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おじさんは宿屋で弁明する

「おじさん! さっきのはどういうことですか?」


「あー。後で話しますので。とりあえず宿屋まで行きましょう。そっちの方が安全です」


 やはり強引過ぎたか、リリーナが宿屋への道中で突っかかってきた。それにもう一人、今にも私を殺しそうな目で睨んでいる者がいる。

 果たして理由を説明して納得してもらえるかどうか。


 案内された宿屋はこの町で最も大きな宿屋。とはいえ、この町は歴史的に浅く、開拓の特需を狙う商人や闘技場で収益を得ているため、豪華な宿屋などはない。私が学院で泊まった宿屋を大きくしたような、一般人が奮発して泊まる程度の宿屋だ。

 そうなると気になるのはセキュリティ。治安の良くない町の為、普通の町よりかは厳しいだろうが気に掛けることは決して悪いことではない。

 

 ただそれはルルクス伯爵も同じことを考えたのか、宿屋には通常の警備員の他に領主が寄こした警備員がおりかなり厳重になっていた。これなら安心できる。


 むしろ私の安全が脅かされるのは部屋に入ってからだ。


「さあ、話を聞かせて頂きますよ。おじさん」


「ええ、本当に。お話を聞きたいわ。おじさん」


 やや怒り気味で聞いてくるリリーナは良い。怖いのは微笑みを浮かべて話を聞きたがっているセイドウの方だ。

 セイドウについてはまだ出会ったばかりでやや怖い部分もあるが、シャクドウと同じ鬼だと考えれば、慎重に話をしていると焦れる拳を振るってくる可能性がある。となれば。


「ルルクス伯爵が敵かどうか確認しただけです。他に質問は?」


 最初から突っ込むに限る。

 これが正解だったようで、セイドウは怒りの微笑みから少し考えるような仕草に変わった。ならば今のうちに。


「あのですね、おじさん。ルルクス伯爵が敵なはずがありません。ルイス公爵家を妬む貴族は確かにいるでしょう。しかしそれはルイス公爵家と接点のある中央の貴族や武の公爵の派閥などで、中央から遠く派閥争いか縁の遠いルルクス伯爵が関わっているとは到底思えません」


 まだまだ考えの甘いリリーナの相手だ。


「ではここに敵はいないと?」


「いえ、そこまでは言いません。中央の貴族や武の公爵の派閥から刺客が来ている可能性があります。それについて警戒する必要はあると考えています」


 なるほど、少しは考えていると。……まだ考えが甘い。

 誰か、溜息を吐いて良いよ。グレイもシャクドウも興味なさそうだね。ポーラは、話は聞いているが意見があるようには見えない。ならば仕方がない、私が溜息を吐こう。


「ではその刺客がすでにルルクス伯爵と接触しており、協力を打診していたら?」


「……あ。でも父がルルクス伯爵は豪快な人だから、下らないことに手を貸す人ではないと」


 逆に言うと下らないこと以外は手を貸すということ。今の台詞をこちらのセイドウに向けて言ってくださいな。


「そこで私に振るのは卑怯じゃありません?」


 卑怯ではありません。なのでお答えをどうぞ。


「客の出入りなんか知らないわ。ただ、ルルクスは清廉潔白な人物ではないわ」


 そりゃそうだ。今は譲ったようだが、過去に開拓団の指揮を執っていたのだろう? 馬鹿正直に生きて周りが付いてくるようなカリスマがあるようには見えなかった。


「それに、ルイス公爵はルルクス伯爵を豪快と評したらしいが、君から見て今日のルルクス伯爵は豪快な人だったかい?」


「……とても優しく、繊細な人に見えました。とても豪快な人には、見えませんでした」


 だろうね、怖いね。いったいいくつ顔を持っているのだろうか。ただ上に立つ人間は少なくない顔を持っているものだ。


「なら私を護衛に指名したのはルルクスの敵意の確認のため? 私ね、私の意思を捻じ曲げられるのって好きじゃないの」


「んー? ルルクス伯爵が素直にセイドウさんを護衛に回してくれた以上、積極的に敵に回るわけではないでしょうが、刺客を手引きするなど消極的に敵に回る可能性が残っていますので、ルルクス伯爵の敵意の確認はおまけ、みたいなものですかね? 本命はルルクス伯爵とセイドウさんを引き剥がして、セイドウさんが私たちの敵になることを防ぐこと。鬼って強いですからね、セイドウさんが敵に回るのは怖いんですよ」


 鬼は強い、そして敵に回すのは怖いという評価を受けて機嫌を良くしてくれたのか、先ほどまで放っていた怒気が消えた。

 代わりにシャクドウの方に顔を向け。


「ちょっとシャクドウ。貴女付いて行く人を間違えてない? やり方が陰湿よ。ルルクスから手駒を取るとかは良いけど、私が怒れないように褒めてくるとか。性格がかなり悪いわ」


「あっはっは! そこはおっさんだからな。それに単純な生き方なんぞ私たちで出来るんだ。なら複雑に生きている奴に付いて行こうぜ。つまらないかもしれないが、面白いかもしれない。ただ私たちには出来ない生き方だろう」


 それは私を褒めているのか、それとも貶しているのか。鬼の価値観のようなので、私には分からないが、生き方に単純、複雑などないと思うがな。結果的に単純や複雑に見えたりするだけだと思うがな。


「あ、そうだ。ルルクス伯爵は結婚しているのか?」


「いいえ? 今は三十三歳で独身よ。それが?」


「もしもルルクス伯爵が中央の貴族や武の公爵の一派と手を組んでいるのであれば、報酬は何かなと思ってね。どうも先程のリリーナの話を聞く限りルルクス伯爵は中央へのコネがないようだし、誰かと結婚して中央へのパイプでも作るのかと思ってね」


 三十三歳で独身。色々と焦っている年齢だろうし、パイプ作りのために中央の貴族や武の公爵の関係者と婚姻を結べれば一石二鳥だ。

 なるほど、確かに豪快だ。ならば今頃、ルルクス伯爵邸ではその刺客と話をしているかもしれないな。


台詞の長さについてご意見を下さりありがとうございました。

この程度は気にならないとのことなのでこのままでやらせて頂きます。

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