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お嬢様は竜と相対する

 教会が語る神話にこんな話がある。


 かつて人々は神の住まう神域に住んでいた。

 しかしそこに邪悪な竜が攻めてきて、人々を追い出してしまった。

 神は抗うも竜には勝てず、神域は竜が占領した。

 人々は竜から少しでも遠くに逃げた。


 これが教会の連中が言う南の大陸と我が国に人がいる理由らしい。

 最初にこの話を聞いた時に我が国は逃げ遅れた人の末裔か、と憤慨したものだが。


 一つだけ、あの神話に真実があった。


 竜は強い。


「くそっ、くっそ! こっちを向けええ!」


「フレイムランス! ファイアボルト!」


 兵士が剣を突き立てても鱗一つ傷つけることが出来ず、魔法を放てど竜は気にする様子も見せない。

 全兵士が広がって好き放題に竜に攻撃しているのに、竜は気にせず前進を続けている。

 

 私たちは竜に敵と認識すらされていない。


「攻撃を続けろ! 目以外であればどこでも良い! 弱点となりそうな場所を探し出せ!」


 ボルダー辺境伯の号令の下、竜の背中に登り剣を突き立て、尾や足の根元に矢を打ち込む者もいるが成果は出ていない。逆に移動の際に振り落とされて踏み潰されたり、尾に弾かれた木々に圧し潰されたりする者が出てきた。


 心が折れそうになる。竜はただ前進しているだけなのにこちらの死傷者が増えていくのだから。

 こちらの攻撃の戦果は竜に鬱陶しそうに首を振らせただけ。首を振った際に竜の前に立っていた者は吹き飛ばされたが。


 打つ手が、ない。


「目を、目を狙いましょう! そうすれば少しは手傷を負わせられる!」


「駄目だ馬鹿者! 目を狙えば最悪敵と認識されて全滅するわ! 敵と認識されていないことを利用しろ! 目を狙うのは最後、基地にあるバリスタで一気に両目を潰す! それまでは逆に目への攻撃をせず、警戒をさせるな!」


 誰かの進言をボルダー辺境伯が怒鳴って否定した。

 確かに私たちの矢や魔法が竜の目に当たろうとも精々ゴミが入った程度。多少痛がらせることは出来るかもしれないが、失明までもっていくことは絶対に出来ない。

 それならば基地にあるバリスタに期待を寄せた方が良い。目に棘が刺されば竜だろうが派手に痛がるはず。


 ……ああ、そうか。バリスタに期待を寄せることで士気を保とうとしているのか。ここで目に攻撃してまるで通じなかったら、魔法で防がれてしまったら。打つ手がないと分かってしまったら誰もが戦えなくなる。心が折れて、諦めてしまう。


 一矢報いる。その可能性だけで心を支えさせる。


「次は一か所を集中的に攻撃……待て!」


 戦法を切り替えようとしたところ、竜は突然辺りを見回すと身体を丸めて動かなくなった。

 何らの攻撃が効いたのだろうか? だが辺りを見回したのは何故。

 何かがあるのか自分も見回し、実に嫌なことに気付いた。


 日が沈みかけている。


 竜は日が沈むから休むことにしたのだ。攻撃していた私たちのことなど一切気にせず。

 大物退治の常套句の一つに寝込みを襲うというものがあるが。


「……撤退する。攻撃は絶対にするな。負傷者を最優先で運べ。辺りが暗くなれば負傷者を見つけるのも困難になる。急げ!」


 残念ながら竜の寝込みを襲ったところで勝てる気がしない。傷一つ付けるのも無理だろう。ただ寝ようとした所を起こされたことで怒り、全滅させられる未来しか見えない。


 私たちは竜に敵と認識されず、戦うことも出来ずに敗北した。




「兵士はすぐに休め! 明日はここで防衛戦を行う。貴族は集まれ。バリスタや投石機の準備をしてもらう」


 心身ともに疲れ果て今にも倒れそうな中、ボルダー辺境伯は兵士に休みを命じ、私たちに雑用を言い渡す。

 いつもであれば逆なのだが、戦力の期待度で言えば兵士の方が上だからと私は納得して指示に従う。

 周りには明らかに指示に不満を持つ者もいたが、逆らう様子は見せない。


「集まったな。まず先に言っておく。バリスタや投石機などの準備が終わったら帰って良いぞ。馬車の用意もしてある。御者を用意する余裕はないから貴様らでどうにかしろ。以上だ。作業を開始しろ」


 集まった者たちにボルダー辺境伯はそう告げると要は済んだとばかりにその場を去ろうとする。

 待って、待って欲しい。馬車を用意して、帰って良い? それはつまり。


「ボルダー辺境伯! 今のは」


「……ルイス公爵家の令嬢か。お前が思った通りだ。この基地から退避しろ」


 背後でワッと嬉しそうな声が上がるのとは逆に、私の中に不満が生まれる。


「待ってください! それではこの基地は、ここの兵士は――」


 危機を目の前に逃げ出すなど貴族のすることではない。受け入れがたい命令に反対しようとしたが。


「良いか小娘! 貴様らが死んだ場合責任を誰が取ると思う。俺だ! ここで勝とうが負けようが貴様らに死なれるとこの領地の未来がなくなる! それに、今回の危険性を平民の兵士が訴えるのと、貴族が訴えるのでは受け取る側の危機感が大きく変わる! 戦った者の言葉であれば尚更だ! 貴様らの役目は国にこの危機を伝えることであり、ここでの役目はもうない! 覚えて置け!」


 顔を抑えられ、鬼気迫るボルダー辺境伯の顔を見れば反抗する気もなくなった。

 ボルダー辺境伯の言う通り、私たちの役割は国に危機を伝えること。ただ帰る前に一仕事していけと言うだけ。

 ただ一つ、問題がある。


「ボルダー辺境伯」


「何だ! まだ文句があるのか!」


「いえ、バリスタと投石機の場所と組み方を教わっていません」


 ボルダー辺境伯の恥ずかしそうな顔は土産として覚えておこう。




「遠回りして帰ってきた所為ですっかり遅くなってしまった」


「とりあえずトモダチ、これを置いて来よう。重たい」


「なんか騒がしいね? じゃあこれもよろしく。私はへっちゃんに騒がしい理由を聞いてくるよ!」


 作業中に、おじさんたちが帰ってきたのを見つけた。


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