おじさんは極寒の森林を徘徊する
「寒い、想像以上に寒い! 予想を超えて寒い」
今日は極寒の森林にある食物を探しに出てきた。
勿論私一人では遭難、もしくは魔物に出会って人生を終えるだけなので優秀な護衛にも来てもらっている。
グレイとキジュツ。お馴染みの者たち。ただ許せないことがあり。
「グレイちゃん、見て見て。親指が~、離れる、くっつく!」
「え? ああ、なるほど。僕の指だと、難しいかな?」
まるで寒そうにしていない。こちらは北専用の防寒着を着て寒いのに対し、グレイもキジュツもいつもと同じなのにまるで寒い様子を見せない。
寒さに強いのだろうか。
「いや、おじちゃんは大変だね。私たちは召喚主からの魔力で体温は保たれるから暑い、寒いは感じないんだよね。直接火とか雪をぶつけられれば違うけど」
ぐぬぬ、何とも羨ましい。食事不要だけではなく体温管理もしてくれるのか。
まあ、魔物退治のために今の私より薄着でこの極寒の森林を巡回している兵士もいるので私も良い方なのかと思い直して先に進む。
向かう先は巡回ルートから外れている山寄りの部分。巡回は森林の奥へ行くが、そちらは危険と判断して森林の手前となる前線基地から山寄りの部分を歩く。
この辺りなら魔物は少なく危険も――。
「トモダチ、止まって。雪の中に熱源がある。生物? 撃つね」
「おや? 雪の積もった木の枝に擬態している蛇がいますね。私の目は誤魔化せませんけど?」
危険はいっぱいだった。
グレイが雪の積もっているところに光線銃を向ければ、胴体に大きな穴の空いた白い狼が出来上がり。
キジュツがナイフを投げれば枝から何かが落ち、探してみるも血が周りの雪に滲むまで見つけられないほどの迷彩能力を持つ首のない蛇が見つかる。
二人がいなければ遭難より早く餌になっていただろう。
「怖いねえ」
学院の近くの魔物はここまで狡猾ではなかった。北の魔物は強いというのは本当なのだろう。
「あ、蜜氷柱だ。おじちゃん、食べる?」
「蜜氷柱? ああ、樹液の氷柱ですか。色付きの氷柱は初めて見ますね? もしかして村人が言っていた赤い樹液を出す木ってこれですか? ならこの根元に、ありましたね」
木の根にある雪を掻きわけると、そこには根本は白く傘は青みがかったキノコがあった。
聞いた通りならこれは氷茸で、熱の魔石などの温度の高いに物に触れさせると。
「凄い、溶けてる! キノコの形をした氷みたいだ」
指に付いた溶けたキノコを舐めてみれば、苦みと旨味。キノコに葉野菜が加わったような味。おそらくこの氷茸をそのまま食べても味は微妙。珍味と美味の違いか。
ただ活用は出来る。では早速回収。
ほかに村人から聞いたのは。
砕氷ハチミツ。細かく砕いた氷、つまりシャーベット状のハチミツであり、それより甘いものはない。希少で非常に価値が高い。
「それは森林の奥でしか手に入らないですねえ」
不凍熊。この極寒の森林の上位者であり、雪などに擬態する魔物を鼻で嗅ぎ分けて食べていく。真っ赤な毛並みで自身の居場所を教え、襲い掛かってくるものを返り討ちにする。その肉は熱く、極寒の森林に放置しても凍ることはない。薄く切って軽く火で炙るだけで凄く美味しいらしい。
「あれは極寒の森林全体を徘徊していますし、個体数は多くはないので見つけるのは困難ですね。それに私一人では倒せるか怪しいです」
蛇を華麗に仕留めたキジュツでも一人で倒せるか怪しい魔物か。でもこっちには防御不可能のグレイがいるから怖くはないな。
ただ森林全体を徘徊するのであれば見つからないかもしれない。
