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おじさんは竜と相対する

「ふぁあ、朝か。随分と取れたな。道具も落ちていて助かった。グレイ、行こうか」


 朝日が昇り、作業を終えると共に専用の荷車に荷物を詰め込んで竜の下へと向かう。

 ……はて、竜はどこにいるのだろうか? 基地に向かっていることは知っているのだが。

 その辺りを知っている。もしくは知っている人に気軽に聞きに行けるキジュツと合流するため、基地に戻る。


「くかぁー」


 基地に戻り倉庫に行けば、そこには木箱に座り心地よさそうに寝ているキジュツの姿があった。

 人形のように四肢を前に押し出して寝ている姿は人によってはかわいいというのかも知れないが、今の私ではその姿に怒りしか覚えない。

 こっちは寝ずに作業をしているのに。


「キジュツさん、起きてください。準備が出来たので行きますよ」


 勿論そんな感情は一切表に出さず、肩を揺すって普通に起こす。


「うん? え、……あ! ほら、寒い中ずっと待っているのは大変でね」


「嘘だよ。召喚獣なんだから寒さは感じない」


 さすがに一人寝ていたのは気が咎めたのか、キジュツは下手な言い訳をするがあっさりとグレイに見破られる。

 他にどんな言い訳を言うのか、私とグレイは興味深く待っていたがキジュツの出した答えは。


「えへへ?」


 可愛らしい仕草で誤魔化すであった

 しかし残念ながら私は色々と枯れそうな歳であり、グレイに至っては美醜の価値観が異なっているのでどう思っているのやら。

 なので取るべき方法は一つ。


「グレイ、行こうか」


「そうだね、トモダチ」


「待って、待って! 無視が一番辛いから……」




 堂々と北門から出ていくと作業をしている者たちに見つかり面倒が起きる、と考えて別の門から出て行こうと思っていたが。


「話は聞いている。付いてこい」


 ボルダー辺境伯に連れられて堂々と北門から出ていく。


「竜に対して効果的かもしれない方法を思いついた。危険なので我々だけで行く。可能性があるだけで確実に成功するとは言えないので、お前たちは予定通り行動するように。もしこの方法で竜の侵攻を阻止できた場合、町に連絡してお前たちに戻るように指示を出す。……指示が来ることを期待しておけ」


 そう言って出てきたが、作業をしていた者たちはほとんど話を聞いていなかったと思う。死にそうな目で作業に集中していたからな。

 しかしボルダー辺境伯がいるおかげで竜の居場所が分かる。これで進む方向に問題はない。


 ただ一つ、新たな問題が生まれた。

 竜の下に運ぼうとしていた荷車は三つ。私たちだけで運ぼうとしていたため三つだけ。

 しかしここにボルダー辺境伯が加わり、人数は四人。荷車の数は三つ。

 争いとは、起こるべくして起こる。


「し、召喚主に雑用をさせるのか」


「へっちゃん、私たちがそんなことを気にすると本気で思ってたの?」


「トモダチ、容赦ない」


 壮絶のじゃんけんの末、私は勝利し一人荷車の運搬から解放され、逆に荷車に乗って運搬される側になる。

 頑張ってくれ、ボルダー辺境伯。私より若いのだから大丈夫だろう?

 荷車に寝転がり到着を待つ。

 ああ、背中が温かい。




「グガアァァ!」


 突然の咆哮で目を覚ます。どうやら眠っていたらしい。まだ寝ていたい気持ちもあるが、咆哮の大きさに眠気が吹き飛んだ。


「え? え?」


「あ、おはよう。トモダチ」


 起き上がって周りを見渡せば私のすぐ近くにグレイがおり、離れたところにボルダー辺境伯とキジュツがいる。そしてそのボルダー辺境伯とキジュツの前には。


「あれが、竜か」


 顔だけでも二階建ての一軒家並に大きく、人を軽く呑み込めそうな口。その顔から長い首を経て繋がる背中は山脈ようだ。大きすぎて全体が見えない。

 大きさの比率で言えばこちらがハムスターで向こうが象。いやそれ以上か?

 

 こんなものを相手に戦った兵士も見事であれば、その竜の目の前で大声をあげて何かを言っているボルダー辺境伯も凄い。度胸があるな。

 しかし、何がどうなっている? 竜が咆哮を上げ、ボルダー辺境伯が怒鳴っていることから交渉は決裂したのだと思うが。


「どういう状況?」


「えっと、竜を誰が起こすかの話になった時にボルダー辺境伯が立候補。竜の鼻先を剣で叩いて起こすと荷車の荷物をくれてやるから帰れ! って怒鳴って竜もそれに応えるように吼えてうるさい。これが今の状況? ああ、キジュツは暴走したボルダー辺境伯を止めにいった。無理だったようだけど」


 ああ、なるほど。とりあえず寝ている間に悪い方向に話が進んでいるのは分かった。

 とりあえずボルダー辺境伯をこのままにしておくと面倒にしかならないので、キジュツにボルダー辺境伯を黙らせるように指示。その間にこっちは荷車の蓋をとり、運んできた物を竜に見えやすいようにしておく。


