ルルクス伯爵の馬鹿の相手に苦労する
本日二度目の更新となります。
暑さが少し和らいだ気がします。
「どういうつもりだ、ルルクス伯爵!」
久しぶりの楽しいやり取りを思い出しながら自慢の庭で紅茶を飲んでいれば、無粋な馬鹿がやってきて折角の後味を台無しにしてくれる。
私の機嫌をどれほど損ねたのか分かっていない馬鹿は、庭を荒らしに来たのかと思うほどに強い足取りで私の前に立つ。
「何か御用かしら? ニック・ロール・グランさん」
ニック・ロール・グラン。数日前に招いてもいないのに私の屋敷にやってきた迷惑な客。
二十を少し過ぎた程度の若い男。顔こそ整って見えるが、中肉中背で顔以外の特徴がない。腰にかけた剣や派手な服装から非常に金がかかっていることが分かる。
それも当然。この若造は武のグラン公爵の三男坊。おかげで無下に追い返すことが出来ず、屋敷に泊めてやっている。
「何か、ではない! ルルクス伯爵の召喚獣まで貸してしまっては、問題が起きないではないか。どうするつもりだ!」
があがあ、と野生の動物の様にうるさい。少しは物事を考えてから口を開いてはくれないだろうか。
あのおじさんのように。
あのおじさん、ホンド―は私が敵意を抱いているか確認するために召喚獣を護衛にと欲した。あの時、私に断るという選択肢はなかった。陛下の名前を出されて東の最前線に向かうと言われてしまえば、立場上協力するしかない。
もしも護衛を断れば、それは陛下の命を受けて動く者を蔑ろにするということ。回りまわってそれは陛下を蔑ろにすることになってしまう。
いずれ敵が増える私にとってそれは致命傷だ。だから召喚獣を護衛として渡したのだが。
そう説明してもこの馬鹿には分からないだろうな。
「落ち着いてください。向こうは私の召喚獣と同じ鬼の召喚獣を連れていましたから、貴方の考えていた計画は無理と判断しただけです。それにこの町の治安に不安を抱いているようでしたから、少しでも警戒心を解くために私の召喚獣を護衛に付けたのです」
そもそも、ニックと言う三男坊が持ってきた計画が杜撰すぎるのだ。
中央貴族から放たれた刺客からリリーナ公爵令嬢を助ける。もしくは自分たちで用意したごろつきにリリーナ公爵令嬢を誘拐させて、それを助ける。
最終目的はリリーナ公爵令嬢との婚約。
この馬鹿はその計画を自慢げに話ながら公爵家の三男と三女だ。身分的に何の問題もないと抜かした。頭の方に問題があると気付いてほしい。
そもそも前者の計画はまだ良いとして、後者の計画は私の領地、私の膝元で公爵令嬢が攫われて事件の解決も別の貴族。私のメンツが潰れていることを分かっているのだろうか。
馬鹿に全てを任せておくと馬鹿なことしかしないため、こうして手綱を引いているのだが、時折その手綱を思いっきり引っ張って谷底に落としたくなる。
そんな衝動にかられながらも行動に移さないのはこの話の報酬の為。三男坊はまるで駄目だが、グラン公爵はさすがに武官派閥のトップなだけあって良いものを提示してくれた。
「ならばさっさと新しい計画を立てろ! お前の所為で計画が台無しだ。成功しない限りお前の婚姻の話はない」
あんなものは計画とは言わない。妄想と言うのだ。
何も知らないニックをどうしたものかと考えるも、その時間が無駄なように思えてきた。ニックには妄想の白馬の王子様にでもなってもらって、その間に私に被害が出ない形の計画でも考えておく方が有意義なのではないか。
ああ、でもそのためには。
「ええ、分かっております。それよりも相手の情報、特にホンド―について情報はありませんか? 以前お話頂いた、周りの言葉を自動的に翻訳できるだけのただのおじさん、だけだとは思えないのですが」
「あんな小物の情報など他にない。それよりもお前と同じ召喚獣の鬼や物を消す力を持つ奴のことでも調べろ」
小物、ね。そんな小物に鬼がついて行き、公爵令嬢が気を使うものか?
幸い、こちらには非常に強力な切り札がある。これを切るタイミングを誤らなければ最低限の成果は出る。
まずは白馬の王子様がどう失敗するのか。それに対する向こうの対応を見て切り札を切るタイミングを決めましょうか。




