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おじさんは討伐戦を観戦する

 久しぶりに暴れられることに興奮しているシャクドウを先頭に、学院の講師と召喚獣が山を目指す。

 その様を私はウドの手の上で眺めている。


「……竜やら巨人やら、移動する手段に大型生物に乗ることが多いな」


「竜? 何だそれは? 夢の話か?」


 夢ではなく北に行った際に出会ったことを伝えるも、バロンは鼻で笑い信じない。

 ならばと虎の子、竜の鱗を取り出して手のひらよりもでかい鱗を持つ生物がいるかと問いかけようとしたが。


「な、なんだこの濃密な魔力は……!」


 え? そっち?

 魔力感知など出来ないので良く分からない。同乗しているグレイに視線を向けるも、グレイも分からないと首を振る。

 ただ私が思っていた以上にこれに価値があることは分かったので、バロンの手から竜の鱗を奪い返す。

 

「ああ……! そ、それをくれ!」


「駄目です! 欲しければ大量に持っているボルダー辺境伯にお願いしてください。今は竜の出現を報告するため王都にいるはずです」


 貴重な竜の鱗を袋にしまい、矛先をここにはいないボルダー辺境伯に向けさせる。

 もしも竜の牙について知ったらどんな反応をするだろうか。絶対に教えないが。


 そんなことをしている間に例の山に到着。バロンはウドの手から降りて騎士団の本営に向かう。騎士団には山の周りを固めてもらい、狩り残しを担当させるそうだ。


 戦闘が出来る召喚獣は正面からマイコニドを殲滅しながら進み、戦闘が苦手な召喚獣は倒したマイコニドの運搬を行う。召喚主たちは山の外まで運ばれたマイコニドを受け取り一か所に集める。何名かは定期的に山に入り、マイコニドの討伐具合の確認も行う。

 そして最大戦力であるウドは。


「俺やグレイと一緒に待機だ」


「待機か。それは良いな。でも危なそうなやつがいたら助けても良いか?」


「それは構わない。まあ、危なくなることはないと思うが」


 騎士団本営の前、山がよく見えるところで待機。理由は単純にウドが動けばマイコニドが跡形もなくなるため。

 討伐したマイコニドは回収して素材として使われるのだ。グレイが光線銃で消したり、ウドが拳を振り下ろしたりしては回収できなくなる。


 私は見学。当然だ。マイコニドの戦闘能力は皆無でも、攻撃を受けるたびに状態異常になる胞子を飛ばすのだ。私は召喚獣としての守りがないためあれを浴びれば毒や麻痺、眠りなどの状態異常を貰って死ぬ。

 そもそも胞子が飛ぶ様子は杉が花粉を飛ばすのによく似ているので見ているだけで苦しい。鼻がむずむずしてくる。


しかし、最前線で暴れているシャクドウは本当にすごい。マイコニドを一切の遠慮なく殴り飛ばし、浴びせてくる胞子など気にせず目についた他のマイコニドを殴りにかかる。

まさに鬼。ただ残念なのは身体が柔らかい所為か、大きなマイコニドはシャクドウに殴られてもしばらくすれば立ち上がり、その場から逃げ出す。


 それをキジュツが上から飛び降りて止めを刺す。柔らかい肉体が災いしたか、キジュツのナイフは容易くマイコニドを切り裂いた。

 そしてキジュツは、シャクドウを挑発しているように見える。暴れるだけ暴れて倒せていないのだから思うところはあるかもしれないが、挑発する必要は……。


 挑発されて怒ったシャクドウは近くのマイコニドを殴るが、木に激突したマイコニドはすぐに立ち上がり逃げてしまう。その様を見たキジュツはあざけ笑う。


 それに激怒したシャクドウは今度はマイコニドを殴らずに捕まえ、腕力に任せて引き裂いた。

 

