おじさんは東に行くことを知る
リリーナとポーラが明日には到着すると連絡が入ったため、おじさんと宇宙人の科学の時間は終了。
そして出来上がったものは。
「……どう思う」
「時代にそぐわないというか、価値を認めてもらえるかどうか」
何とも微妙な成果。
私とグレイには戦闘において共通の弱点がある。
それは接近されること。私は当たり前だが、グレイも身体能力が優れているわけではないため、接近されて光線銃が使えなければ非常に弱い。
そのため、接近を許した際の対処法として色々と開発したのだが……。
生きるか死ぬかの殺伐としたこの世界で、この方法は生温いと思われる可能性がある。だからといって毒など危ないものの研究など絶対にしたくない。
「とりあえず、報告はなしで」
「そうだね。もう少し評価されそうなものの方が良いね」
出来の良すぎる物を作ればそれを理由に軟禁される可能性がある。だからと言って出来の悪いものを作っても評価されない。
ほどほどに良いものを作って、評価されつつもあちこちを移動できる自由が欲しい。何とも難しいところ。
「じゃあ、この試作品は私が持っていても?」
「うん、良いと思う。護身用にトモダチが持ってて」
私はこの世界に来て初めて武器と呼ばれるものを手に入れたのかもしれない。
「東?」
リリーナとポーラに告げられた転属先。
「はい。急なことで申し訳ないと思うのですが準備をお願いします。一応支度の時間として一月はあるのですが、それはルルクス伯爵領で行うように指示が来ています」
一月の時間を与えながら、場所は指定。これはいくつかの妨害工作が重なっておかしなことになっているな。
確か、東は。
「東は昔にルルクス伯爵が開拓団を指揮していたところですね。順調に開拓は進んでいたのですが、異種族のエルフと広大な森を前に一時開拓が中断されていました。ですが一年前に聖女様の活躍によりエルフと和解し、友好的関係が今も築かれております。また、ルルクス伯爵もその際に開拓団の指揮を引退し、開拓団の後方支援、エルフと恒久的な友好関係を築くために努力を行っております」
と、マイケルが分かりやすく説明してくれた。……で、マイケルがここにいるのは何故だ? 呼んだ覚えは一切ない。転属先になると予想して東と西の情報を集めてもらっていたが、その情報は数日前に受け取っている。
他にマイケルに頼んだ用事はない。なのにマイケルがここにいるということは逆に、私たちに何か頼みがあるということ。
「実はですね、セーイチさん方が東に行くという話を数日前から耳に挟んでおりまして。ぜひ同行させて頂けないものかと、お願いをしに参りました次第で」
ただの商人が数日前からとは、情報が誰かが言い触らしていると思うほどに漏れている。それともこれも妨害工作の一つなのか。
「セーイチさんのおかげで学院の食堂とのコネも出来、またその繋がりから港から海の幸にも手を出せるようになり、今はストロードさんと協力して北との商売も拡大しておりまして忙しい日々を過ごしております。ですが、ここで満足するわけにはいきません。東のエルフと商売が出来れば、南の本国も無視出来ない勢力を持てます。聖女様の関係者となれば勝算もあります。恩は必ず返しますので何卒お願いいたします」
会った時はただの行商人だったのに、マイケルはいつの間にかあちこちにコネを持って頼りになる商人になっていたようだ。そこまで言われれば断りにくい。
それに少し気になることを話していた。
最終的決定権は私ではなく召喚主のリリーナたちにあるので、どう思うかと視線を向ければ何を勘違いしたのか慌てている。
「あ、あの、えっと。確かに、聖女と呼ばれているのは私の姉です。ですけど、そう呼ばせているわけではなく、周りが勝手にそう呼んでいるだけで自称しているわけではなんです。ですので出来れば、姉に会っても恥ずかしい名称で呼ぶのは避けて頂けると」
……ああ、確かにマイケルが聖女様の関係者と言っていた。つまりリリーナは。
「聖女様の妹様?」
「本当に恥ずかしいので止めてください!」
久しぶりに聞いた大声に、やや押されながらもリリーナを落ち着かせるために分かったと何度も頷く。
