おじさんはおでん屋を始める
温泉の件は保留にした。
場所が場所であり、それに手を加えないと温泉として入ることも出来ない。
今はそんなことに割く労力はないので保留。
勿論温泉化するにはどうすれば良いのか、計画だけは建てる。それと前線基地にこの手の工事が得意な小人がいるかどうかの確認も行っておく。
それと不凍熊だがあれはボルダー辺境伯に奪われてしまった。
私とキジュツで頑張って前線基地に運び、さてどうしようかと悩んでいたところにボルダー辺境伯がやってきて、不凍熊を見つけると大急ぎで部下たちを集め始めた。
話を聞くと不凍熊の解体には特別な方法があり、こちらに任せてほしいと。
肉はこちらにくれるというので喜んで渡す。解体が楽に済んだ。
おそらくボルダー辺境伯が欲しいのは肉以外、毛皮か骨か。もしもボルダー辺境伯が解体の報酬を求めてきたらそれの話をしよう。
そんなわけで今は組み立てたあれの試運転中。他にも本格的にやる前に色々と試したかったことがあるのでそれも一緒に試す。
「ほんのり甘みがあるが十分美味い。しかしどうしても想像とずれが出るなあ」
「そうなの、トモダチ? ボクは十分だと思うけど。うどん頂戴」
「ふっふっふ、おじちゃんは本当に面白いねえ! こんなのをわざわざ持ってきて作る? 農作物を集めていたときは何かと思ったけど。これが目的とは。私はゆで卵で」
小人に組み立て式で作ってもらったのはおでん屋の屋台。具材を熱するのに熱の魔石を使い、組み立てを少しでも容易にするため車輪はない設置型の屋台。
「反応が良好なら別に良いか。一度こっちに立ってみたかったんだよ。屋台の作る側」
ロマン、というほどのことでもないが一度はやってみたいと思うだろう。私のような歳であれば尚更。
さて、そろそろ出汁が染み込んだ野菜にも手を出そうか。
「それで、トモダチ。ここで美味い不味いと言っていれば良いの?」
「そうだね。それも重要だけど、居心地とかそれぞれの適正価格を決めたい。ついつい頼んじゃうくらいの値段が良いな」
「となるとやや安い程度だね。居心地は、足元が寂しいかな。普通の人からすると寒いんじゃないかな」
「足元か。熱の魔石をいくつか置くか」
「良いねえ。熱の魔石の消費が増えれば魔石売買の収益が増えるし、この屋台もボルダー辺境伯領の収入が増えるきっかけになるんだろう?」
「収入が増える、というのはついでですかね。本命はそっちじゃないので」
あれだ、これだと騒ぎながらも屋台運営の話をしていると、営業中でもないのに客がやってきた。
ボルダー辺境伯だ。
「へっちゃん、いらっしゃい」
「へっちゃんと呼ぶな。ふむ、どうやら順調のようだな。しかしこれで本当に上手くいくのか?」
「さあ? 私は上手くいくと思っていますが、絶対にとは言えません。むしろ、この世界に、この基地に詳しいボルダー辺境伯はどう考えているんですか?」
「……上手くいくだろう。様々な情報を集め、何度も考えを巡らせた。その結果、確信した。君の話通りになると」
「では、ある程度は便宜を図ってもらえますか? とりあえず、具材となる農作物についてですが、町の商人にすでに話を通しているのでその方から買い取りをお願いします。それと熱の魔石がまだ必要なので融通してください」
僅かに嫌そうな顔をしたボルダー辺境伯に意外そうな顔で返す。
全てボルダー辺境伯の利益になるのだから。
具材の買い取りについては計画していることの延長線上の行いであり、ボルダー辺境伯と前線基地だけで止めないための必要な措置だ。
熱の魔石についても消費先を増やすのだから不利益になることはない。
魔石の売買。最初私は熱の魔石を輸出していることだと思っていた。しかし実際は違った。熱の魔石は需要がない。熱の魔石を必要としているのは北だけなのだ。
国の中央も、開拓中の東西も、どちらも温暖な気候で涼しくなることはあっても寒くなることはない。熱量も一つでは微妙であり、複数運ぶにも不便。ならば火を起こした方が早い。なので熱の魔石は必要とされていない。
ではどうやって利益を上げているのか。使い終わった魔石を輸出していたのだ。
魔石には熱を溜める性質がある。それと同じように、冷たさを溜める性質もあった。
熱を放出しきった魔石を特殊な環境に置くことで今度は冷たい魔石が出来上がる。ボルダー辺境伯はそれを輸出していた。
キジュツが教えてくれた。
熱の魔石の消費先が増えるのはボルダー辺境伯にとって決して悪い話ではない。強いて問題点を挙げるとすれば。
「まさか、面倒だとか言いませんよねえ?」
熱の魔石の採掘は常に最低限に抑えている。理由は単純に保管する場所がないからだ。大量に掘り出して保管しても、魔石同士が接すれば高温を発するためある程度離す必要がある。魔石同士を離せば必要となる空間は必然的に広くなり、保管するには相応の広い場所がある。
その広さに対して保管できる量は少ない。ならば必要な時に採掘すればいい。
採掘の頻度は一月に一度。丁度私たちが来る前に行ったのでやるとしても半月先。
当然最低限しか掘っていないので、私に回せば兵士たちが困ることになる。となれば。
「この私に掘ってこいと?」
ボルダー辺境伯が掘ってくるか、他の兵士に掘りに行かせるか。しかし私が欲しいと言ったから、予定にない採掘活動をさせられた兵士は不満を覚えるだろう。貴族の指揮官と接する機会が減ったとかそんな感じで。
だから採掘に行ける人員は。
「申し訳ありません。私はこの屋台の下ごしらえをしないといけませんので」
「ボクはトモダチの手伝いをする」
「せっちゃん? 私が手伝うと思う?」
ボルダー辺境伯しかいない。
溜息を吐いたボルダー辺境伯はやけ食いをして、適正価格を付けて行ってくれた。




