるものだろうか。現状この町は商人と闘技場で収益を得ているが、商人がここに来る理由は開拓の特需とエルフとの商売を夢見て、だ。しかしそろそろエルフとの商売をして結果を出す商人が現れないと、商人が夢を見るのを諦めて離れてしまう。商人がここに来る理由の半分を失えば、ここに来る商人は半減、まではいかないかもしれないが減るのは確実。


 奇跡程度は願っているだろう。叶わないと知りつつも。


 そんな話をしている間に商工会の近くまでやってきた。怪しい人影やこちらを見てくる人は多くいたが、それは鬼やグレイへの物珍しさの視線か、リリーナやポーラを狙っての視線か分からなかった


「……騒がしいですね」


 私は商工会を知らないためどうなのか知らないが、確かに宴でもしているのかと思うような笑い声と上機嫌な声が聞こえる。


「普段は?」


「この辺りはあまり来ませんけど、それほどうるさくないです。それにほら、この辺りには戦士が多いでしょう。闘技場の噂を聞いて商人の護衛として付いてくるんです。で、現実を知ったら商人の護衛をして戻るわけです。だからここで問題を起こすのはいないはずなんですが」


 セイドウは何か問題があったため騒がしいと思っているようだが、私は違うと思う。商人が騒ぐなど大損をしたときか。


「あ! セーイチさん! やりましたよ! エルフとの商売! かなり良い手応えです!」


 大儲けした時だろう。そして今回は大儲けの兆しがあるようだ。

 えへへ、と笑いながらマイケルが千鳥足で近寄って来るが案の定酒臭い。この手の酔っぱらいの相手は慣れてないと厳しいのでセイドウに皆を商工会に案内してもらい、私は酔っぱらっているマイケルに肩を貸す。


「ほら、マイケルさん。戻りますよ」


「本当にセーイチさんのおかげです。あれをエルフに渡したらもう本当に反応が劇的で、ぜひ商売がしたいって! えへへ、だから」


 上機嫌なマイケルの言葉を適当に流しながら商工会に向かっていると、マイケルがスッと見た覚えのある布袋を私の懐にしまった。


「それ、持っててください。私も商工会に守ってもらいますが、絶対に安全とは言えませんので」


「……あーはいはい。どんなに呑んだのか知らないけどさっさと行くよ」


 一瞬真面目な顔をしたマイケルだが、すぐに酔っぱらいの腑抜けた笑顔に戻る。私もそれに合わせる。

 成功する者は妬まれる。商工会は味方してくれるようだが、商人全員が味方となるわけではない。それに成功者だから狙われる、金を持っているから狙われる。狙われる理由なんていくらでもある。

 

 その対策の一環として重要なものを信頼している私に預けたのだろう。まあ私は公爵令嬢の召喚獣。普通なら狙わない相手だろう。普通なら……。


 今はちょっと特殊な状況なのだが、守り切って見せるとも。絶対に。

 

 マイケルを商工会まで運べば、そこには酒を呑んでいびきをかきながら寝ている商人と、リリーナとポーラに商品を売るため一列に並んで商品を売り込む商人がいた。

 商人たちの用意が随分と良い、と思ったが事前にルルクス伯爵から連絡が入っていたのだろう。東の最前線で活動するための必要な商品を集めていたのだろう。

 

 顔がやや赤い商人が多いが相手は貴族のご令嬢、舌が回らずなどと失敗する商人はおらず自分の商品が東ではどれほど有用になるか売り込んでいる。


 ……シャクドウ、グレイ、セイドウ。何故私の周りに集まる?


「トモダチ、あっちでうどんを売っていた。凄いね、数か月でここまで広がっている。食べたいな」


「おっさん。あっちにな、酒があったんだよ。ここずっと呑んでないからさ~」


「おじさん。あっちにエルフの森にしかいない魔物の肉が売られていたわ。護衛の腹を満たしておく必要があると思うのだけど?」


 おお? 人が金を持っているからとたかりに来やがったな。良いだろう、私もここの商人が何を売っているのか確認したかったんだ。


 あ、でも一人の限度額は決めさせてもらうぞ。ではグレイと同じ金額までだ。


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