おじさんは異世界から帰還するための情報を得る
遥か昔。竜が繁栄していた頃に賢い竜が召喚魔法を開発した。
これで我々に相応しい従順な下僕を異世界より呼べる。
召喚魔法の効果は素晴らしく、決して竜に逆らわないように洗脳された状態で召喚され、全ての言葉を理解できるようにし、念のために竜よりも弱い生き物しか召喚されないように設定されていた。
また召喚獣が腹を空かせたり、病気になったりして使い物にならないように竜の魔力でそれを補うようにして召喚獣は竜の世話だけに集中できるようになっていた。
これにより竜の時代は更なる繁栄を遂げる。
しかしその繁栄も永遠には続かなかった。
召喚獣の数が竜の何百倍にもなる頃にイレギュラーが召喚された。
それは非常に弱く、何のとりえもない、様々な異世界の生き物を召喚してきた竜から見ても役立たず以外の表現が出来ないほどに力のない存在だった。
しかしそのイレギュラーは他の召喚獣と異なり、召喚魔法による洗脳を受けず、逆に他の召喚獣の洗脳を解くことが出来た。
イレギュラーは召喚獣たちの洗脳を徐々に解いていき、竜への反乱計画を立てていた。
そしてほぼ全ての召喚獣の洗脳を解いて、ついに反乱を起こした。
反乱は成功した。ほとんどの竜を駆逐した代償として多くの召喚獣が死んだが、それでも生き残った数に比べれば少なかった。
しかし反乱が成功し、竜が消えてから召喚獣たちに問題が起きた。
腹が減り、病に倒れ、環境に適応できない者たちが現れた。
竜を倒したことで竜の魔力が無くなり、自分のことを自分で世話をしなければならなくなったのだ。
ただ竜の楽園も激戦の末に壊され不毛の大地となり、召喚獣は僅かな食料を巡って召喚獣同士で争いを始めた。
争いに負けた召喚獣たちは新天地を目指してその地を去り、召喚獣たちは散り散りになった。
要は、竜は奴隷を召喚し続けた末に反乱を起こされて全滅寸前にまで追い込まれ、奴隷も奴隷で反乱後のことを考えていなかったために奴隷同士で争い、あちこちに散っていったと。
ふむ。なるほど。自業自得という話で終わらせることも出来るが、気になる点がいくつもある。例えば今の人間と召喚獣の類似点など。
「人間が召喚魔法を使っていることには驚いたが、ホンドウを見た限り劣化している。おそらく召喚魔法を見ていた人間がその知識を後世に残し、何とか人間が使えるレベルまで落として再現したのだろうな。いずれイレギュラーに滅ぼされるだけだが」
そのイレギュラーについて、詳細な話を、聞かなくても良いな。私には関係のないことだ。
「大変な時代を生き抜いたようで」
「生き残っただけだ。生まれて間もないことで召喚獣を持たず、反乱に巻き込まれなかった。そしてこの地で寝ては起きてを繰り返していただけ。生きているとも言い難いかもしれないな」
どうにか色々と聞き出したいが、竜の思考が後ろ向きすぎる。もう少し前向きに考えてくれた方が口も軽くなって助かるのだが。
「そうでしょうか? それにしては竜さんがいたところには魔物が多く生息したり、そこにしかない植物が生えていたりと周りに多大な影響を及ぼしていると思いますが」
「そうなのか。……いや、そういうことか。お前の言う魔物だが、おそらく娯楽用に召喚された言語を持たない生物だろう? 交配して自分好みの生き物を作ったり、強くしたりと用途は様々だった。それで生まれた個体にまた洗脳の魔法などを施すのは面倒ということで、親と同じ魔法の効果が受け継がれる仕様だったはず。それの所為で周りに多くの魔物がいたのだろう。植物については全く知らん」
面白い話を聞いた。魔物は先祖が召喚されたときの効果を引き継いでいるのか。どこまでかは分からないが、人と同じであれば竜の近くにいれば腹は減らず、病にもかからないということ。それなら竜の周りに魔物が多くいたことも、そこを奪われると思い襲い掛かってきた理由もわかる。
それからも竜を持ち上げやすい話題を出して話に乗せ、十分饒舌になってきたところで帰還方法はないか尋ねようとしたが。
「確か、ここだな。この辺りは風が弱く寝やすい場所だ」
小山の跡地、竜の寝床に着いてしまった。
まあ良い。話をする機会はまだある。
「では熱の魔石をどのように置きますか?」
「その小ささでは、全体に置くほかあるまい」
やはり熱の魔石の利用方法はコタツ。いや湯たんぽか。竜もこの地は寒いようだ。
竜の頭から荷車を下ろし、荷車から取り出した熱の魔石を田植えのように均等に凹んだ地面に置きながら気になった点を聞く。
「この小ささ、ということは大きいのもあるのですか?」
「ある。いや、あった。お前たちが熱の魔石と呼ぶのは我ら竜の魔石の欠片だ。我らは膨大な魔力を持つ故、体内にその魔力を蓄える器官があり、それがその魔石だ。昔に欠けていない魔石を抱いて寝ていたことがあったが、寝ている間に成長して起きた時には割れていた」
フハハ、と笑い大気を揺るがす竜と一緒に私も笑っておく。しかし大きいものがあった、か。長い年月で割れてしまって今のような欠片になったのだろう。
おそらく私自身には全く価値のない情報だが、この世界に住む人にとっては驚天動地の情報だろう。いや、竜と話をしているだけでも十分驚くことか。
「トモダチ、持ってきたのはこれで全部」
「持ってきた分で半分か。二倍は必要だったか。竜さん、それでは足りない分を後で持ってきます。少し時間がかかりますが、そこはご理解ください」
「であれば送り届けよう。ここで眠って待つより、お前たちを送り届けて話す方が退屈しない」
今まで話をしてきた成果か、退屈よりも私たちと話すことを選んでくれた。
友好を上手く育めている。良い傾向だ。
礼を言ってまた竜の頭に荷車を運び、自分たちも乗り込んで送ってもらう。
またこの高さと寒さに耐えなければならないが、仕方がない。
「先程魔物には遥か昔の召喚魔法の影響が残っていると仰いましたが、人は大丈夫なのですか?」
「言語を持つ生物は小間使いとして利用されたが、新しく欲しくなれば同じ世界から召喚すれば良いため、わざわざ子に魔法の影響を受け継がせるようなことはしていない。そもそも子を作らせてもいない」
「同じ世界? つまり召喚元を指定していたと? では逆に帰すことは出来たのですか? 帰す先を指定して」
「……知る限りそのような例はない。ああ、そうか。ホンドウ、お前は元の世界に帰りたいのだな?」
「はい」
暮らすのに困らない金を手に入れた、数多の掛け替えのない友人を得た。しかし私はこの世界に骨を埋めるつもりはない。
何があろうとも、誰に言われようとも、それだけは絶対に変わることのない目標。
「そうか。ならば最低でも三つ必要なものがある」
「それは何でしょう?」
「賢い竜が作った召喚魔法、人が後世に残して改変した召喚魔法。そして召喚魔法を送還魔法に改変できる賢い存在だ」
たったの三つ。それを集めれば私は日本に帰れる。
その三つの入手難易度がどれほど高いかは分からない。もしかしたら一等の宝くじを得るよりも難しいのかもしれない。
しかし今までの帰る方法すら分からない真っ暗闇に比べれば、どれほど遠く険しい順路だろうがその先に光が見えているのであれば向かっていける。
その三つ。必ず手に入れて見せよう。