 ……ええ、それは。


「脳筋」


「野蛮」


「聞こえてんぞ、お前ら!」


 その上地獄耳とはおっかない。

 こちらはウドの手の上で、シャクドウは山の最前線。こちらは見るのがやっとの距離だというのに。

 それからはシャクドウとキジュツが前面に出て、マイコニドを駆逐していく。


 そろそろ二人が山の中腹、巨大なキノコの下に辿り着くかという時に、津波のようにマイコニドが転がってきた。

 まだあんな数のマイコニドが隠れていたのか。


 マイコニドの津波はそのまま山を下り、一部は騎士団の包囲を超えて近くまで転がってきた。

 あれは危ないな。


「ウド」


「あいよー」


 虫でも叩くかのように振り下ろされたウドの手はマイコニドの群れを一瞬で潰し、地面を揺らす。

 潰されたマイコニドの群れは地面と同化し、回収は不可能。恐ろしい威力だ。


 また騎士団の本営からバロンが出てきて、自分も乗せろと大声で言う。

 魔法が使えないバロンからすれば僅かでも危険があれば逃げ出したい。それにここなら前線の様子を確認するという言い訳も出来る。

 すぐにバロンをウドの手のひらに載せて前線の様子を見る。


 すでに前線はマイコニドの津波による混乱から立ち直っており、転がってきた小さなマイコニドの処理に移っている。


「おかしいね。あのキノコが原因かな?」


「どうした、グレイ。何か気付いたのか?」


「津波になるほどのマイコニドが残っているのはおかしいと思う。二本足で歩いているんだし、散るように逃げていたのに」


「つまり?」


「あの巨大なキノコ、マイコニドを生み出してないかな?」


「何だと!?」


 私たちの会話に突然割り込んできたバロン。興奮気味にグレイに他の根拠も聞き出し、検証するべくぶつぶつと一人で呟き始めた。

 完全にやばい薬を決めた人にしか見えない。


「つまりあれはマイコニドのコロニー? キノコの栽培方法はマイコニドのコロニーを作れる? そうだとすれば貴重な素材が取り放題。偶然出来たのか、それとも栽培方法が関わっているのか。それにはあの巨大キノコの調査が――」


 とりあえず放っておこう。その間にも山の方はマイコニドの討伐が終わり、講師たちも山に登ってマイコニドの回収を。


「おおおおお!」


 山の一部から歓声。ウドに近寄るようにお願いすれば、そこにはキノコを見て狂喜乱舞するシャクドウの召喚主である薬草学の講師の姿。


「希少な金茸! 珍味と名高い宰茸! 幻と言われた竜茸まである!」


「な、なんだと! 全て、全て回収したまえ!」


 ここにもやばい奴がいた。大量のキノコを前に興奮していたようだが、丁寧にキノコ回収して頬ずりする姿は狂気を感じた。

 とりあえずその竜茸は美味かったことだけは覚えている。


「ぐぐぐ! あれほど希少なキノコがここに群生した理由はあの巨大キノコの可能性が高い。あれが欲しい! しかしマイコニドを発生させる可能性があるため焼き払わなければ……!」


「回収すれば良いのでは?」


 欲しいのなら手に入れればよい。幸いあのでかいキノコは誰のものでもないのだから。


「切り刻んで運べと? 確かにそれなりの価値はあるが、あのままでなければ意味が!」


「そのまま回収すれば良いのでは? ウド、出来るよね」


「あー、両手は使いてえな」


 私たちが邪魔か。ならば仕方なしと、騎士団の本営近くで降ろしてもらい。ウドには両手を自由にして巨大キノコを回収してもらう。

 巨大なキノコはウドの胸に届く大きさ。人では運ぶことは出来ず、伐採も大変だろうが。


「よいしょー!」


 ウドであれば根元の土を軽く抉れば簡単に引き抜ける。

 引き抜いて運ぶ際に巨大なキノコは小さなマイコニドを落として抵抗に似た行いをするが、すぐにウドが気づいてマイコニドを踏みつけて終わる。


「じゃあウド、それを先に学院まで運んどいて」


「分かった」


 ドシン、ドシンと地を揺らしながらウドは一足先に学院に戻る。

 それを呆然と身を送るバロンの肩を叩き。


「学院長、貴方はウドに魔力を取られて魔法を使えなくなったのでしょう。ですがね、魔法以上に凄いことが出来るようになったんです。悲観するようなことではないのでは?」


 バロンはただ黙ってウドを見送った。

 


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