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おじさんは東の領地で鬼に出会う

本日二度目の更新となります。

遅くなった気がしますが、前話をご覧になられていない方はそちらからご覧ください。

 東への道は驚くほどのどかで、心配していた妨害などは一切なかった。つまり一月の猶予やルルクス伯爵領で準備、というのは妨害ではなく嫌がらせだったようだ。

 ただ思っていたよりも苦痛だったのは移動距離。開拓が順調に進んでいただけあって、北に行った頃よりも時間がかかる。西も同じく順調だったという話。つまりこの国は現在横に長くなっているのだろう。


 すでにルルクス伯爵領には入っている。しかしルルクス伯爵の屋敷があるのは領地の東端。エルフのいる森の近くなため国の中央からすると一番遠いところにある。


 そしてようやく辿り着いてみれば。


「何だ、ここは?」


 非常に賑やかな町であった。商人や戦士、噂のエルフとやらも少数ながらいる。

 私が知っている中で最も賑やかだった町は学院のある町だが、それの倍は人がいる。

 

「王都と同じくらいに人がいますね」


「そうですね。最前線手前の町となれば様々な需要があり、商人は非常に多いです。またルルクスの町と言えば、非常に有名なもので闘技場がございます。そちらで名声を得るために多くの戦士の方がここに集うわけでして」

 

 まさに稼ぎの場なんです、と言いマイケルは今にも町を見て回りたそうにしていたので許可を出す。するとマイケルはすぐに率いてきた馬車と共に町へと消える。

 この町に知り合いでもいるのだろうか。でなければ馬車を預けるのも苦労しそうだが。


 まずはこの町を見て回り、準備等はそれからと思っていたのだが。


「あ、おじさん。私たちはルルクス伯爵に挨拶をしてこないといけないので」


「グレイちゃんは、おじさんといるよね。宿とかはこっちで手配するから。自由に町を見て回ってていいよ」


 そう言ってリリーナとポーラはこの町で目立つ二つの建物の内の一つ、ルルクス伯爵邸に向かった。

 そして残ったのは私とグレイとシャクドウ。


「おっさん、あそこ行こうぜ、あそこ」


 シャクドウは先程から雄叫びの上がるもう一つの目立つ建物、闘技場を指して行きたいとねだる。

 確かに確認のために向かわなければならない所だが。その前に。


「いや、腹が減ったから飯を食いに行こう」


 飯だ。ここ最近はずっと馬車で移動するため腹一杯に食べることが出来なかった。町に着いたのだからとりあえず腹いっぱいに食べてあちこちを回りたい。


 金なら幸い資金援助、北で稼いだ分、そして依頼達成による報酬とたんまりあるからな。

 ふはははは!


 などと考えていた私が非常に甘かった。

 飯屋に入ればシャクドウが食べること、食べること。

 闘技場があるような町だ。当然客には戦士が多く、飯にはボリュームがあり、肉が多い。つまりシャクドウの好物ばかりだ。逆に森が近いのに果実が少なく、野菜はそこそこ。商人が多い町の為か値段は比較的に安かったのだが、シャクドウの食べる量が量なので金額もそれなりになってしまった。


 おかしいな、召喚獣は飲食不要のはず。現にグレイは食べられるものがなかったため、何も食べていないが腹を空かせた様子はない。

 腹が空く召喚獣は私だけのはずなんだが。


 宴会でもしたのかと疑うほどの金額を支払い、今度はシャクドウが希望した闘技場に入る。

 これだけ人の多い町だ。当然、娯楽となる闘技場にも人は多く、中央では剣と盾を構える戦士と、槍を構える戦士が戦っていた。

 シャクドウはすぐに周りの熱に感化され、騒ぎながら客席へ向かう。


 私やグレイはこういったことに興味はないので、闘技場自体を見て回る。

 どうやらこの闘技場は日に何度か対戦が組まれ、登録された選手同士で戦い勝ったほうだけがファイトマネーを貰えるようだ。当然、観客にも賭けを行わせ、胴元として器用に稼いでいる様子。

 

 そしてイベントとして数か月に一度トーナメント戦を行い、優勝者には莫大な富と名誉が与えられる。優勝できなくとも良い結果を残せれば次回のトーナメント本選出場権が与えられる。


 ……なるほど。これが最前線への支援なのか。


 強い兵士が欲しい開拓の最前線は常に人が不足している。しかし強い兵士とは北の厳しい環境に何年も耐えた兵士など、育成に時間がかかる。

 だから育成に時間のかからない、天然物の強者をここで探し出しているわけだ。玉石混交の自称最強を集めて、トーナメントというふるいをかけることで本当の強者を見つけ出す。


