おじさんは北の前線基地を後にする
前日のボルダー辺境伯の一件の騒動はなかったことにされ、召喚主たちは戦える召喚獣を連れて早速魔物の討伐に向かった。
戦えない召喚獣はお留守番、というのも退屈なので早速動くことにした。
「てっきり、あの木片の組み立てをするのかと思ってた」
「組み立てるのはまだ先だな。まずはここら一帯のことや、採れる農作物を知らないといけない」
それにあれを組み立てたところで置く場所も決まっていない。まだまだ解決すべきことは多くある。
その一つとして。
「それで、何で貴女がいるんです?」
「いやぁ、こちらの方が中々に愉快そうに見えたもので。ご一緒させて頂く代わりにこのように馬車もご用意させて頂きましたし」
前線基地からまた谷間を通るのは徒歩ではやや辛いと思っていたので馬車を貸してくれるのは非常にありがたかったが、ピエロマスクの真意は未だに見えない。
グレイはともかく私は先の一件もありボルダー辺境伯はかなり注意しているはず。だから監視なのかと思ったが、それなら馬車を出さなければいずれ解決策を見つけるとは思うが時間稼ぎは出来たはず。
どうもボルダー辺境伯とピエロマスクの考えが分からない。私を基地から遠ざけたいだけだろうか。
「ああ、そう警戒なさらず。別に害意などは持っていません。本当にこっちの方が楽しそうだと思い、私が勝手に動いているだけですから。ふむ、少しでも警戒を解いてもらえるように自己紹介でも致しましょうか。邪神の眷属、ピエロマスクと申します。特技はナイフの扱い。召喚されて長いですから、もし北のことで知りたいことがあれば仰ってください。気が向けばお手伝いもしますよ」
「そうですね、疑ってばかりでは何も進展しません。私は、何の眷属でもないな。一般的な人間の本堂誠一と申します。特技は、なんでしょうね。仕事でなら調整や仲介などが得意と言えたのでしょうが、こっちでは人間関係の構築からしないといけませんから。つまり、ただのおじさんです」
「トモダチが良いなら。ボクは、宇宙の眷属、星の眷属という呼び名もあったけど。トモダチの視点で言えば宇宙人。グレイという名をトモダチがくれた。特技は、歴史の編集? 各宇宙の歴史の情報を扱う業務だった」
グレイの仕事か。初めて聞いたな。良く話をする間柄ではあるつもりだが、会える時間が短いために無駄話をあまりしなかったからな。
時間が出来た時に聞いてみようか、それとも大きく発展した世界の業務など理解出来ないだろうし止めておこうか悩んでいると、マスクピエロが先に話しかけてきた。
「ほほう、グレイはおじちゃんから貰った名前ですか。良いですねえ。思えば私も種族名であって個人を示す名前ではありませんから。おじちゃん、どうです? 私に名前をくれませんか?」
「トモダチにナイフを投げた癖に」
「いや、その件につきましては本当に申し訳ないと思っているんですよ? 言い訳をするようですが、うちの世界はずっと争いが続いていまして。眷属は他の神の眷属を殺すのが日常で。私の言葉を理解しているように見えたおじちゃんは他の神の眷属だと思いまして。まさかどんな言語でも翻訳するとは思っていなかったので」
ハッハッハ、と悪びれもなく笑うマスクピエロにグレイは不愉快そうに睨む。そんなグレイを宥めるように頭を撫で、マスクピエロには笑顔で応じる。
「次は困るのでないようにお願いしますね。それと、名前の件ですが私で良ければ付けさせて頂きます。ただ人柄が分からないと難しいので、今はピエロさんと呼ばせて頂きます」
「ええ、分かりました。それではいずれ良い名が頂けるように少しでも点数稼ぎをしておきましょうか。何か知りたいことはありませんか? 北のことであればそれなりに詳しいですし、口が軽いものでボルダー辺境伯のことだろうと簡単にお話ししますよ」
嘘か本気かまるで分からない口調でピエロは喋る。しかしこの程度であれば似たような人を何度も相手にしているので問題はない。
「それでは遠慮なく。北の農作物とそれの良い調理法はご存知ですか? それと北の大きな町に行きたいですね。商人と繋がりを持ちたいので。ああ、それとボルダー辺境伯が何かお困りのことがあれば知りたいですね」
多少突っ込みすぎるぐらいが丁度いい。重要なのは期待しないこと。もしも冗談で言ったのであればボルダー辺境伯については先の一件のことを面白おかしく言えばいい。もしも本気であれば。
「まずは近くにある町に行きましょうか。領主の屋敷がある町ですから北で一番大きいですよ。そこなら商人が何人もいますので使える奴が見つかるでしょう。その後に村々を回って村民から話を伺ってはいかがですか? 私、食べ物には詳しくないので。それと、ボルダー辺境伯が困っていることは」
ふむ、とピエロは何を言おうか迷うように顎に手を当て。
「支出が多くて収入が少ないことですかねえ?」
あっさりとボルダー辺境伯が困っているであろうことを口にした。
口が軽いのは本当のようだ。




