おじさんは宿屋で頭を抱える
本日二度目の更新となります。
ご注意ください。
「ど、どうだった?」
多数の召喚獣から話を聞き終え、身体も痛みはするが歩ける程度に回復した頃には日が落ち始めていた。そのため学院側が用意した宿屋へ向かっていたがその途中、学院長を中心とした講師陣に出会った。
多分、待ち構えていたんだろうな。
「ええっと、すみません。もう少し時間がかかりそうです」
この言葉だけでは満足できないのか、講師たちは何か言いたそうだったが私の不調に気付いたのかそれ以上は何も言わずに引き下がった。
学院が用意してくれた宿屋は可もなく不可もなく文句もなければ褒める点もない宿屋だった。
そんな宿屋の一室にあるベッドに腰を下ろし、今日のことを考えて頭を抱える。
「大丈夫、トモダチ。まだ身体が痛む?」
「ああ、身体は痛いし辛いがまだ何とかなる。何ともならないのは今回の一件だな」
ちょっと話を聞いただけで無理だと悟る仕事を振られた気分だ。こんなのは本当に久しぶりで、やる気が一気に削がれる。
ただこの問題はちゃんと解決しないと後々に大きく響くことになる。
……さて、どうするか。正攻法は無理だしな。
「ボクに手伝えることなら何でも手伝うよ。もし難しいならキジュツに知恵を借りよう」
「……そうだな。私だけでは少し無理そうだ。キジュツを呼んできてくれるか?」
一応男女で部屋を分けてあり、キジュツは一人部屋に泊まってもらっている。……グレイの性別は男であっているのだろうか?
しばらくしてグレイがキジュツを連れて来てくれたので、まずは情報を整理して現在の状況を報告する。
学院長たちからの依頼、それは召喚獣が反旗を翻したのでそれをどうにかしてほしいとのこと。
しかし肝心のシャクドウたち召喚獣にその意思は全くない。ただ召喚主からの理不尽な命令を断っただけ。
これだけなら学院長ら講師に事情を説明すれば、そうなんだ、の一言で終わるように思えるが全く違う。
この問題は今までの講師と召喚獣の関係性が大きく関わってくる。
講師は貴族ではあるが、王宮内で役職を持ち守るべき領地は持たない貴族。そのため指揮経験を必要とせず前線基地に行かず、召喚獣と関係を築かないまま今まで過ごしてきた。
それで問題なかった。必要な時に使い、それ以外は待機。実に使い勝手の良い駒だったのだ。
しかし今になって召喚獣が命令に従わなくなった。従順だったものが突然反抗したのだ。感覚的に言えば、ロボットに突然自我が芽生えて人間の命令を拒否し始めたようなものだろう。
大事件だ。彼ら講師からすれば。従順だったものが反抗し、その先にあるのは何か。
なまじ多くの召喚獣を知っている講師たちは分かっているのだ。人間よりも召喚獣の方が強いと。だからこそ、私を大急ぎで呼び出してどうにかしてくれと頼みこんでくる。
反抗する召喚獣と話をするのも怖いから。
召喚獣たちからすればただ嫌なことを嫌だと言っただけ。今までは召喚主に対して好感を抱いていたため我慢して引き受けたが、好感が薄れたことで断ることにした。それだけなのだ。
しかし講師たちからすれば自分たちより強いものが命令を聞かず、傍にいるだけで怖い。学院長がウドに命じたのも他の召喚獣の排除だろう。それを断られたときの学院長の心情は味方と思っていたものが敵だった並の衝撃だっただろう。
ではまず互いの陣営の最終的な最高の結果を考えてみよう。
学院長ら講師陣の最高の結果は、今までのように召喚獣が召喚主に対して従順になり唯々諾々と命令に従うようになること。
召喚獣たちはもっと自由に、嫌なことは嫌と言い、何かやりたいことがあればそれが出来るようになること。召喚主の命令に対して絶対服従など断固拒否するべき内容だ。
つまり召喚主と召喚獣の目指すべき方向が真逆であり、どちらも譲りたくないということ。
更に言えば私たちの立場も面倒な原因の一つだ。
私もグレイもキジュツも召喚獣なのだ。学院長ら講師陣営は私が召喚獣たちに便宜を図るのではないかと疑っているだろう。そしてそれは逆にも同じであり、召喚獣たちも私の後ろにいる召喚主がいると考えて疑っている。
もしも奇跡的に互いに平等な得と損を与える妥協点が見つかったとする。召喚主側からは召喚獣への贔屓と言われるだろうし、召喚獣側からも召喚主側を贔屓しているというだろう。
目指すべきゴールが互いに正反対だと妥協点も見つかりづらい。どうしたものか、というのが現在の状況だ。
さて、知恵を貸してくれと二人を見るも。
「うーん」
「いやーこれは。片方を潰した方が早くない?」
グレイは悩み、キジュツはある意味一つの答えである片方を潰すことを提案してきた。そして潰すとなれば学院長ら講師陣だろう。やるはずがないが。
三人集まれば文殊の知恵と言うが、簡単に答えが出るものではない。
学院長ら講師陣を説得するのが倫理的にも最も良いのだろうが、私たちの立場がそれを邪魔してしまう。召喚獣への贔屓と受け取られて終わりだ。
では人を介すか。公爵並みの権力のある者が口を出せば学院長ら講師陣も折れるだろうが、結局火種は残ったまま。いずれ再熱するだろうし、問題の解決にはならない。
やはり解決策はないのか諦めようとしたが。
「トモダチ、ちょっと考え方を変えよう」
「ふむ? 面白そうだな。どうするんだ?」
「学院長ら講師陣に召喚獣が必要?」
……なるほど。まだそちらの方が希望はありそうだ。その方向で少し考えてみよう