 その強者を最前線にいる開拓者たちが勧誘する。トーナメントを勝ち進んだ実績があれば、実力を疑う必要もない。

 まさに最前線への後方支援をしつつ、金銭を稼ぐのに闘技場は理にかなっていた。


「うおおおおぉぉぉ!」


 どうやら決着がついたようだ。剣を持った方が勝ち、負けた槍使いが運ばれていく。

 その一戦を見終わったシャクドウが帰ってきた。


「すげえぞ、おっさん。こんな面白いものが見られるとは思ってもなかった。それでおっさんは何を見て、トーナメント? おっさん、これすっごく出たい」


 まるで始めて遊園地に来た子供のように興奮したシャクドウが戻ってきた。そのはしゃぎようは見ているこちらが恥ずかしくなるほど。

 こちらの言葉など耳に入らないだろうし、だからと言って力尽くで止めようにもシャクドウを上回る力などない。興奮するシャクドウをどう止めたものかと困っていれば。

 

「本当に大鬼は、品がないわね」


「ああ?」


 言葉で止めた小柄な鬼がいた。身長はグレイほどで私よりも小さく、額の両端に小さな角が二本生えていた。また、肌の色も青銅色で、服装もゆったりとした着物を来ている。


「てめえが何でここにいんだよ」


「あら、悪い? 私からすれば貴女がいる方がおかしいのだけど?」


 お知り合い、のようだが雰囲気は中々に険悪。おそらくシャクドウと同じ鬼なのだろうが、鬼同士の争いに手を出すなどその手が潰れる未来しか見えない。

 護身用のあれを使っても良いが、後が怖いしまた作るのも面倒。グレイに頼っても光線銃は仲裁には不向き。

 迷っている間にも鬼同士の険悪さは増し、ついに恐れていた拳と蹴りが放たれたが。


「こらこら、こんなところで争ってはいけないよ」


 突如現れた大男がシャクドウの拳と、小柄の鬼の蹴りを片手で受け止めた。


 二メートルを超えるシャクドウとほぼ同身長の筋骨隆々の大男。全身の盛り上がる筋肉はまるで荒々しい大岩、見る者を圧倒する重厚感はもはや大木。無駄なく鍛えられた全身に隙はなく、パンツ一丁のことに疑問は残るが、悪い人は見えない。


 両者が呆気に取られている間に大男は二人を引き剥がして距離を取らせる。

 そして二人から戦意が消えたことを確認すると大男は満足そうに去ろうとする。


「どなたか存じ上げませんが、ありがとうございます。それと私の連れが迷惑をおかけして本当に申し訳ありません」


「お気になさらず。むしろこちらが謝らねば。客を熱狂させるのは我々闘技者の役目。その所為でこのような些細な争いを起こしてしまっている。それを止めるのは当然のこと。む、済まない。私の出番が来たようだ。それでは」


 大男が観客席の方に行くと一気に騒がしくなった。入場の演出でここから現れたようだ。と、そんなことよりも。


「シャクドウさん、それとそちらの小鬼さんも。一般人が多くいるような場所で暴れられては困ります! 私のようにか弱いとね、貴女たちの鬼の攻撃は全てが致命の一撃なんです。人の多い町なのですから、絶対に止めてください」


 馬鹿鬼二人の説教が優先だ。力がどれほど強かろうと、見知らぬ相手だろうと悪いことをしたら叱るのが当然。

 シャクドウはすぐに非を認め、すまんと謝るがもう一人の小鬼は謝ることを拒絶して顔を背ける。

 そんなことを許すわけもなく、掴みやすい二本の角を掴んで顔を前に向けさせる。


「分かりましたか?」


「ああ!?」


 小鬼は反発からか、私の両腕を掴んだ。握り潰そうとしたのか、かなりの力が加わっていたが。


「トモダチへの攻撃は許さない」


 グレイが小鬼に向けて光線銃を向ける。


「あー。親切心で言うが、おっさんに手を出すのは止めとけ。マジで死ぬぞ」


「……確かに、凄く嫌な感じがします。それに、先程のは私も悪いところはあったと思います。……すみません」


 素直に謝れるのであればそれで良い。手を離し、丁度良いところに頭があったので撫でる。すぐに手を払われてしまったが。

 しかし滅茶苦茶痛い。鬼の軽い行動でこれだ。攻撃など受ければ跡形も残らないだろう。


「シャクドウさんのお知り合いと言うことは、この方も召喚獣ということですかね?」


「ええ、私はルルクス伯爵の召喚獣、ってなんで話が通じて? そこの大鬼なら分かるのですが」


「あー、面倒くせえ。おっさんに聞いて」


 聞いて、と言われてもここは闘技場。話をするに少し場所が悪い。


「それでしたらこの近くに良い食堂があります」


 すみません、先ほど飯を食べたばかりで。


「おお! 良いねえ」


 良くないよ。というかシャクドウもさっき食べたよ。まだ食べるの?


 私では二人の鬼の進行を止めることなど出来るはずもなく、またもや飯屋に入ってしまう。


 さっきの飯屋だ、ここ!


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