 ……キジュツ怖っ! 一瞬でボルダー辺境伯の首を絞めて落とした。

 まあ、どんな方法であれ黙らせてくれたのであればそれで良い。起きても問題のないよう遠くに放置してきてもらう。


 さて、これからは私の出番。


「どうも、私は本堂誠一と申します。言葉、通じますか?」


 もしもこれで竜が言語を持たない野蛮な生き物だった場合、竜が欲しがっている物を見せつけながら小山の跡地まで逃亡する予定だったが。


「ほう、今度はまともに話せる相手が出たか」


 幸か不幸か、私の翻訳能力が通じて話せてしまった。

 後はこの竜の性格次第。私たちと似たような常識と良識を持ち合わせているのか。あるいは……。


「まともなお話をしたいとは思っております。貴方の名を聞いてもよろしいですか?」


「名、か。いや、名を教える意味はない。竜と呼べ」


 名を教える必要がない、と言われたときに最悪の想定をして一瞬身構えたが、竜と呼ぶように言われて安堵する。

 意味がない理由について尋ねたかったが、今はまだ踏み込みすぎと判断して止める。


「では竜さん、貴方が欲しいのはこちらの熱の魔石でよろしいですか?」


 蓋を取った荷車を竜の目の前まで運び確認をする。もし間違っていても話が通じる相手と分かったため、取れる行動はいくらでもある。

 とはいえ、これが正解であることが一番なのだが。


 さて、どうか。


「……熱の魔石?」


 間違えたか。他に竜が欲しそうな者に心当たりもなく、欲しいものを聞き出すと同時に時間を稼ぎ、それを探してもらう方法を考え始めるが。


「うむ、これだ。そうか、熱の魔石と名付けたか」


 杞憂に終わった。名前が違うだけだったか。知識を共有していなければ名の違いなど良くあること。


「おや? 名前が違いましたか?」


 話を広げる切り口になると思い、相手の言葉を誘うも。


「いや、良い。それよりその量では足りない」


「では足りない分は後で持っていきましょう。まずはこちらを」


 竜の反応はそっけないもの。数が足りないのはどうにでもなるが問題はこの熱の魔石を渡すのか、持っていくのか。

 渡せばまずはここで別れることになる。後で持っていく際に私の翻訳能力が必要になるだろうから、魔石の運搬に付いて行くことになるだろうが。持っていくとなれば、熱の魔石を竜と共に小山の跡地まで運ぶことになる。


 今は少しでも竜と接触し、考えや竜について色々と知りたい。


「持っていきましょう。えっと、どこに運ぶのか案内をお願いできますか?」


あまり話すのが好きではないのか、口が重いがそれは未だに関係を構築できていないため。会話を繰り返せば少しは口も軽くなるはず。

足りない分を掘りに行く、と言われないようにしっかりと対処もする。


「分かった。こっちだ」


 尾を背中に回してこちらを潰さないように配慮して、来たであろう出来立ての道を竜は戻っていくが。


「……遅いぞ?」


「さすがに竜さんと同じ速度で移動は出来ません」


 木々が踏み倒されて、凹凸の多い道。更に竜が歩くたびに地面は揺れ、こちらには荷車という重荷もある。

 普通に歩く速度よりも遅いのに、バカでかい竜の足について行けるはずがない。

 誰だって時間がかかるのは嫌だ。ならば少し踏み込んでみよう。


「それでしたら、竜さん。乗せてもらえませんか?」


 簡単に時間を短縮できる方法として提案する。もし竜が生物を乗せて移動することに抵抗があった場合面倒になりえるが。


「良いだろう」


 特に抵抗もない様子。実に助かる。

 しかし竜に乗れる場所は限られている。尾は当然のように無理、背中の山脈のように険しく人はともかく荷車を置くのは難しいし、揺れで落ちる可能性が大きい。

 唯一、平たく広いところと言えば。


「このような所ですみません。しかし熱の魔石を欲しているという私の考えが当たって良かった」


 竜の頭。やや傾斜があるが僅かな凹凸を利用すれば荷車を簡単に止められる。

 しかも竜の頭を狙った理由はそれだけではない。


「……ふむ。確かに良く分かったな。ホンドウだったか? お前と会った記憶はないが?」


「会ったことは、ありませんね。実は私たちは竜さんが行動を始めた時に近くにいたんですよ。その時に竜さんがいた場所にただの魔石がたくさん転がっているのを見ましてね。そして竜さんの進む先にあるものを考えて答えを導き出した次第です。竜さん、昔から山を掘って熱の魔石を回収していませんでしたか? 細い谷がいきなり広がる不思議な地形は竜さんが作った物ではないか、と思っていましてね」


 会話のしやすさ。それが本命。会話が出来ないのでは竜と共に行動している意味がない。

 キジュツは熱の魔石の採掘を再開してもらうため、それとついでに気絶しているボルダー辺境伯を基地に送り届けるためここにはいない。

 グレイは私と共に行動してくれているが、光線銃がない以上戦力には数えられない。こういった会話も、得意ではなさそうなので私が前に出るしかない。


 揺れる頭、高さ特有の冷たい風、そして会話の相手は竜。口を動かし続けないと緊張で心臓が止まりそうになる。


「その通りだ。あれは昔に……ぬ? 何故ホンドウと会話が出来ている。もしやホンドウ、お前は」


「はい。私は人に召喚された召喚獣です。召喚された際に少々問題がありまして、このように誰とでも会話が出来るようになりました」


 竜が召喚獣について知っている。意外な情報を得たが、意外だったのは竜も同様らしく足を止めてこちらを見ようと頭を上げる。

 止めて、頭を上げないで。落ちるから。


「そうか……。そのようになっているのか」


「おや? 何かご存じで?」


 再び足を動かし始めた竜は何かを納得したように呟いた。

召喚について知っているのであればもしかしたら元の世界への帰還方法も知っているかもしれない。がっつくことはせずにまずは話を促す。


「……遥か昔の話だ。この世界の生物のほとんどは我ら竜が召喚した」


 ……はい?


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