竜の髭、苔、伊吹などなど。
一つの植物に様々な名称がある、と思いきや全く違く、極寒の森林の奥にある小山にしか生えていない植物たちの名前。
小山を竜に例え、そこにしかない植物の頭に竜を付けているだけ。しかし味や効能は素晴らしく、食べたら傷の治りが早くなった、寒さに強くなったなど様々。一部では若返ったなどと。
胡散臭いな。
「ああ、それは見たことがあるよ。ただあの辺りは魔物が多くて大変だよ。ああ、魔物もそれを狙って集まっているのか」
ふむ、存在と味の話は事実のようだ。魔物すら集めるほどの食物。食べてみたい。
というか。
「え? ではこの辺りで見つけられるのはこの氷茸だけですか?」
「そうだねえ。まあ、村人が客人に話すのであればそこら辺で見つかる物じゃなくて珍しいものになるから仕方ないよね。はい、おじちゃん。蜜氷柱あげるよ」
貰った蜜氷柱を舐めながら考える。もう少し食材が欲しい。
おそらく他にも食材はある。話に出なかっただけで。しかし雪の中に埋もれているであろうそれを事前情報なしで見つけるのは困難。
しかしこの蜜氷柱は甘いな。最初の内は水同然だが、舐めていると段々と甘さが出てくる。根元に樹液が溜まっているということだろうか?
しばらく歩くと木々のない場所に出る。なんだろうここは。森林の中に道でも出来たかと思うように長い範囲で木々がない。
「ああ、ここは河ですよ」
河? 足元の雪を取り除いてみるとそこは土ではなく氷。道に見えたのは河だったのか。
私の隣ではグレイが光線銃を下に向けている。おお、ぽっかりと穴が出来た。
「トモダチ、表面だけ固まって下では水が流れている。これなら魚もいると思うよ」
魚か。極寒の森林の河に生息する魚。実に美味しそうだが釣り道具はない。というか準備もせずにワカサギ釣りのような真似は出来ない。
しかも表面だけというが氷の厚さは一メートル近い。ここで魚釣りをするならグレイがいなければ出来ないだろう。
いつか釣り道具を揃えて皆で釣りをしたい、と思っていると山の壁に裂け目があるのを見つけた。近くまで行ってみれば立派な洞窟。
「臭いな」
ただ臭い。しかしどこかで嗅いだことのある臭い。どこだったか。いや、それよりも。
「グレイ、ここ大丈夫?」
「ちょっと待って。……うん大丈夫。ただこれの濃度が高いとまずいから奥に行くなら僕が先頭になるよ」
光線銃で洞窟内を照らすように調べてくれた。便利な光線銃だ。
そしてこの奥か。気になる。キジュツの方を見てもここは知らないと首を振ったので。
「じゃあ、お願いできる?」
早速洞窟の中を探検しようとした直後。
洞窟の奥からのっそりと真っ赤な毛の巨大な熊が現れた。
熊はこちらを認識すると一気に加速。距離を詰めてくる。さながら小型トラックでも突っ込んでくるかのようだ。
しかし熊がこちらに到達する前にグレイの光線銃が光ると。
頭から胴体にかけて貫通している穴が出来上がり、熊は地面を滑るように倒れた。
「トモダチ、これで大丈夫」
グレイが先頭で良かった。私が前だったらこの歳で失禁していたかもしれない。おむつはまだ履きたくはない。
ともかく運よく食材を手に言えた。
後でこの不凍熊を回収するとして洞窟の奥へと進む。
奥に進むにつれ、洞窟の温度が少しずつ上がっていき。
「トモダチ、あれだ」
洞窟の奥に湯気の出る小さな滝を見つけた。
湯気が出ている以上、あれは湧き水ではなく。
「あっつ!」
火傷するかのような暑さ。グレイに調べてもらったところ毒性はないらしい。
どうやら温泉を発見したようだ。




