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お嬢様は覚悟を決める

 小山が消えた。

 災害大国から来た私もこの経験は初めて。


「えっと? 実はこういうことが稀に良くあったりする?」


「おじちゃん? 本気で言ってる? 初めてだよこんなこと」


 宇宙人や鬼やピエロがいる非常識な世界ならありえるかも、と僅かに思っていたが小山が消えて大きな道が出来るなどと言う非常識は起きないらしい。

 ではあれは何か。


「まあ、ウドがいるくらいなんだ。小山が動き出したところで何もおかしくはないのだろう」


「そのウドってのは知らないけど、小山が動くのは十分おかしいこだと思うよ。……おじちゃん? 何やってるの」


 巨人がいるのだ。巨人よりも大きな奴がいても不思議ではない。それよりも私がここに来たのは小山に生えていた植物を探しに来たのだ。

 小山が跡地にそれがないか腰を落として探していたのだが。


「いえ、ちょっと意外なものを見つけてしまったのでな。……全部持って帰ります?」


「ああ、確かに何でこんな所にこれがたくさんあるんだろう? 持って帰りたいけど数がなあ。グレイちゃん、何かいい案は……? グレイちゃん?」


 こちらが小山の跡地を見ているのに対し、グレイだけは光線銃を見てから困ったように空を向いていたのだ。

 何かあったのだろうとは想像が出来たが。


「エネルギーが切れちゃった。一日か二日は何にもできない」


 最強の戦力を失うことまでは想像していなかった。




「何だ! 今のは!」


 突然の巨大な魔力の放出。それからやや遅れて地が揺れ、雪を巻き上げた突風が吹いた。

 誰もが察知できる異常事態。いつも静かな極寒の森林が騒がしい。


「作業を中断! 道具はほっぽり出してもいい! 熱の魔石だけは魔石同士くっつくことがないように丁寧に置け! その後装備を整えて基地の北門に集合! 飛行系の召喚獣を持っている奴は今すぐ極寒の森林の様子を探れ! 急げ!」


 ボルダー辺境伯は緊急事態と判断。採掘作業の中断と戦闘配置を命令。道具をその場に捨てても急げとなればどれほどの事態と考えているのか。

 私も部下たちもその命令に否はなく、大急ぎで北の前線基地に戻り武装する。


「リリーナ! おじさんがどこに行っているか知らない。グレイもそれについて行ったと思うんだけど!」


「いつもの屋台じゃ、休日? 基地にいないの? ……大丈夫、極寒の森林に行く理由はない。前みたいに町の方に買い出しに行っているだけよ」


 ポーラだけではなく自分にも言い聞かせて、北門に向かう。

 北門にはすでに多くの兵士が集まっていた。誰もが緊張した顔持ちでボルダー辺境伯を待っていた。


「あれかな、スタンピードかな?」


「どうでしょう? 以前に聞いていたスタンピードとは条件が合いません。スタンピードには前兆があって魔物の数が異様に多いか、逆に姿が見えなくなるか。それに天候の不良で森の恵みが少ない、一部の魔物だけを狩り続けるなど何かきっかけがあると聞いています。ですが、今回はそのきっかけも思いつきませんし」


 兵士総長の顔が浮かぶ。魔物を嫌い、スタンピードを憎み、誰よりもスタンピード発生の原因究明に力を注いでいる人。その人の話と今回の一件は一致しない。

 では何か。異常な魔力の放出。地揺れと吹雪。

 ……想像が付かない。


「集まっているな。まず状況の確認を行う。先程の異常な魔力の放出は皆確認しただろう。飛行型の召喚獣を持っている奴に周囲の確認を行ったところ、近辺から魔物が消えたことが分かった。いつもみたいに隠れているわけではない。全力でここらから逃げている姿を確認した。このことからスタンピードの可能性は消えた。代わりにもっと面倒な可能性が出てきたが……。現在調査中だが、まあろくでもない結果だろう。最悪の事態を想定し、覚悟を決めるように」


 北の精鋭の兵士の前で最悪の事態を想定して覚悟をしろ? つまりボルダー辺境伯は辺境伯領の存亡の危機と考えているのか。

 いや、辺境伯領を滅ぼせるほどの脅威がここを抜ければどうなる? 他の貴族に止められるか? 無理だ。国が総力を挙げて対処しなければならない。

 つまりここが、国家防衛の第一線。そこまでの脅威が迫っていると?


 それからしばらく待っているとボルダー辺境伯に更なる情報が入った。


「そうか、分かった。お前たちはそのまま監視を続けろ。何かあればすぐに知らせろ。さて諸君! 素晴らしいことに出陣することとなった。防寒に不安がある者は今すぐ熱の魔石を取ってこい」


「閣下、余程の脅威であればこの基地で戦われた方が良いのでは?」


「そうだな。スタンピードを想定しかなり堅固に作った。相手がどれほどの大群だろうと簡単には落ちないだろう。自慢の基地と言える」


 ならば尚更ここで戦うべきではないだろうか? 防衛施設を使って戦うのと戦わないので被害に大きな差が出るはず。それが分からないボルダー辺境伯ではない。

 ならば何故、という疑問はすぐに氷解した。


「ただし、相手がちょっとした山ほどになる大きな生物となれば別だ。兵士には分からんだろうが、貴族ならば学院で学院長の召喚獣である巨人を見たことがあるだろう。あれよりもでかい生物だ」


 巨人よりも大きい、山に匹敵するような生物? 

それの前ではこの基地など砂の城も同然に壊され、飛ばされた防壁に押しつぶされて死ぬ姿が容易に想像出来た。

 この基地が役に立たない。それは分かった。だが。


「そ、それは……。勝てるのでしょうか? 我々だけで?」


「勝敗は二の次だ。重要なのは戦って少しでも相手の情報を集めること。言ったはずだぞ、覚悟を決めろと」


 遠回しに勝てないと告げている。次に戦う者の為にその身を犠牲にして情報を集めろと。

 つまり捨て石。国を守るための命の盾。


 不満はない。貴族として生まれた時に国の礎となる覚悟はできている。それが今になっただけ。


「出陣する!」


 だが易々と負けてなるものか。

 どんな相手であろうと手足の一本は貰っていく。


 それが貴族としての使命。

 それがここにいる兵士の矜持。


 必敗の戦場へ、意気軒昂で挑む。


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