聖女様の妹様に同行すればそれは確かに関係者。ただ無策の裸一貫で向かうよりは勝算がある。
「では、マイケルさんが同行してもよろしいですか?」
「それについては構いません。ですが聖女関連の話は絶対に止めてください」
聖女の話だけは本当に嫌なのだろう、そこだけはしっかりと釘を刺しつつもマイケルの同行が認められた。
同行が認められて喜ぶマイケルにすぐに私は顔を寄せて聞く。
「恩を返すと言うが、仮に私たちが南の大陸に行きたいと言ったら?」
「手配します」
「もしも君の祖国と異なる国の宝が見たいと言ったら?」
「持ちうるコネを総動員して叶えて見せます」
希望の糸は見つかった。やはり頼りになるのは学院長よりも商人だ。
「積極的に協力しよう」
「ありがとうございます。セーイチさんの協力があれば確実に成功します」
手を指し伸ばしてマイケルとがっちりと握手をする。一蓮托生、とまではいかないが、マイケルの成功は私の成功に繋がる。
「へ~? 面白そう。私も付いて行く!」
「駄目に決まっているだろうが。キジュツ、お前には領地に帰ってからやってもらわないといけないことが多数残っている」
私も! とキジュツは手を上げるも、キジュツを回収に来たボルダー辺境伯にその手を下げられて連れていかれる。
その様子を見ていたシャクドウは鼻で笑い。
「ハッ、私はおっさんと一緒に行くぞ。ちゃんと許可も得ている」
いつもされている挑発を逆に行う。
うん、残念なことにシャクドウが同行することは数日前から決まっている。
ここにいてもいずれは暇になるとシャクドウは召喚主に訴え、召喚主も授業を受け持ちつつマイコニドの研究を行うためシャクドウへのケアが出来ない。ケアが出来なければシャクドウが暴れて困るため、どこかに行くのは賛成。
シャクドウの同行は両者の利害の一致の結果。唯一それを拒否する権限のあったリリーナは手紙で同行の許可を与えていたため、覆ることはない。
シャクドウのスキンシップは過激と言うか、力加減が下手だから怖い。
「あ? どうせ脅して得たんだろうが馬鹿鬼」
「お? いつもよりキレがないぞ? 僻みか? お面野郎」
はい、皆さん。少し距離を取りましょう。下らないことが起きますのでね。
下らない争いは続いているが、大まかな話は終わり明日にこの町を出ることになった。
「おじさんやマイケルさんは大変とは思いますがお願いします。えっと、あっちの争いは」
「放っておくのが一番だ。勝手に終わる」
地面が抉れ、刃物が大地に突き刺さる戦闘は見る物を不安にさせるが、慣れてくればただの怪獣ショーだ。初めて見るリリーナやポーラが不安がるのは仕方がないことかもしれないが。
準備と言ってもすでに昨日の内に終えてしまっている。おそらくマイケルも自分が出かけるのだから根回しは終わり、準備も終えているだろう。
気遣いを無駄にしてしまうようで申し訳ないが、暇な時間をどう過ごそうかと悩んでいると。
「あ、あの! おじさんは、ここでの問題解決に貢献したそうですね!」
「え? まあ、そうですね」
貢献と言われても、他人の背中を押しただけ。本当の意味で貢献したのはバロンに好感を抱かなくなっても指示を守り続け、協力を願われたらすぐに引き受けたウドだと思う。マイコニドの一件を上手く利用できたのはウドがいたからに他ならない。
事件の解決に貢献したとは思う。他人の背中を押すことは重要なことだ。だが、他にもっと凄い奴がいては貢献したと主張しにくい。
しかしそんなことはリリーナには関係がなく。
「そ、その。どんなことがあったか、お話を伺っても良いですか?」
緊張と不安が入り混じった声色。リリーナはマイナスからゼロになった関係をプラスに持っていこうと努力している。
若い者の努力を、おじさんは無下には出来ない。
「ルルクス伯爵の町は遠いのでしょう? でしたら、移動中の時間潰しにお話ししましょう。それなら話が長くても気にしないでしょう?」
ありがとうございます、と元気に返事をしてきらきらと光る笑顔をリリーナは見せる。
私も、少しは歩み寄る努力をしないといけないな。




