おじさんは久々に学院に戻る
召喚獣による反乱。竜が滅びる原因となった大事件。いったいどんな悲惨なことが起きているのか覚悟して学院に入ったが。
そこには私の想像の遥か先を行く光景があった。
「ぐお~。ぐがぁ~」
元私の部屋である厩舎で鬼のシャクドウが狭苦しそうにしながらもいびきをかき、ついでに腹をかきながら寝ていたのだ。
……反旗を翻したのでは? 何でこんなところで寝ているのか。
確かに、厩舎の中では私の部屋が最も寝心地が良いだろう。私が改造したのだから。ただ私用の改造であり、私よりも大きなシャクドウにとっては狭くまるで子供用の場所に押し込められた大人の様だ。
「シャクドウさん、シャクドウさん。起きてください」
とにかく話を聞かなければ始まらない。顔を叩いて起こそうとするも、虫でも払うように薙ぎ払われた手がわき腹に直撃し、私に致命傷を与える。
うぐぐ。乗り心地の悪い高速馬車に長時間乗っていたため腰の調子がよろしくない。そこに腰に衝撃を与える鬼の一撃。
その痛みを誤魔化すため、つい反射的に強めの一発を顔に入れてしまう。
「ん? うう、あん?」
ただシャクドウからすれば軽く押された程度で、痛みを感じるようなこともないのかアホのような声を上げながらうっすらと目を開く。
目ぼけた顔で辺りを見渡し、そして私の顔を二度見した後にいきなり立ち上がり。
「おっさん! 帰ってきたのかよ!」
興奮した様子で抱き着いて、思いっきり締めてくる。鬼の膂力で抱き上げてから締め付けは腰のみならず、全身が悲鳴を上げる威力であり。
「シャクドウさん! やめ、放して……。シャクドォォォ!」
それからしばらく、私は歩くことが困難になる重傷を負った。
「いやー、すまん。おっさんの顔を見たら我慢できなくてな。凄く嬉しくて、許せ」
あはは、と笑いながら私は厩舎にある元私の寝台で横になりながらシャクドウの謝罪を受ける。
受け入れはしない。責めもしない。ただ笑っていずれ何かで仕返ししてやろうとだけ考える。
グレイが止めてくれなかったら危なかっただろう。背骨までやられていたんじゃないだろうか。キジュツは笑うだけで何もしてくれなかったし。
「それでおっさん。帰ってきたことってことはあれか、こっちに住むのか? その方が良いぞ」
「違いますよ。ちょっとした訳があるだけです。それよりも話を聞きたいのですが、反旗を翻したと聞いたのですが本当ですか?」
「あ? ハンキ? 何だそれは?」
当人にその自覚はなし。これは少し、気になるな。
他の召喚獣にも話を聞きに行きたいが、まずはシャクドウから詳しく話を聞く。
「シャクドウさんは何で元私の部屋で寝ていたんですか? 確か召喚主の部屋で寝泊まりしていたはずですよね?」
「それな! あいつずっと私に待機ばっかり言うから、暇だ外に行かせろ、って言っても駄目の一言。ついキレてな、部屋で暴れた。それから追い出されて、どこで寝ようかと考えて、良い場所があったと思い出してここにいる。いや、前の部屋で寝泊まりするよりこっちの方が快適だわ」
待機指示に対して異を唱えて最終的に暴れたわけか。シャクドウが目の前で暴れれば召喚主は命の危険を感じるだろう。ただシャクドウが本気で暴れれば部屋など跡形もなくなる。部屋が滅茶苦茶になる程度と言うことそれなりに気を使っている証拠。
なのに召喚主は反旗を翻したと思った。……ふむ。
「ちょっとウドさんにも話を聞きたいですね。いつもの場所にいますか? 話を聞きに、いててててて」
起き上がろうとしたが身体が悲鳴を上げる。身体を捻るだけで痺れるような痛みが発生する。これは、辛いな。
「じゃあ連れてってやるよ」
そう言うとシャクドウは犬でも抱くように軽く私を抱き上げる。
やばい、と思うよりも早く痛みが一瞬全身を走ったが、態勢が安定してからは痛むことはなかった。
「シャクドウさん、両手を私の下に置いて絶対に動かさないでください。それと極力揺らさないようにお願いします」
「注文が多いな」
「誰の所為だと思っているんですか?」
あはは、と笑って誤魔化すシャクドウに何かしてやろうと思ったが全て自分に返ってくることに気付いて止めた。
そしてそのままフォークリフトで運ばれる荷台のようにウドの下まで運ばれる。
「お久しぶりです! ウドさん」
「ん? おお? セーイチ? 久しぶりだな」
学園の隅の方で丸くなっていたウドに声をかける。うん、でかい。さすがに竜には劣るがでかいものはでかい。
「少しお話を伺いたいのですが、よろしいですか?」
「ん~? 何だ」
シャクドウと同様に最近召喚主との間に何かあったか尋ねる。
「そうだなぁ。そう言えば前に、誰かが反抗的だから捕まえろとか、倒せとか言われた。そういう嫌いだから嫌だって言ったら走ってどっか行ったな」
やはりそうか。
ウドに礼を言って念のために他の召喚獣に話を聞きに行くも答えはどれも似たようなもの。そして共通点は。
召喚主の命令を断った。
何十年もの間、召喚獣は召喚主の命令に逆らうことはなかった。それが今になって一斉に逆らい始めた。
だから召喚主たちは召喚獣たちの結託を疑い、反逆されると危機感を覚えた。
それによる反旗を翻した発言か。
……困ったな。ちょっとばかり、面倒だぞ。




