おじさん学院に帰ってきた
本日二度目の更新となります。お気を付けください。
目的地が違えば当然乗る馬車も違う。それは分かるのだが。
「何だ、この最悪な環境は」
狭い馬車に押し込められて乗り心地は最悪。更にようやく北の極寒に慣れてきた所に温かい環境への変化。はっきり言って暑い。
ただこの最悪な環境の最大の原因は。
「何なんだよ、あの馬」
六本足の不思議な馬。飼育された魔物なのだろうがその足の速さは異常の一言。この世界では車やバイクが開発されない理由になるだろう。そんな馬が二頭、この馬車を引いて全力で走っているのだ。舗装されていない道では当然馬車の中は酷いことになる。
もしも私が過去に小さな船に乗っているときに大荒れの海を経験していなければ吐いていたところだろう。
そんな中で私の同乗者は。
「布一枚を被せただけで……はい消えた! そして何も持っていない手から、ポンと出てきた!」
「おお! お上手。魔法を使っていないとは思えない」
呑気に手品ショーを行っていた。全くもって凄い。感心する。何故なら今キジュツが行っている手品は、私が覚えようとしたが出来なくて諦めたものだからだ。それをあっという間にものにして。……悔しくなんかないやい。
しかしこの急ぎ具合。一体学院で何があったのか。尋常ではないことが起こったことは分かるが。
そもそも、なぜ私たちが呼ばれるのか。問題が起きているのであれば専門の部署にやらせれば良い。暴力などの治安に関わることであれば騎士団に、流行病など病に関することであれば医者や病院があるだろう。
私たちを急遽呼ぶということは、私たちでないと出来ないことがあるということで。
「誰か、呼ばれる覚えがある人いる?」
「トモダチでしょ?」
「おじちゃんでしょ?」
私も実はなんとなくそんな気はしていた。
「グレイを呼ぶということは光線銃目当てなのだろうが、光線銃で解決できることは騎士団が意地でも解決しそうだからな。キジュツに至っては私自身何でここに居るのか知らないし」
「ん~? 私はほら、へっちゃんと一緒に王都に行ってもやることないし。だからと言って前線基地で居残りしてやっぱりやることないし。それならおじちゃんと一緒に行動していた方がやることありそうでしょう?」
まあ、召喚獣は基本的に召喚主がいなければ暇だ。指示されることも、誰かに指示することも出来ない。竜のように文字を覚えれば出来るかもしれないが、そんな奴は珍しい部類だろう。
だからと言って私たちと共に行動する理由にはならないが、学院で何が起こっているのか分からない以上戦力してキジュツがいるのは心強い。
学院で何が起こっているのかは知らないが、求めているのは私の翻訳能力だろう。
「何が起こっているのやら」
「竜でも起きたんじゃない?」
ありえないと一笑してやりたいが、実際に竜が起きて大きな問題になった以上絶対とは言い切れない。多分違うだろうが。
もしも竜が起きて、私のように会話できる者がいなければ竜は目的を完遂して帰っているだろう。故に町は滅び、学院の問題は解決。私が呼ばれる理由にはなりにくい。
となると何だろうか?
「ボクはおおよそ見当のついているけどね」
「何? そうなのか? いったい何が起きているんだ?」
竜が栄華を極めていた時代の召喚獣は召喚と共に洗脳され、使役されていた。そして劣化したものが使われている今の召喚獣は、召喚と同時に召喚主に好感を覚えるようになっている。ほんの小さな好感だが、それが長年積もればシャクドウのような乱暴者に待機指示を順守させることが出来る。
しかしそんな召喚主に都合の良い自動好感底上げ魔法を打ち消す存在がいるらしい。
私だった。私と会話をするとそれらの効果が一斉になくなるそうだ。
「あ~、なるほど」
それを証明するようにキジュツは納得した様子で頷く。覚えが、あるのだろうな。
ただこう言ってはあれだが、ボルダー辺境伯はキジュツにそれなりに気を使い、自由にさせている。魔法の効果が切れたとはいえ、今まで積み上げた好感もなくなるわけではないので、ボルダー辺境伯とキジュツの仲はすぐに悪くなったりはしないだろう。
ただ逆に積み上げた好感を一瞬でなくすものもいる。
私が呼ばれた理由、翻訳、そして今の好感度の話。そして向こうにいる者たちの顔を思い出せば。
「何となく分かった」
「まあ、答え合わせは学院についてからで」
六本足の異様に足の速い馬のおかげで異様に早く学院に到着。
竜が起きて町を襲った形跡はなし。となれば考えられる可能性は少ない。
私が学院に来たことを即座に察したのか、見知った顔が学院から走ってやってくる。その顔には疲労が張り付いており、面倒なことへの対処を未だに悪戦苦闘中と言っているようなものだった。
「どうしたんです、学院長? 何が起こったのですか?」
「し、召喚獣が……。反旗を翻したんだ」




